新しい生活②
ある一家。
ちょっと尻切れトンボ。
私達は応接間に案内される。
「申し遅れました。私がこの商会を取り仕切っています。5代目ティラでございます」
質のいい服の男は私達で挨拶をする。
「先ほどはお見苦しい所をお見せして、申し訳ありません。本来ならあってならぬことですが、ナリミヤ様からのご紹介もありますし、あの子も助かりました」
お、良かった。お咎めなしだ。
どうやらあの少年は父親に連れられこの商会に来た。初めは馬車酔いのような症状で、父親の持って来た紹介状には、疑う点もなかった。しかし、私達が商会に入った頃から症状が急変。ティラ氏は薬を盛られていると直感。毒消しポーションと叫んでいた所に私達が遭遇し、あの治癒劇だ。
「私達の不手際もありました。もっと早く気付くべきでした」
まさか実の息子に薬を盛って売りに来るとは、思わなかったのだろうし、下手したらその父親は罪に問われるし、この商会も評判が落ちる。まあ、購入したばかりとはいえ、訳ありな奴隷の治癒をしようとしたティラ氏は悪く思いたくない。言い方を変えたら、商品を守っただけだが。
「いえ、私達が勝手に治療しただけです」
リツさんの言葉にマリ先輩も頷く。
商会の女性職員が、お茶を運んできた。お、いい香り。
「サイトウ様は奴隷をお探しで、こちらにいらしたのでしたら、ご希望をお聞きしても」
「はい、家の管理、主に掃除をしてくれる人を探しています」
「失礼ですが、お住まいは?」
「ナリミヤ先輩から、ここの拠点を譲って貰いました」
私が小さく購入と、言うと。
「あ、ちゃんと購入しました。ナリミヤ先輩の言い値で」
「あちらのお屋敷ですね。ならば二人は必要ですね。在籍しているなかで、数人該当するものがおります。リストをお持ちしましょう」
「あの、こういった商会は、初めてなので今日はなんというか」
「承知しております。まずはご希望の奴隷はなかなかおりませんから。ご参照までにリストだけでも」
ちらっと、私達を見るリツさん。頷く私達。
「では、リストだけ」
「お待ちください」
ティラ氏が入り口側にいた職員に指示を出す。
すぐに何枚かの書類がリツさんの前に並ぶ。
「全員借金奴隷です。まず一人目はカーラ、人族、26才。男爵家でメイドをしていました。借金の理由は博打ですね。二人目はアルマ、人族、33才、通いの家政婦、借金の理由は酒でのトラブルですね。三人目はザイック、人族。35才、庭師、借金の理由は博打です」
リツさんがすっきりしない顔。確かに理由がね。
「最後にホリィ。28才。人族の通いの家政婦です。ただ、このホリィは自身の借金ではないことと、購入条件が少し高いかと」
リツさんが初めて反応する。
「自分の借金ではない」
「そうです。夫から逃げる為に借金奴隷になったようなものです。そして購入条件はホリィには三人の幼い子供もいます。その三人と一緒に購入希望があります」
「子供が三人ですか」
なかなかな条件だね。
子供が三人、それも含めて衣食住を保証しなくてはいけなくなる。
「もし、このホリィさんだけの時、その子供達はどうなります?」
「特殊奴隷になります。父親に戻したら録なことにならないことは目に見えてますからね。特に上の子は8才の女の子。下手な奴隷商会に売られたら悲惨な目にあうでしょうから。成人するまでうちで面倒を見て、奴隷として売り出されます」
あ、まともな商会だ。
「しかし、そうなると生き別れになるでしょう」
優しいリツさんが揺れている。
「ティラさんから見て、ホリィさんは人格的にはどうですか?」
「そうですね。非常に真面目です。ただ子供の条件がありますので、これがなければオススメの奴隷です」
「なら、ホリィさんの条件を受け入れます」
「よろしいので?」
「はい、真面目な方を探していましたから。子供達の条件は私にとって大したことではありません」
出た、男前リツさん。
「では、ホリィと子供達を連れてきましょう」
