差し入れ④
買い取り
「なあ、ルナ」
「なんです?」
何故か嬉しそうなアルフさんに聞いて来る。
「新しい子と言っておったが、どんな子だ?」
「リツさんの奴隷です。今度、リツさんが、受け入れることになって」
「奴隷か」
「はい、あの家の管理の為に。ただ、その子は魔法適正が高くて、体格も悪くないし。まあ、無理強いはできません、リツさんの奴隷だし。本人に聞いてからですが」
ふーん、とアルフさん。
「年は?」
「15才の男の子です。いろいろあったみたいです。詳しくは私からは」
「そうだな、だが、リツ達はなんで冒険者に拘る?」
「多分、錬金術の為の素材を手に入れたいみたいです。エリクサー作りたいって」
「は? エリクサー?」
アルフさんが、ちょっと間抜けな声を出す。
「はい」
「ああ、そう、そうか…無理じゃないか?」
私もそう思います。
「そのうち、気付くかなって。ダンジョンも行きたいみたいだし、私はそれまで皆を守らないと行けませんから」
「そうか、それで、戦力強化したいわけだ。しかし、ダンジョンはともかく、エリクサーは無理だろうな。リツとマリは光魔法使えるから、作らんでも良さそうだか」
「私もそう思います」
それ、私も思いました。
話をしていると、オルファスさんが戻ってきた。
「お待たせしました、さて、解体についても話をしないといけませんね」
あ、そうだった。ブラックトレントとブラッディグリズリーの解体後の引き取り部員ね。
「ブラックトレントは捨てる所はありません。葉は上質な肥料、木材は武器や盾、高級馬車、皮は染色材料、木の実は美味しいですからね。魔石も上質でした。出来れば、多目に木材は買い取らせていただきたいのですが」
「アルフさん、もらってください」
「はあ? ルナをか?」
何を言ってるのこの人。凄く驚いているけど、あ、私の説明不足だ。
「トレントの買い取りです」
説明をする私。
「アルフさんが倒したようなものだし、私は槍の柄に必要な木材、木の実があればいいので、残りはどうぞ」
木の実は持って帰れば、きっと美味しい料理かお菓子にしてくれるはず。
「あ、そうだな、そうだよな。だが、貰いすぎだと思うが」
「貰ってください」
アルフさんは少し赤い顔で考える。なんだか嬉しそうに見えるのは、きっと鍛治師としてのさがだね。
「なら、そうだな、木材を3割、あとルナ、魔石はいいのか?」
「あ、そうですね、でも、アルフさん、魔石いりますよね」
「グリズリーの方があればいいぞ」
「そうですか、なら」
私は木材2割、木の実、魔石。
アルフさんは木材3割。
残りは買い取り、解体料金を引いた差額を私とアルフさんで半分になる。
「グリズリーは?」
「ルナ、何かいるか?」
「いえ、私にその権利ないし」
とんでもない。私は手を振りながら横に顔を振る。
「グリズリーは、キズが少ないので毛皮としては高級品になるでしょう。肝もいい薬になります」
「薬?」
そうなの? あ、マリ先輩達、欲しがるかな?
「ええ、虚弱体質や疲労に効きますよ、後、肉ですね。できれば、こちらにも回してください」
「肉? グリズリーなんて食べれるんですか?」
筋が多そうだけど。
「グリズリーは旨いぞ。よう、お袋がワイン煮込み作ってくれたな」
「ワイン煮込みって、アルフさん、お酒ダメなんじゃ」
「煮込みなら大丈夫。よし、魔石と肝、肉半分くれ。ルナ、肉と肝やるから、何か作ってくれ」
「だから、私は作れない。あ、リツさんにお願いしますので」
「楽しみにしとるぞ」
「グリズリーはあと1時間程で終わります」
1時間か、どうしようか? 待つか、一旦帰ろうかな?
