表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
60/386

鍛治⑥

気持ち?

「本当にご馳走なっていいのか?」

 夕方、アルフさんを台所にご案内。

「どうぞ。引っ越して来たばかりで、何もありません。こんなところですみません」

「いやいや、立派な家だな。魔道具も揃っとる」

「これは前の方のご厚意でいただいたみたいなものです」

「ナリミヤ殿か、気前がいいな」

 感心するアルフさん。

 ローズさんがさっと動き、テーブルセッティング。私もお手伝い。と、言っても冷蔵庫からアイスティー出すだけ。アルフさんがお酒がダメらしいから、せっかくのワインは封印。しかし、珍しいね、ハーフとはいえドワーフがお酒ダメなんて。

「おお、すごい豪華だな」

 リツさんがアイテムボックスから、いろいろ盛ったワンプレートを出し、アルフさんが驚きの声を出す。マリ先輩がスープをよそい、私はカップにアイスティーを注ぐ。時間停止のアイテムボックスから焼きたてのカンパーニュも出て、全て揃う。

 おお、豪華だ。デザートもあるし。

「では、アルフさん、今日はありがとうございます」

「いいさ、こんな豪華な飯にありつけたからな」

 リツさんの挨拶で夕飯いただきます。

「これは、旨いな」

 アルフさんが早速生姜焼(角ウサギ)を食べ、驚いている。

 うふふ、みんな美味しいのだよ。

 ちゃんと私のプレートにはマッシュポテトが多めに盛ってある。うふふ、ワンピース着て良かった。このローストビーフのソースと絡めると絶品なんだよ。モグモグ。

「ルナは幸せそうに食うな、見てるこっちも幸せになりそうだ」

 モグモグしていると、アルフさんのセリフに思わず具のみする。危ない、詰まらなくて良かった。

「かわいいでしょルナちゃん」

 マリ先輩まで何を言っているの?

 リツさんまで優しい顔だし。ローズさんはいつもの表情なので、助かる。

「そうだな」

 優しい赤い目、うわ、恥ずかしい。でも、なんだろう、小さな子供のように見られてる気がしてきた。あ、もしかしたら、そうかも、私は未成年だし、保護対象なのか、そうなのか? だから、こんなに優しい目なのか? なんか、そんな気がしてきた。まるでかつて、私がマリ先輩からもらったクッキーを、笑顔で食べてるジェシカを見守っている時を思い出す。ああ、アルフさんの眼差しはあの時の私と同じだ。

 ああ、そうか。そうなのか。

 すとん、と、何かが落ちていく。

「どうしたのルナちゃん?」

 マリ先輩がちょっと心配そうに聞いてくる。

「大丈夫です。このローストビーフ美味しいです。また作って下さいね」

 私は笑顔を浮かべる。

 大丈夫。この笑顔は大丈夫。だってコードウェルでも通用したし。

「いいけど?」

 マリ先輩は首を傾げる。リツさんも似たような感じだ。

 タルタルソースのたっぷり川魚のフライ、うん、美味しい。初めに食べた時は衝撃だった。散々ゆで卵の殻剥いたもんな。カンパーニュも外はパリッ、中はふわふわ。野菜のスープも美味しい、具材の野菜は柔らかい。

 なんだろう、お腹は満たされるけど、何か足りない。

 なんて、贅沢なんだろう、私って。

 自己嫌悪が、満たされた腹の底から沸き上がって来た。

 モグモグ、モグモグ。

 それでも、いつもの調子で平らげる。残すわけにはいけないし。その様子でリツさんとマリ先輩は安心したのか、アルフさんと談笑している。

 モグモグ、モグモグ。

 あ、アルフさんの手が大きいから、スプーンのサイズ合ってないなあ、カップも小さく見える。

 モグモグ。

 デザートのレモンのシャーベット美味しいな。ミントとブルーベリーを飾って合って、見た目もいい。

 ぺろり。

 美味しい。今日も美味しかった。

「ご馳走になったな、鍛治師ギルドに明日顔を出さんといかんから、明後日な」

「はい、よろしくお願いします」

 辺りはすっかり遅くなって、ほぼ真っ暗。アルフさんは魔鉄の槍の穂先に炎を宿す。松明代わりね。

 宿に帰るアルフさんを皆で見送った。


 次の日。

 マリ先輩達はホリィ一家とアーサーの服作りに入った。私は冒険者ギルドへ。無料講座をチェックする。しばらく戦闘してないから、勘が鈍っているだろうな。基礎講座のチェック。

 体を無性に動かしたい。何も考えずに、考えないように闘いたい。

 しかし残念、ないなあ。斧術だ。明日が槍と体術。明日だな。仕方ない、帰ろう。肩を落として踵を返す。

「なあ、トレントが森の浅い所にいたってよ」

「ええ、どの辺りだよ。トレントなんて狩るのに骨が折れるのに」

「北側だって」

「すぐ近くじゃん」

 若い冒険者の声。げんなりしているが、私には渡りに船だ。

 リツさんが欲しがっていたトレント。

 いつも美味しい食事を作ってくれるリツさん。今日だって、しっかりお弁当まで持たせてくれた。おにぎり、唐揚げ、卵焼き、ミニポテトグラタン、パプリカの炒め物。彩り鮮やかなお弁当だ。マリ先輩はマドレーヌをローズさんはいつものお茶を。

 いつも、してもらってばかり、与えてもらってばかり、いい加減、私も役に立たなければ。

読んでいただきありがとうございます。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