ティラ氏は職員に指示を出す。
私はリツさんの袖を引く。
「私が言うべきでは、ないですが。いいんですか?」
「ええ、問題ないわ。真面目な人がいいもの。それにホリィさんだって、直感したの」
大丈夫よ、と笑うリツさんは、曇りない笑顔だった。
「なら、信用します」
マリ先輩もローズさんも異論ない様子。
しばらくして、三人の子供を連れた女性が現れる。
金髪にオレンジの目。穏やかな美人さんだか、血色が悪く、魅力が落ちている。その金髪女性、ホリィさんにすがりついている三人の子供。女の子ばかりだ。下の子は2才くらいだよ。金髪に茶色の目、まったく分かってないようで、キョロキョロしている。一番上は8才の女の子だとティラ氏が言っていた。ホリィさんに似てかわいい顔をしている。金髪とオレンジの目だ。もう1人は6才くらい、上の子とよく似ている。茶色の髪にオレンジの目。あ、ジェシカを思い出す。いかん。いかん。
「ホリィです」
ティラ氏から紹介され、ホリィさんは膝を折り挨拶。
「ホリィでございます。どうか子供達と共に、私を買ってください。何でもします。何でもします」
悲壮な声だ。子供達もますますすがりついている。
「私はリツ・サイトウです。家の掃除を主にお願いしたいだけです。もちろん、そちらの条件で構いません」
「あ、ありがとうございます。ありがとうございます」
ホリィさんは感極まったように繰り返す。
あなた達もご挨拶しなさいと言われ、上の二人は小さい声でありがとうございます。下の子は、無理。ホリィさんにしがみつき、抱き上げられる。ティラ氏が示した位置に四人は並ぶ。
「私から子供達の紹介をしましょう。一番上はアンナ、長女、8才。二番はクララ、次女、6才。末っ子はルドルフ、長男、2才です」
あの小さいの男の子でしたか。しかし、紹介されるが子供は警戒している。特に一番上のアンナは。子供ながらに、母親と自分達が売られ買われると言うことを理解しているんだろう。
リツさんは子供達の前に膝つき目線を合わせる。ティラ氏が少し驚いた表情だが、すぐに営業スマイルに。
「はじめまして。リツよ。お母さんとうちに来てもらうことになるけどいいかな?」
「…お母さんと一緒?」
おずおずと上の子、アンナが聞く。
「そうよ。みんな一緒よ。アンナちゃんはお姉ちゃんだから、お母さんのお手伝い出来るかな?」
「うん、できる」
「クララもできる」
隣の下の子クララが手を上げる。お、張り合っているな。
「二人とも偉いわ。じゃあ、うちに来ても大丈夫かな?」
リツさんの優しい声に頷く二人。アンナは涙が浮かんでいる。リツさんがおいでと手を広げると、アンナがすがりつく。
「もう大丈夫よ。大丈夫だからね」
優しくリツさんがアンナの小さな背中をさする。小さいながらに張りつめていたのだろう。離れ離れになるかもしれないと勘づいていたはず。ぐずぐず泣き出すアンナを、リツさんはまるで慈しむように包み込んでいる。もう会えない甥っ子、姪っ子もこんな風に抱き締めていたんだろうな。きっとこれがリツさんの優しさの根本なんだろう。
「こら、アンナ、離れなさい」
ホリィさんがあわてて言う。
「構いませんよ」
リツさんアンナが落ち着くまであやし、奴隷購入手続きに入る。
「ホリィは読み書きできますので600万、子供達は合わせて250万です。サイトウ様の奴隷拘束希望条件は?」
「はい、うちで知り得た情報を漏らさないことです」
「承知しました。子供達は特殊奴隷になります。解放条件は?」
「子供達を奴隷にするのはちょっと…」
「逆に奴隷にすることで、子供達を守れますよ」
ティラ氏の言葉に首を傾げるリツさん。
「誰かに所有されている奴隷に手出しできません。そんかことをしたら罪に問われますから。特にこの子達の父親から」
確かに、自分の女房子供を奴隷として売り払ったやつだ。録でもないやつに決まっている。
読んでいただきありがとうございます。
本日は22時投稿します。




