鍛治④
鍛治です。
アルフさんを屋敷までご案内する。
さすがにガードマン・ガーディアンには驚いていた。
「立派な屋敷だな」
「リツさんの持ち家です」
そうか、とキョロキョロするアルフさん。まあ、気持ち分かるよ。
「本当に最近越してきたばかりなんです。あれが工房で、炉があるそうです」
「炉があるのか?」
私の言葉にアルフさんが食い付く。やはり鍛治師なんだね、目が輝いている。うん、キラキラ。ちょ、直視できない。
「あ、いらっしゃいアルフさん」
私がキラキラから身を守っていると、リツさんが屋敷から出てきた。良かった助かった。
「無理を言って申し訳ありません。今日はよろしくお願いします」
「構わんさ。まあ、昨日も言ったが儂に教えられるのは限られている。それでもいいのか?」
「はい、大丈夫です」
マリ先輩とローズさんも出てくる。荷物を持とうとしたローズさんに、アルフさんは笑って断る。とても女性が持てる重さではないと。確かに、総魔鉄製の槍なんて無理だね。ローズさんはちょっと納得してないが、アルフさんが試しに持たせたら諦めていた。
「炉があるそうだな。早速見せてもらいたいのだが」
「こちらに」
リツさんがアルフさんを案内。私は一番後ろに続く。
工房の鍵を開け中に。真っ先に炉を確認したアルフさんが感嘆の声をあげる。
「立派な魔道炉じゃないか。しかも純粋な」
「そうです。使い方は聞いているんですが、ちょっと自信がなくて」
リツさんの声にアルフさんも唸る。
私も聞いただけだが、何でも魔道炉は魔力で動くらしい。私の知っている鍛治は、火を起こしてするイメージだが、これはその必要がない。ただ、魔力、かなりの量が必要になると。
「確かに、個人の魔力だけで動かすのには、ちときついだろう。そこそこの魔石で魔力を補いながらせんと無理だな」
「やっぱり魔石が必要ですかね」
魔石とは、魔物が体内で宿している石だ。魔力を宿し魔道具を動かすのにも使われる。魔物の質や生体年数で質は変わる。強くて長く生きている魔物ほど、質のいい魔石を宿している。ちなみにゴブリンは魔石はあるが石だ、単なる石。取り出す価値もない。
「出来んことはない。ただ、かなり魔力を消化するぞ」
「あ、あります魔石。リツさん良かったら使って下さい」
「え? ルナちゃん、魔石なんて持ってるの?」
「はい、ちょっと待っててください」
私は自分の部屋に向かう。ガイズで狩ったキリングボアの魔石がある。買い取りに出さず、手元に置いていたのが役に立つようだ。良かった、いつもお世話になっているんだ、これくらい出さないとね。
マジックバックからキリングボアの魔石を取り出し、工房に戻る。
「リツさん、どうぞ」
「いいのルナちゃん?」
「私が持ってても、仕方ないし」
「ありがとうルナちゃん」
リツさんが嬉しそう。良かった。
アルフさんに渡された魔石。
「随分、上質だな。これならしばらく持つが、本当にいいのかルナ?」
アルフさんまで聞いてくる。
「大丈夫です。使って下さい」
もしもの時の路銀ようだったし。リツさんの屋敷にいる間は、生活の心配ないし。これくらい痛くない。
「そうか? なら、使わせてもらうぞ」
こうして、アルフさんによる鍛治講座が始まった。
「グレイキルスパイダーの布? あはは嘘じゃろ」
アルフさんは何で鍛治をしたいのか聞いてきて、答えたのはマリ先輩。
「実は鍛治系は私達まったくの経験なしなんです。欲しいサイズのフライパンや欲しい包丁もありますが。グレイキルスパイダーの布を裁断するハサミも欲しくて」
それでアルフさんの反応だ。うん、これ、普通だね。
