鍛治⑥
気持ち?
「本当にご馳走なっていいのか?」
夕方、アルフさんを台所にご案内。
「どうぞ。引っ越して来たばかりで、何もありません。こんなところですみません」
「いやいや、立派な家だな。魔道具も揃っとる」
「これは前の方のご厚意でいただいたみたいなものです」
「ナリミヤ殿か、気前がいいな」
感心するアルフさん。
ローズさんがさっと動き、テーブルセッティング。私もお手伝い。と、言っても冷蔵庫からアイスティー出すだけ。アルフさんがお酒がダメらしいから、せっかくのワインは封印。しかし、珍しいね、ハーフとはいえドワーフがお酒ダメなんて。
「おお、すごい豪華だな」
リツさんがアイテムボックスから、いろいろ盛ったワンプレートを出し、アルフさんが驚きの声を出す。マリ先輩がスープをよそい、私はカップにアイスティーを注ぐ。時間停止のアイテムボックスから焼きたてのカンパーニュも出て、全て揃う。
おお、豪華だ。デザートもあるし。
「では、アルフさん、今日はありがとうございます」
「いいさ、こんな豪華な飯にありつけたからな」
リツさんの挨拶で夕飯いただきます。
「これは、旨いな」
アルフさんが早速生姜焼(角ウサギ)を食べ、驚いている。
うふふ、みんな美味しいのだよ。
ちゃんと私のプレートにはマッシュポテトが多めに盛ってある。うふふ、ワンピース着て良かった。このローストビーフのソースと絡めると絶品なんだよ。モグモグ。
「ルナは幸せそうに食うな、見てるこっちも幸せになりそうだ」
モグモグしていると、アルフさんのセリフに思わず具のみする。危ない、詰まらなくて良かった。
「かわいいでしょルナちゃん」
マリ先輩まで何を言っているの?
リツさんまで優しい顔だし。ローズさんはいつもの表情なので、助かる。
「そうだな」
優しい赤い目、うわ、恥ずかしい。でも、なんだろう、小さな子供のように見られてる気がしてきた。あ、もしかしたら、そうかも、私は未成年だし、保護対象なのか、そうなのか? だから、こんなに優しい目なのか? なんか、そんな気がしてきた。まるでかつて、私がマリ先輩からもらったクッキーを、笑顔で食べてるジェシカを見守っている時を思い出す。ああ、アルフさんの眼差しはあの時の私と同じだ。
ああ、そうか。そうなのか。
すとん、と、何かが落ちていく。
「どうしたのルナちゃん?」
マリ先輩がちょっと心配そうに聞いてくる。
「大丈夫です。このローストビーフ美味しいです。また作って下さいね」
私は笑顔を浮かべる。
大丈夫。この笑顔は大丈夫。だってコードウェルでも通用したし。
「いいけど?」
マリ先輩は首を傾げる。リツさんも似たような感じだ。
タルタルソースのたっぷり川魚のフライ、うん、美味しい。初めに食べた時は衝撃だった。散々ゆで卵の殻剥いたもんな。カンパーニュも外はパリッ、中はふわふわ。野菜のスープも美味しい、具材の野菜は柔らかい。
なんだろう、お腹は満たされるけど、何か足りない。
なんて、贅沢なんだろう、私って。
自己嫌悪が、満たされた腹の底から沸き上がって来た。
モグモグ、モグモグ。
それでも、いつもの調子で平らげる。残すわけにはいけないし。その様子でリツさんとマリ先輩は安心したのか、アルフさんと談笑している。
モグモグ、モグモグ。
あ、アルフさんの手が大きいから、スプーンのサイズ合ってないなあ、カップも小さく見える。
モグモグ。
デザートのレモンのシャーベット美味しいな。ミントとブルーベリーを飾って合って、見た目もいい。
ぺろり。
美味しい。今日も美味しかった。
「ご馳走になったな、鍛治師ギルドに明日顔を出さんといかんから、明後日な」
「はい、よろしくお願いします」
辺りはすっかり遅くなって、ほぼ真っ暗。アルフさんは魔鉄の槍の穂先に炎を宿す。松明代わりね。
宿に帰るアルフさんを皆で見送った。
次の日。
マリ先輩達はホリィ一家とアーサーの服作りに入った。私は冒険者ギルドへ。無料講座をチェックする。しばらく戦闘してないから、勘が鈍っているだろうな。基礎講座のチェック。
体を無性に動かしたい。何も考えずに、考えないように闘いたい。
しかし残念、ないなあ。斧術だ。明日が槍と体術。明日だな。仕方ない、帰ろう。肩を落として踵を返す。
「なあ、トレントが森の浅い所にいたってよ」
「ええ、どの辺りだよ。トレントなんて狩るのに骨が折れるのに」
「北側だって」
「すぐ近くじゃん」
若い冒険者の声。げんなりしているが、私には渡りに船だ。
リツさんが欲しがっていたトレント。
いつも美味しい食事を作ってくれるリツさん。今日だって、しっかりお弁当まで持たせてくれた。おにぎり、唐揚げ、卵焼き、ミニポテトグラタン、パプリカの炒め物。彩り鮮やかなお弁当だ。マリ先輩はマドレーヌをローズさんはいつものお茶を。
いつも、してもらってばかり、与えてもらってばかり、いい加減、私も役に立たなければ。
読んでいただきありがとうございます。




