鍛治③
ドワーフの戦い方。
まだ暑い日差しだが、随分和らいでいる。
汗染みできないよね?
足元スースーして心許ない。普段着なれないスカート。防御力低いなこれ。でも、そんなこと言ったら、付与魔法かけそうだから、心の中に仕舞おう。
初めは恥ずかしさもあったが、誰も見てない。やっぱりね。
さっさとアルフさんを迎えに行こう。鍛治師ギルドの前、ドアの横でいいはず。
中が気になるが、さすがにこの格好では入れない。場違い感がとんでもないし。
鍛治師ギルドが見えてきた、アルフさんはまだいない、少し早めに出て良かった。待たせる訳にはいかないし。
さて、この辺で待ちましょうかね。
さすがに役場や冒険者ギルドなどが近くにあるから、人通りが多い。
そろそろマリ先輩達も依頼を受けないと、失効するはず。明日辺り薬草摘みに行くか? ナリミヤ氏からもらった剣、始めにもらった方を使ってみたいし。混乱しそうだから、初めに持ってて修繕してもらったのを初代、ナイフと共にもらったのを二代目とでも名付けようかな。
「なあ、そこの嬢ちゃん」
今の魔力感知なら、二代目を振り回すのに、問題ないだろうし。
「おい、そこの嬢ちゃん」
魔の森近いから、魔物も浅い所にいる可能性あるし、ナリミヤ氏の話ならトレントいるはず。
「おい、嬢ちゃん」
ああ、リツさんのトレント攻撃が来そう。さすがに一刀両断する自信ないなあ。
「そこの青い服の嬢ちゃん」
「さっきからなんだ? うるさい」
私はさっきから声をかける、胡散臭げな男に、めんどくさく返事をする。
「無視するな」
「だから、なんだ?」
一人じゃない、後ろに二人、似たような感じ。身なりはまずまず。ニヤニヤ笑いが気持ち悪い。
「さっきから声かけてやっているんだぞ」
「人を待ってる」
あっち行け、と言わんばかりに吐き捨てる。
「誰も来ないじゃないか? 少し付き合えよ」
私はため息をつく。
「人を待っている」
「いいから、付き合えよ」
男の手が伸びる。
叩きつけてやる。すでにしっかり身体強化済んでいる。
身構えた瞬間、手を伸ばした男の体が後ろに吹き飛んだ。
「儂の連れだ、手を出すな」
あ、アルフさん。
男の襟首を掴み、後ろに引き倒したのだ。派手に引き倒したな。
槍に背中に荷物。鍛治道具が入っているのかな。
少し伸びた髪を無造作縛り、ポチポチ生えたひげはきれいに剃られている。ひげを剃っただけだが、随分印象が変わる。なんと言うか、その、似合うと言うか、なんと言うか、うん、こっちの方がいいかな? そんなことを思っている間に、後ろにいた二人がアルフさんがにいちゃもんつけていた。
「なんだてめえ」
「やんのか」
二人の男が、吹き飛んだ男を気にする様子はなく、アルフさんにどすを利かせた声で迫る。
「儂はケンカは買わん」
アルフさんはいい放つ、男達は嘲笑うような顔だか、次の瞬間凍りつく。
「だが、この子に手を出すなら、ケンカを売ろう。どうだ、買うか? 高い買い物だぞ」
ぞろぞろと鍛治師ギルドから、槌片手にドワーフ達が出てきて、アルフさんの回りを固めたからだ。
うわあ、凄い迫力。
「鍛治師ギルド前で拐かしなど許さんぞッ」
昨日のギルドマスターが槌を振り上げる。それに一斉に習うように槌を振り上げるドワーフ。地面が揺れるような力強い踏み込み。槌を持っていない腕を脇を絞め前に出す。
ドワーフの戦い方。
それは、盾を持ち、向かい来る相手を弾き、打撃系武器で粉砕する。ドワーフは魔力の保有量は少ないが、身体強化に特化した魔法を使い、頑丈な体に打撃系武器を振り回す優れた腕力、それは最高の盾職。
