鍛治①
ふんわりワンピース。
次の日、朝の食堂に何故か意味深に並ぶ三人。
昨日夕食後にこそこそしてたけど。
「うっふっふ」
なんですか、かわいいんだからマリ先輩。
「じゃーん」
ひらりん。
マリ先輩が後ろ手にしていた手を前に出す。その手には、青色のワンピース。ふんわりした感じで、袖もふわりと広がっている。上品だけど、かわいい。うん、マリ先輩に似合いそうよ。
「かわいいでしょ。ルナちゃんにぴったり」
「はあ?」
私は寝癖の跳ねた髪のまま、間抜けな返事をする。
「この辺は私」
マリ先輩がふわっと揺れる袖を指す。
はあ。
「この襟は私」
リツさんは鎖骨が見えそうな緩いカーブの襟元。
はあ。
「スカートは私が」
絶妙の長さのスカートをローズさんが示す。
はあ。
「着ませんよ」
私の言葉に三人は、びっくり。
「ルナちゃんのワンピースよ」
マリ先輩がひらりんとワンピースを揺らす。
そうでしょうね、胸元みたら、そうでしょうね。
「似合わないでしょ、皆さんならいいでしょうけど」
私の返事に三人は後ろを向き、こそこそ作戦会議。
「やっぱりの反応ね」
マリ先輩、聞こえてますよ。
「そうね、予定通りの作戦で」
リツさん、何を言っているのよ。
「了解しました」
ローズさんまで。
私は呆れる。まあ、私の為に昨日作ってくれたんだろうが、私には勇気がいるよ、それ。
さっと散る三人。うん、台所内だよ。
「ルナちゃん、はい、ご飯」
マリ先輩が出したのは、小さな黒パン一つ。え、それだけ? いや、今までが豪華なだけだったのだ。うーん。
その黒パンを隠すように、白い布をリツさんとマリ先輩が両端を持つ。
なんだなんだ?
ん、ローズさんが布の向こうでごそごそしてる。
「このワンピースを着たら、本日の朝食はこうなります」
リツさんの合図で、白い布が取り払われる。
「おかず系フレンチトーストです」
「着させていただきます」
リツさん特製の腸詰めにスクランブルエッグ、パセリのかかった粉ふきいも、レタスに特製ドレッシングがかかっている。そしてメインの黄色に輝くフレンチトースト。はい、私、陥落します。恥ずかしい? プライド? そんなもの、この輝くフレンチトーストの前に霞のように消え去って行ったよ。
恥+プライド〈 胃袋。これ、正義の図式。
ローズさんが紅茶を淹れてくれる。オレンジの香りがする。フルーツティーだ。
全員分のフレンチトーストが並びいただきます。
「あっつう」
ぷりぷりの腸詰め。肉汁が溢れる。美味しい、ハーブの香りがいい。スクランブルエッグにはケチャップをかけて、甘さに酸味に絶妙だね。フレンチトーストを間に挟みながら食べて、いくらでも入りそう。
しっかりいただきました。ふう、満腹。
で、食後に笑顔を浮かべたマリ先輩に、青色ふんわりワンピースを渡される。
仕方がない。着ますか。
「今日、アルフさん来るんでしょ。料理のお手伝いしてから着ます。汚したら申し訳ないし」
「そうだったわね、片付けたら準備に取り掛かりましょう。さて、何を作りましょうか。ルナちゃん何がいいと思う?」
リツさんです聞かれるが、私に聞かれても、リツさんやマリ先輩の食事は何でも好きだし。それを伝えると、二人は照れたような顔。う、かわいい。
「あれだけ大きな人だし、男性だから、やはりお肉じゃないですかね?」
私はアルフさんを思い出す。見た感じ、二十歳位だし。食べそう。
「やっぱりそうよね。ローストビーフがまだあったから、それにしましょう。それとスープにしましょうか」
あ、ローストビーフ出すの。あれ、確か作るの大変だっはず。柔らかくて美味しいんだよね。ソースがまた絶品。マッシュポテトを絡めたら、いかん、涎が。
「リツちゃん、ローストビーフってあと一回分もないんじゃない?」
「あ、そうだった。じゃあ、生姜焼と、あと、えっと」
