差し入れ②
物件?
「しかし、今日は紅まで引いてどうした?」
う、薄く引いてあるのに、気付かれた。
一通り食べ、アルフさんがまじまじ見てくる。わかってますよ、似合わないって。子供が変に背伸びしていると思ったんだね。あんまり見ないでほしいな、恥ずかしい。
「ローズさんが、引いてくれました」
「そうか、よく似合うぞ」
はあ、そう? なんだか、慰めてくれているんだろうか?
あ、そうだ。
「アルフさん、おケガは?」
「ん?」
「昨日、ブラッディグリズリーに腕を」
そう、昨日わたわたしていたし、自分のことでいっぱいいっぱいで、すっかり抜けていた。
「ああ、あれか。不思議な事に大したキズではなくてな、ほら、塞がっているだろう」
袖を捲ると、瘡蓋の覆った三本のキズ。きっと、バートル様が守ってくれんだ。よかった。でも、しっかり、キズだ。
「すみません、本当に」
「大したことない」
アルフさんは笑うが、私は申し訳ない。鍛治師の大事な腕だ。
「大したことない」
もう一度言って大きな手で私の頭を撫でる。
本当に申し訳ない。
ダメだ、自分のしたことが、迷惑をかけてしまったと徐々に罪悪感が沸き上がる。
リツさんやマリ先輩、ローズさんに心配をかけ、アルフさんにケガをさせた。
「本当に申し訳、ありません」
「大丈夫だ、大したことない」
ダメだ、涙が浮かびそう。
「ルナ、泣かんでくれ。儂は女が泣くのは堪えるんだ。な、ルナ、儂は大丈夫だ。大丈夫」
本当に優しいアルフさん。
私はぐっと涙を堪える。
「無事で良かった。儂にも約束してくるか? もう無茶しないと」
う。リツさんやマリ先輩にローズさんには、約束した。安心させるために。でも、アルフさんは違うよね? 同じパーティーでもないし、でも、きっとドワーフの認識で身内認定されているから、心配なんだね。
どうしよう?
「ルナ?」
「はい、約束します」
ここは素直に言っておこう。嘘でも、これでアルフさんが安心するなら安い嘘だ。
「本当だな?」
「はい、約束します」
「なら、いい」
アルフさんはちょっと疑うような目だか、納得してくれたようだ。
それから、私が落ち着くまで、頭を撫でる。本当に子供認定だ。
さみしい。
「あの、アルフさん。冒険者ギルドにあのブラッディグリズリーの件を報告しますが」
悟られないように、話題を変える。
「アルフさんの名前を出しますが、いいですか?」
「あ、それか。ルナが倒したって事にできんか?」
「無理ですよ。私のレベルでどうにかできる魔物じゃないから、ばれますよ。キズ口だって、私の剣じゃないことはすぐにわかりますし」
「そうだな、そうだよな」
なんだろう、何故か渋るアルフさん。
「ルナに任せる、あ、魔石はほしいな」
「はい、分かりました」
どうせ、解体に回すのだ。必要なものは、引き取れる。
ブラックトレントも解体に出す。私じゃこんな大物解体なんて無理だし。
しばらく、話をして、アルフさんのお腹がギブアップ。確かにこんなに入らないよね。
「残して申し訳ない。鍛治師ギルド皆で食べてもいいか? こんなに旨いから、きっと喜ぶ」
「はい、どうぞ。私そろそろ行きます。お仕事中、お邪魔しました」
「リツ達によろしく言っておいてくれ、明後日辺りにまた行くから」
「はい」
アルフさんはわざわざ鍛治師ギルドの入り口まで送ろうとしてくれたが、途中でアルフさんが引き留められる。
「アルフ、この魔鉄なんだが、どうだ、付与行けるか?」
白髪混じりのドワーフが、インゴットをアルフさんに見せる。
「うーん、魔力が甘いな、これなら小が二つがギリギリだな」
片目の赤い目を細めて差し出されたインゴットをチェック。
なんとかならんか、無理、押し問答始まる。
「いい男じゃろ?」
アルフさんの顔を見ていると、横から声をかけられ、びくりと震える。
そこには、先ほどのおじいちゃんドワーフ。ニコニコしてる。
「名前はアルフレッド、ドワーフと人族のハーフ。年は38、人族なら二十歳くらい。真面目で腕もいい」
「はあ」
知ってますよ。
「背も高い、顔もいい。性格も申し分ないぞ。ドワーフは一人の女を生涯、愛し抜くんじゃ」
何を言ってるのこの人?
「ここから、歩いて15分もかからない所に、西通に二階建てのいい物件がある。アルフの稼ぎなら、子供3人くらいは余裕を持って養えるぞ」
はあぁぁぁぁ?
本当に何を言ってるのこの人。
私は開いた口が塞がらない。
「お嬢さんはべっぴんさんだし、気立てもいいようだし」
「副ギルドマスターッ、ルナに変なこと吹き込まんでくれッ」
アルフさんがあわてて止めに入る。
「ほっほっほっ」
ほっほっほっじゃないよ。私は顔に火がついたように熱くなる。
「ルナ、冒険者ギルドに行こう。儂も行くから、はよ、行こう」
アルフさんに肩を押されて鍛治師ギルドの入り口へ。
「アルフ、この付与はどうするんじゃ」
「後でするから。それから応接間に弁当がある。残すなよ。残したら、もう儂は付与せんぞ」
「ほっほっほっ」
「副ギルドマスター、後で話があるからな」
「ほっほっほっ」
ほっほっほっ笑うおじいちゃんドワーフ。アルフさんが、珍しく慌てた様子で、私の肩を押し、鍛治師ギルドを出た。
「すまんなルナ」
鍛治師ギルドを出て、すぐにアルフさんが謝ってきた。額に手を当てながら。ああ、迷惑だよね、すごい勘違いされているからね。私はアルフさんにとって、手のかかる子供の位置だから、迷惑だよね。
「いえ、大丈夫ですけど、抜けてよかったんですか?」
「構わんだろう、少しくらい」
くわっとあくびをするアルフさん。
「でも、忙しいんですね」
「ああ、なんでも新しい城塞都市にかなり鍛治師と付与できる魔法使いを取られたみたいでな。しかも人口増加にその新しい鍛治師ギルドが追いついていけんで、こっちに仕事が回って来て。ドワーフの性格上、かつての仕事仲間の窮地を放っておけんから、この忙しさだ」
あ、新しい城塞都市ミュートね。
「鍛治師ギルドには世話になっているから、一段落するまでは、手伝わんとな」
「一段落ですか」
その後はどうするんですか? なんて聞けない。
ぐっと飲み込んで、ふと、気付く。
「アルフさん、私達、冒険者ギルドで浮きません?」
「あー、かもな」
見習いメイドもどきに、タオルを頭に巻いたエプロン姿の鍛治師。
組み合わせ、おかしくない?
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