まさに圧巻。無盾だが、迫力満点。
ダンッ
更に踏み込むと、男達は散り散りに逃げていった。
「ふん、情けない。ギルドの前で拐かしをするなど、許されんことだ。おい、嬢ちゃん、大丈夫か?」
ギルドマスターが鼻から息を勢いよくだし、ダミ声で私に聞いてくる。
ぞろぞろと何事もなかったように、鍛治師ギルドに戻っていくドワーフ達。
声デカイけど、助かりました、ワンピース汚れなかった。私はお礼を言う。
「しかし、お前さんがケンカを売るとはな。まあ、何かあれば、儂ら鍛治師ギルドはアルフの味方だ」
「すまんなギルドマスター」
「構わんさ」
かっかっかっと笑うギルドマスター。
ドワーフは偏屈、頑固、酒飲み。そう称される。酒飲みは仕方ないが、もともとドワーフは我慢強く、真面目で、職人気質、そして、身内に入れたら血の通った家族のように守るのだ。たとえそれが、多種族でもだ。
「まったく、お前さんもすみにおけんな。こんなべっぴんな娘がおったとは。ここに定住じゃな、住居付きの工房を紹介しよう」
はいぃ? なに言ってるのこの人? あ、このワンピース効果ね、さすがマリ先輩達製作のワンピース効果。
「ギルドマスター。この子は違う違う」
「そうなのか?」
そうだよ、違うから。
「しかし、ここら辺では見ない顔じゃな。どこの子じゃ」
「いえ、あの、最近越してきたばかりで」
「ギルドマスター、もういいか?」
じろじろ見られるのは、あんまり気持ちよくないね。すごく珍しい物を見る目だよ。さりげなく、アルフさんが間に入ってくれる。
「ちょっと約束があってな」
「なんじゃ、すみに置けんが、この娘、まだ子供じゃぞ」
「なんの心配しとる、さ、行こうか嬢ちゃん」
アルフさんに肩を軽く押されて、息が何故か一緒詰まる。何か攻撃魔法でも受けたのかな。アルフさんに連れられ鍛治師ギルドを離れる。
また、ギルドに顔を出せよ、とギルドマスターが念押し。
「分かった。また、顔を出すよ」
そう言ってアルフさんは手を振る。鍛治師ギルドが見えなくなってから、アルフさんが少し顔を覗き込むように、赤い目を細めて言う。
「しかし、見違えたな」
「自分でもおかしいと思います」
「違う意味で言ったんだかな。よく、似合っておる。かわいいじゃないか」
ボッと、顔に一気に血が登る。
何を言っているんだこの人? あ、ワンピースね、ワンピース効果ね。そうだよ、ワンピース効果だ。きっとあの絡んできた男達もワンピース狙いだったんだ。
私、パニック。
「何がワンピース効果なんだ?」
「いえ、何でもありません。あ、こっちです」
声に出ていたか。
「なあ、嬢ちゃん、名前教えてもらってもいいか?」
「はい? リツさんから聞いてません?」
「聞いとるが、嬢ちゃんの口から聞きたいんだかな」
穏やかに笑い、話すアルフさん。な、なんでだろう? ま、まあ、いいか。な。
「ルミナス・コードウェルです。ルナと、リツさん達から呼ばれてます」
「そうか、ルナか。儂はアルフレッド、アルフと呼ばれている。よろしくな、ルナ」
そっか、アルフレッドが名前なのか。
「はい、アルフレッドさん」
「アルフでいいぞ」
「じゃあ、アルフさん」
なんだろう、照れ臭い。名前くらいで、照れ臭い。
「よろしくな、ルナ」
改めて言われ、更に照れ臭い。
ゴツゴツした手を差し出された。恥ずかしいが、躊躇う理由がない。
「よろしくお願いします、アルフさん」
大きな手、私の手、小さく感じた。
包み込んだ大きな手に、私は更に血が登った。
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