差し入れ③
解体
やはり、冒険者ギルドに入ると、ざわざわされた。そうだよね、私だって見ちゃうよ。
「ルナ、とりあえず、相談窓口に行こう」
「はい」
アルフさんに促され、相談窓口へ。
眼鏡の中年男性職員が座っていた。アルフさんの姿に目を細める。
「アルフレッドさん、観念して登録する気になりましたか?」
「だから、儂、鍛治師なんだがな。まあ、今日はちょっと別件だ。大物二体。この子が持っとる」
「そうですか。では、直接解体場に行きましょう」
中年男性は別の職員に声をかけ、席を立つ。すぐに代わりの職員が席に着く。
「此方へどうぞ」
解体場か、初めて入る。
あ、ワンピース汚さないようにしないと。
中年男性職員に案内され、冒険者ギルドの奥、解体場に入る。
血の臭いとか、凄惨な場所かなと思っていたが、案外きれいだ。数人の解体職員が、せっせと掃除している。
「さあ、皆さん。仕事ですよ」
中年男性職員の声に、解体職員が集まる。
ものすごい好奇な目で見られる。そうだよね、おかしいよね。
「それで、大物とは?」
中年男性職員がアルフさんに聞いている。アルフさんが、確認するように私を見るので頷く。
「ブラックトレントとブラッディグリズリーだ」
ざわざわざわざわざわ
そうなるよね。
「主任、どちらに出して貰います?」
中年男性職員がつるぴかの解体職員に聞く。主任さんね。
「トレントはこっち、グリズリーはこの台に」
「よろしいですか?」
中年男性職員に言われ、示された場所にマジックバックからブラックトレントとブラッディグリズリーを出す。パッツンパッツンのマジックバックが、いつもの大きさになる。
それを見て歓声が上がる。
「ひと突きか、キズが少なくていい。お前ら、グリズリーを先に捌くぞッ、さっさと取りかかれッ」
つるぴか、失礼、主任さんが激を飛ばし、自身も細身の解体ナイフを引き抜く。おお、使い込まれて、手入れもバッチリなナイフだ。
どうやって捌くのかな?
私も興味があったが、中年男性職員が、有無を言わせぬ迫力で私とアルフさんを別室に連行。
「さて、説明して貰いましょうか?」
椅子に座らされ、すぐに聞かれる。
私はアルフさんと顔を見合わせる。
「トレントから、聞きましょうか?」
仕方ない、私が説明する。
「冒険者ギルドでトレントの話を耳にしました。それで魔の森に入り、トレントと遭遇しました」
「貴方一人で?」
「はい。でも、やはり無理がありまして、危ない所をアルフさんに助けていただきました」
はしょりましたが、本当です。
「貴方は確か、Jランクの?」
「はい、そうです」
「無茶をしましたね」
わかってます。
中年男性職員はため息。
「で、グリズリーは?」
「あ、それ、儂」
軽いねアルフさん。
ひきつっているよ、職員さん。
「アルフレッドさん、貴方ね、いい加減に冒険者登録していただけません? 冒険者でもないのに、あんな大物持って来られたらメンツというものがね」
あ、そうだよね。鍛治師がブラッディグリズリーなんて狩らないよね。上級ランクの冒険者対応の魔物だしね。ほぼ、ひと突きだったし。
中年男性職員の後ろに、オーラが見える。怒りのオーラが。
「いや、儂、鍛治師だし」
「いい加減にしなさいッ、どこにブラッディグリズリーをひと突きする鍛治師がいますかッ、それでなくても貴方ね、ゴブリンやらコボルトやらアントをあれだけ持ち込んでッ。普通なら、すでにこの3ヶ月で、Eランクですよッ、最低Eですからねッ」
おう、すごい迫力。しかし、3ヶ月でEって、どれだけゴブリン達を狩ったんだろう? 普通Eまで上げるのに一年はかかるのに。やっぱりアルフさん強いのね。
しかし、あまりの迫力にアルフさんもたじたじしてる。
「ちょっと事情が、あって、な」
歯切れが悪く、アルフさんが明後日の方を向く。
「あの…オルファスさん、商人ギルドの方が見えてます…」
ドアから、申し訳ないように、女性職員が声をかけてくる。
「は、そうでしたね。ちょっと失礼して、席を外します」
ほっとしているアルフさん。
「直ぐに戻りますからね。ここにいてくださいよ」
しっかり釘を差し、中年男性職員、オルファスさんは部屋を出ていった。
残された私とアルフさん。
「アルフさんは、冒険者になれない理由って鍛治師ギルドの為ですか?」
私が、思いきって聞いてみた。
「それもあるが、儂自身がこれからどうしようか、まだ決めきれてないんだ。今の忙しさが収まれば儂は用済みだろうし」
「用済みって、あの人達はそんな事しないとおもいますよ」
あのおじいちゃんドワーフだって、きっとアルフさんに定住してほしくての言動だろうしね。
「そうだろうが、いつか、儂の存在はトウラの鍛治師ギルドのお荷物になるだろう。儂は酒が飲めんからな。今はいいが、いずれ、そうなろう。冒険者は用済みになってからでも遅くはない。儂はドワーフの血のお陰で長命だしな。冒険者に今ならん理由は、しつこくパーティーに誘われているんだ。あいつらが諦めてくれるまで、ちょっとな」
なるほど、優秀なアルフさん、狙われているんだね。下手に冒険者なんて平行したら、恩のある鍛治師ギルドに十分な事ができないから、二の足を踏んでいるんだろうね。パーティーなんて入ったら、そのパーティーにいくらかでも、合わせないと行けないし。
「リツさんやマリ先輩なら、アルフさんの事情を汲んでくれると思います」
「ん?」
「だから、リツさんやマリ先輩なら、事情を汲んでくれます」
「んー」
アルフさんは天井を見てから、私の顔にぐっと、自分の顔を寄せる。な、な、な、な、何? 赤い目が、細くなって、私を見ている。
「ルナ、儂を口説いているのか?」
「はあ? ち、違いますッ」
「なんだ、違うのか。残念だな、ルナなら口説かれてもいいと思ったが」
何、それ。でも、もしかしたらいけるのか? ここでアルフさんを諦めていいわけない。貴重な戦力だ。すごい戦力だ。ここで、諦める訳には行かない。マリ先輩達のために。
「リツさんやマリ先輩には、アルフさんの事情を説明します。それを汲んで貰います。私が一人で攻撃役なんです」
は、恥ずかしい。でも、引けない。
「新しい子も来ますが。まだ、全然戦力ではなくて、あの、アルフさんがよければ一緒に育てて欲しいし、私は」
必死に言葉を紡ぐ。
「私は、隣で、アルフさんがいたら、どんな魔物でも、マリ先輩達を守れて、その、あの」
目を閉じ、息を飲み込み。
「一緒に、いて、欲しいんです」
隣で、戦って欲しい。
「いいぞ」
あっさり、アルフさんから返事が来る。
「え、いいんですか?」
あまりにも簡単に了承してくれた。
「いいさ、ルナに口説かれたからな、断る訳にはいかん」
何故か、嬉しそうなアルフさん。
いいのかな? 本当にいいのかな?
「リツ達の飯は旨いし」
あ、分かるよ。
何でも美味しいもんね。
「ルナもおるしな」
「私は、何も作れませんよ」
なんの期待? 私は食べる専門よ。
「そうか」
楽しそうなアルフさん。
「本当に、来てくるんですか?」
「ルナが口説いてきたんだろ」
「口説いてって、まあ、来てくれるなら、いいです」
でも、よかった。戦力強化できた。
リツさんやマリ先輩に説明しないと。
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