「本当ですって、ローズ、出して」
「はい、マリ様」
ローズさんがデデンと絨毯の様に巻かれたグレイキルスパイダーの布をマジックバックから出す。
絶句するアルフさん。うん、普通の反応。
「手持ちのハサミじゃ切れなくて」
でしょうね。布では、おそらく最高ランクの防御力、普通のハサミで切れるわけない。
あ、アルフさん、頭抱えてる。
「聞いたらいかん気がする」
私もそう思うよ。
「あ、ナリミヤ様って人から貰いました」
あ、マリ先輩があっけなく言う。
「まさか? 錬金術師のソウタ・ナリミヤ殿か?」
「そうです」
マリ先輩の言葉に、ああぁと更に頭を抱えるアルフさん。
「アルフさんはナリミヤ先輩をご存知で?」
リツさんが聞く。
「まあ、儂の国では有名だな。儂は直接会ったことはないが、親父がナリミヤ殿が鍛治に色々な魔法を併用する所を見てな。それを教わっただけだ」
「じゃあ、アルフさんも錬金術を使えるんですか?」
「鍛治に関しては、簡単なものだかな。本格的には出来ん。しかし、これを切るハサミか。少なくともアダマンタイト含ませんと無理だなぁ」
アルフさんがグレイキルスパイダーの布を見ながら言う。
うーん、先が長そう。リツさんもローズさんもそう思っている様子。
一旦グレイキルスパイダーの布はローズさんのマジックバックに戻される。
しばらく話をいろいろしてから、実践となる。
暗い工房内で、魔道炉に火が灯る。
鍛治についての基礎レクチャーの後、実際にやってみることに。リツさん達は錬金術と駆使した鍛治になる予定の為、あまり炉は必要無さそうだか、いかんせん、まだ魔力保持力が少ない。しばらくは魔道炉との併用が必要となる。
うわ、暑い。
空調設備あるけど暑い。
「今日は見学だ。本来なら、時間がかかるが、魔道炉と錬金術の併用するなら短時間でできる」
アルフさんは荷物からインゴットを取り出す。鉄と魔鉄だ。
魔法で必要分を取り出し、魔道炉へ。
「ここでしっかり融解し融合。大丈夫か?」
真剣に頷く三人。
アルフさんは魔力を調整する。魔道炉の光に照らされ、額に汗が浮かぶ。
赤く光る、溶かされた鉄と魔鉄は完全に混ざり、型に流される。
「魔法で形成できるが、今日は槌を使って見るぞ。どうやって作られるか、一度見た方がいいからな」
今度は槌が出てくる。
カンカンカンカンカン
一切の迷いなく、アルフさんが槌を振るう。
「いいか、まずは、金属の音、声を聞け。魔法属性の金属を使うときは常に纏わせろ、均一に、だ」
カンカンカンカンカン
「その金属に合わせて、儂らは槌を振るう」
カンカンカンカンカン
瞬きもしない三人の顔にも汗が浮かぶ。
カンカンカンカンカン
「最後まで気を抜くな」
カンカンカンカンカン
ドワーフには、優秀な鍛治師が多いのは、これが理由だ。
魔力を保たせる集中力、槌を振るい続ける体力、妥協を許さない誇り高き職人気質。二徹くらいはできる。
一定のリズムを保ち、槌を振るい続けるアルフさん、汗が流れ落ちる。
「よし、いいか?」
槌を振るい続けたアルフさんが、三人に確認するように視線を寄越す。
じゅううううぅぅぅ
水に浸けると蒸気が上がる。
「研ぎの経験は?」
「包丁くらいです」
リツさんが初めて脱ぐって返答する。
「そうか、なら、研ぎをするぞ」
砥石を取り出すアルフさん。汗が滴るほどだ。マリ先輩とローズさんもすごい汗。
あ、お茶。私の役だよね。いけない、ちょっと興味があったから見てしまった。冷蔵庫にローズさんが作ったアイスティーがある。
小さくお茶持って来ますと言って、私は工房を出た。
読んでいただきありがとうございます。