鍛治⑤
アルフの事情?
短いです。
「ほう、上手い茶だな」
アルフさんがアイスティーを飲み、驚いた様に声をあげる。ローズさんのお茶は美味しいのだよ。マリ先輩の鼻が伸びてる。
抜き身の刀身が置かれている。長さはショートソードくらいだ。
「後は付与をかけられる。魔鉄含ませてあるからな、鉄製よりは多くつけられるぞ」
「アルフさんは付与もできるんですか?」
リツさんがアイスティーを飲みながら聞く。
「火と土属性ならな。小の補助ならいけるが、中以上なら、儂は魔石を必要とする」
謙遜してるが、アルフさん優秀だよ。魔法を駆使して鍛治をして、付与魔法までなんて出来ないよ。普通はどっちかだけ、分担するものだからね。
そう思うと、あのナリミヤ氏って規格外だね。
「あの、アルフさんの都合がつくなら、しばらく鍛治を教えて頂きたいのですが」
リツさんがおずおずと聞く。
「まあ、構わんが。儂は工房構えている訳でもないし、ここの鍛治師ギルド専属でもないし」
「あの、アルフさんって、トウラに住んでいるんですか?」
三ヶ月前に、マリベールで会った。てっきり、マリベール在住だと思っていた。トウラの鍛治師ギルドマスターと親しい様子だったし、何となく私が聞くと、残ったアイスティーを飲み干し、答えてくれる。
「宿だ」
「え、何で?」
どうやって生活してるの?
「儂は流れの鍛治師だ。もともとマダルバラガ出身でな。そこで、鍛治師しとったんだか、いろいろあってな。親父が死んで、兄貴達にも迷惑をかけられないから、トウラにおる親父の弟弟子を頼って来たが、すでに弟弟子も亡くなっていてな」
新しく注がれたアイスティーを一口。
マダルバラガ出身、山岳国でドワーフの国だ。
「これからどうしようか思案中なんじゃ。来たばかりなのにギルドマスターは良くしてくれるが、頼りすぎるのもなんか、な。工房経営なんて、儂には向かんし」
それで冒険者みたいなことをしてたのね。経営となると、鍛治師だけしていればいいわけないし。
「アルフさん強そうだから、冒険者になってもすぐにランク上がりそう」
マリ先輩がアルフさんの腕を見ながら言う。うん、ガタイいいよね。あれだけの槍を振り回せたら、きっと壮観なはず。
「そうでもないぞ。国じゃ、儂は魔法職扱いだったし」
「「「「そのガタイで?」」」」
あっはっはと笑うアルフさん。
「ドワーフは魔法職には、向かん。知っとるか?」
「はい」
私は頷く。種族的に身体強化は出来ても、攻撃魔法を発動は得意ではない。盾職のドワーフと呼ばれている。筋骨隆々のパワー職だしね。
あれ? この話しだと、アルフさんはドワーフだけど。この背丈でドワーフはないない。失礼だか、ドワーフはずんぐりむっくり。太い胴体にたくましいがちょっと短めの四肢。アルフさんは背丈はあるし、手足は長い、バランスだっていい。いや、違うでしょ。そんなこんなを思いながら、アルフさんの話しを聞く。
「儂は珍しく魔法適応があってな。よく騎士隊の遠征に駆り出されてな。鍛治師として専念したかったが、そうもいかなくてな。年の割には鍛治師としても腕はない、ドワーフの騎士になりたくてもレベルが足りん。しかも儂は酒が飲めんから受けが悪くてな。いろいろ中途半端なんだ」
え、お酒ダメなの?
「年の割にはって、アルフさんおいくつなんですか?」
あ、聞いちゃうリツさん。
「38」
「「「「はあ?」」」」
嘘でしょ、どうみても二十歳そこそこ、あ。
「もしかしてハーフだったりします?」
私が可能性を言葉に出す。
「正解。儂はドワーフと人族のハーフ」
うわあ、いいとこどり。ドワーフの筋肉、鍛治師における必要な精神、おそらく背丈と魔法適応は人族譲り。
ドワーフはエルフ程ではないが長命種。たとえハーフでも、人族より長命だろうから、人族と同じ年齢と容姿が合わないのだろうね。
「盾職、ドワーフの盾職」
前衛だ、前衛。しかも騎士隊に駆り出される魔法を持ち、あれだけの槍を操れる。え、最高じゃない。私が攻撃、アルフさんが盾、アーサーが中間、マリ先輩達が後衛、最高じゃない?
あ、いかん、いつもの真っ黒な笑顔が浮かびそうで、ぐっと堪える。お盆で、顔を隠す。
アルフさんの事情あるしね。隣にいてくれたら頼もしいだろうけど、無理強いできるわけない。
「あの、アルフさん。良かったら、鍛治を教えてもらっている間、うちに来ません? 部屋空いてるし」
リツさん、何言ってるの?
「女ばかりの所には、入れんよ」
そうだよね。
「三食付き、お風呂付き」
うわあ、魅力的。
「アルフさんの事情もありますよね。夕飯までに考えていただければ」
リツさんはいい笑顔だ。
それからいろいろ鍛治について聞きながら、もう一本のショートソードを製作。
私も気になって、三人の後ろから、見ていたけど、鮮やかな手つきで仕上げるアルフさん。いいね、こういった職人さん、カッコいい。うん、誠実に向き合う姿がカッコいい。ああ、暑い。魔道炉のせいだね。
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