「ワンプレートにして、いろいろのせたらどうかな? 見た目も豪華だし、堅苦しくないかも」
「それいいわね。そうしましょう」
マリ先輩のアドバイスもあり結局、ローストビーフに生姜焼(ウサギの角)にタルタルソース付き川魚のフライに、ラタトゥイユにチリコンカーンを一皿に盛ることに。スープは野菜たっぷりのコンソメスープ、パンはリツさん特製カンパーニュに、デザートはアッサリしたレモンシャーベットだ。
豪華だ、豪華な夕食だ。
うふふ、私までご馳走にありつける。
ワンピースくらいどんとこいだ。
朝食の片付けしながら、リツさんは、パンを仕込む。時空間魔法使って発酵を飛ばす飛ばす。魔法の使い方がねぇ。ローズさんは、冷えた紅茶、アイスティーの準備。
私は食器は軽く汚れを落として洗浄機の中に。
「ねえルナちゃん。ルナちゃんの得意料理って何?」
マリ先輩が聞いてくる。
「料理って言われても、えっと、作れませんよ。焼くくらいしかできないから。あ、母がワイン煮込み作ってましたから、何となく覚えていますが、無理ですね」
きっぱり。
「そんなにはっきり言わなくても、ねえ、試しに作ってみない?」
「貴重な食材をダメにしたいんですか?」
きっぱり。
「なら、今度、レシピを時間ある時思い出しましょう」
「まあ、マリ先輩やリツさんが普通に作ったほうが美味しいと思いますよ」
これは本当だと思うよ。
ちゃっちゃと生姜焼を作り上げるマリ先輩。見事な手捌き。私は隣であーんです。モグモグ。
木皿にローストビーフや生姜焼に川魚のフライを並べる。アルフさんは多目に盛って、リツさんのアイテムボックスに。
魔道オーブンから香ばしい香りが漂ってくる。分厚いミトンをしたリツさんが、焼きたてのカンパーニュの乗った鉄板を次々出す。
いくつ焼いたの? あ、お昼の分ね。
野菜たっぷりのスープも作り上げ、リツさんのアイテムボックスに。お昼まで時間あるので私の剣術講座です。庭、広いし。まあ、軽くね、軽くね。
以前、錬金術講座で覚えたポーション作りだけでも食べて行けそうだったから、冒険者しなくても、と思ってリツさんに聞いてみたら、何でもエリクサーを作りたいと。マリ先輩やローズさんまでそんな感じだったよ。
は、は、は、無理無理。絶対無理。どんな瀕死の傷でも負荷を与えず一瞬で回復するエリクサー。聞いたことはあるが、現存してるなんて聞いたことない、幻のポーション。材料にドラゴンの肝とか精霊の涙とかいるのよ。無理無理。エクストラヒール覚える方が確実だと思うよ。
なんて、言えません。そのうち気付くでしょ。
「あ、そうだ。リツさん、アーサーのことですが」
「ん? 何?」
「あのアーサーは庭師にするには勿体ないので、鍛えたいのですが」
「そうなの?」
汗を拭きながらリツさんは訪ねる。
そう、もし、リツさんが冒険者をするならどうしても育てたい。ただ、主人であるリツさんの許可が必要だ。
「本人が望めばいいわよ。どう育てるの?」
「中間職、魔法剣士ですね。私は前衛だから、リツさんやマリ先輩達との間で動けるようにしたいと」
後衛の二人に恐らくローズさんはマリ先輩から離れないだろうから、臨機応変に動ける人員が欲しかった。アーサーは魔法スキルは高いし、体格も悪くない。あと本人次第だが、戦闘スキルを取得したら私を越す可能性もある。今は私がレベル高いだけ、一歩リードしてるだけ。
「ルナちゃんがそこまで言うなら、すごい逸材ね」
「本人次第ですよ」
じゃあ、装備どうする? なんて話し出す三人。
まあ、リツさんを守るためならって、了承しそうだけどね。
「ルナちゃん、顔、顔」
いかん、真っ暗な笑顔を浮かべていたみたい。
読んでいただきありがとうございます。
不定期ですが、22時投稿していきたいと思います。