「鍛治師ギルドで待つか?」
アルフさんが、言ってくれるが、あのおじいちゃんドワーフに捕まりそうだし。
「冒険者ギルドで待ちます」
「そうか、儂も登録がてら待つか」
その言葉にオルファスさんが食いつく。
「やっとその気になりましたか。さ、登録用紙です、さ、こことここです」
さ、と書類とペンを出すオルファスさん。準備いいなあ。
「アルフレッドさん、これは慣例ですので、はじめはHランクです。ただ、今回のブラックトレントとブラッディグリズリーの件もありますので、1ヶ月の依頼義務はありません。あと、申し訳ないないのですが、冒険者心得の講座も受けてください」
「構わんさ」
「あと、トレントですが、明日以降になります。よろしいですか? 査定はその時に、それぞれのギルドカードに払い込みでよろしいですかね」
私は問題ない。その旨を伝える。
気になっていた、魔の森の浅い所で出た、ブラッディグリズリーの件も報告する。
アルフさんが書類を書き上げ、オルファスさんがチェック。
「では、アルフレッドさん、講座の方はお声かけしますので、ロビーでお待ちください」
「わかった、行こうルナ」
「はい」
オルファスさんに案内されロビーに移動。
やはりチラチラ見られたが、仕方ない。しばらくしてアルフさんが、呼ばれる。
「アルフさん、タオルとエプロン預ります」
鍛治師ギルドから出てきたままのアルフさんに、声をかける。
「汗くさいぞ」
「構いませんよ。変に目立ちますから、ほら、早く」
初心者講座にこの格好はさすがにね。私は渋るアルフさんからタオルとエプロンを受けとる。
「じゃあ、すぐ戻るから、ここで待っとれよ」
「はい」
大丈夫ですよ。ふらふらどこかに行きません、そこまで小さな子供じゃないし。
アルフさんがドアの向こうに消えた瞬間。若い男性がよってきた。20代半ばの皮鎧にナイフを下げている。
「ねぇ、君、アルフの知り合い?」
「はあ」
誰だろう? アルフさんの知り合いかな?
私は腕にタオルとエプロンをかけながら、警戒心を解かずに生返事をする。
「兄妹じゃ無さそうだね。アルフ、冒険者になったんだよね?」
「本人に聞かれたらどうです?」
「あ、そうだよね。ゴメンね、本人に聞くよ。君はお使いかな? アルフ以外の保護者がいないようだけど」
大丈夫かい? と聞かれる。
悪い人ではないようだ、本当に私を心配している。まあ、未成年ですしね。
「大丈夫です」
私がちょっと笑うと、男性はピクリと固まる。
「君、めっちゃくちゃかわいいね」
「はあ?」
「あ、僕ね、バーンって言うの、アルフの知り合いならドワーフかな? 素敵だよねドワーフの女性は、懐が深いし、何より笑顔が最高だよね。僕は笑顔が素敵な人が好きなんだ。エルフが美形なんていうけど、僕は血が通ってないのはちょっと苦手なんだ。君の笑顔本当に素敵だね」
何この人ペラペラ話し出したけど。
「本当にかわいいね。名前教えてくれない?」
よし、これは、迎撃モードでいいよね。
拳で一撃。
ガツンッ
「止めないか、この子困っているだろうッ」
横から殴り付けて来たのは、ちょっときつい感じの赤毛の女性冒険者。こちらも20代半ば。倒れ伏すバーンと名乗った男性。
「まったく、ちょっとかわいい子にすぐ粉かけて、しょうがないね。後でお宅のリーダーにしばいてもらうからね。大丈夫かい? こいつは後でしっかり言っておくから」
後半は私に向かって言って来た。起き上がろとするバーンにもう一発蹴りを入れ、沈黙させる。
容赦ないね、お姉さん。
「ありがとうございます。助かりました」
お礼言わないとね。ペコリ、と頭も下げる。
「いいさ、一人かい? 他の人は?」
きつい感じの女性冒険者は、キョロキョロしている。迷子か何かの保護者を探しているようだ。
「アルフさんを待ってます」
「あ、あのアルフの知り合いかい? そのアルフはどこだい?」
「今、心得の講座に」
「やっぱり、やっと冒険者になるんだねッ」
床に這いつくばっていたバーンが飛び起きる。やったやったとおおはしゃぎだ。
なんなのこの人。まさか、パーティーにしつこく誘っているのって、まさか。
「いい年こいて、みっともない」
「何ですかこの人?」
「かわいそうなやつって言うんだよ」
私の問いにきつい感じの女性冒険者は親切に答えてくれる。
「なんかね、魔の森で危ない所を助けてもらったみたいでね。まあ、いろんな意味で目立つしさアルフは。ちょっと孤立してたし、なんか、冒険者となるのも躊躇っていたから、こいつが自分たち達のパーティーにって」
「だって、恩返ししたいじゃん。リーダーだって、アルフ気に入っているし。うちに来れば、高ランクの依頼受けられし」
なるほど。
この人は悪い人ではないが、ちょっと、熱を上げすぎているんだね。そこそこのランクなんだろう。低いランクの受けられる依頼なんてたかがしれてる。パーティーランクが高い所に入れば、たとえアルフさんのランクが低くても、高ランクのパーティー依頼が受けられるし。
「アルフはまた後で誘うとして、ねぇ、君、名前は?」
懲りてない、よし、迎撃。
私が拳を握ると。
ガツンッ
大きな拳が、はしゃぐバーンの頭を直撃した。
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