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引っ越し準備⑥

いざ、出発。

「すごい履き心地がいいです」

 私はオリーブ色のカラーシープのレギンスを履いて、足を曲げてみる。今まで履いていたズボンは何だったんだろうと疑うレベルだ。足のラインが出るけど、軽いし、動きやすい。

「本当にいいんですか?」

「もちろん」

 リツさんはもう一本のズボン、カーゴパンツを片手に優しく言ってくれる。そちらもサイズぴったりだった。なんだろう、リツさんの瑠璃色の瞳に、トレントという文字が見えたのは気のせいか?

「後は付与ね」

 …買ったらいくらになるんだろう? 恐ろしくて聞けない。履いて歩けない。

「けど、時間ないから、トウラに移動後ね」

 そう、明日引っ越し日だ。

 いろいろ作ってましたよ。

 木皿シリーズに、服にいろいろ。日常生活用品も揃えた。石鹸を作っていたのには驚いたが。

 お揃いのふりふりエプロンをマリ先輩から笑顔で渡された時、どうしようかと思ったけど、受け取らない訳にはいけないしね。

「一緒に作りましょうね」

 リツさんの笑顔が痛い。どうやって断ろう。

「原材料確保に行きます」

「あははダメよ。逃げようったってそうはいかないからね」

 ひー、リツさんの笑顔が怖い。

「今日はもう遅いですから、早めにお休みになっては?」

 ローズさんが出来上がった服をきれいに畳みながら、リツさんに提案。助かった。

「そうね、明日早いし、今日は休みましょう」

 私はレギンスとカーゴパンツ、何着かの上着にふりふりエプロンをナリミヤ氏からもらったマジックバックに入れる。このエプロンどうしよう? 解体用にしたら怒られるかな? うーん、やめておこう、せっかく作ってくれたしね。腹を括って料理しましょう。

 私達は早めに就寝。

 朝を迎えて、朝食を食べて、荷物の最終チェック。忘れ物なし。

 ナリミヤ氏がちょっと疲れた顔でやって来る。

「ナリミヤ先輩、大丈夫ですか?」

「うん、大丈夫だよ。知り合いが早く帰ってこいってうるさくて」

「ああ、脳筋の? ダンジョンアタックしてる」

「そうそう。何が楽しいのか。僕は本当はものつくりが好きなんだ」

 レベル200越えが何抜かす。まあ、きっと私の剣のせいだよね。

「あの、剣はもう結構なんですが」

「何言ってるんだい? ダメだよ。ここでダンジョンアタックやめたら、しつこいんだあいつら」

 とんでもないとナリミヤ氏は言う。あいつらって、知り合いだよね?

「とにかく、城門前で待ってて、馬車で迎えにいくから」

 リツさんはナリミヤ氏に宿の鍵を渡す。

「三ヶ月お世話になりました」

 リツさんが宿に頭を下げる。よく分からないけど、感謝の気持ちだね。マリ先輩もしてるし、ローズさんもしてるから、私も乗っかろう。

 久しぶりの城門前に移動してしばらくすると、また、とんでもない馬車が来た。馭者台にはナリミヤ氏が美形スマイル。私は血の気が引くのを感じた。

 だってだって。馬車を牽いているのあれだよ、八本足のスレイプニルだよ。え、何? 何が起きてるの? 伝説級の魔物よ。草原の三大覇者とか言われてるのよ。大型の魔物でも、遭遇したら逃げ出すような魔物よ。下手したらドラゴンとためをはれるのよ。普通に町にいるんですけど。ダメでしょいたら、こんなところに。汗、吹き出してきた。

「立派な馬ね」

「かわいい」

 リツさん、マリ先輩があっけらかんに言う。え、怖くないの? めっちゃデカイよ。鬣なんて、逆立つようになってるし。

 ローズさんをちらっと見ると、あ、気絶寸前。根性でたってる。

 回りの人は、慣れてるのか「いつ見てもすごいな」くらいで済んでる。え、いいの?

「お待たせ」

「立派な馬ですね」

 リツさんリツさん、馬じゃないよ。魔物よ。すごい魔物よ。

 ナリミヤ氏が馭者台から降りる。

「かわいいだろ?」

 はあ? かわいい? 恐ろしいのと同じ言葉ではないのよ。

「はい、触っても大丈夫ですか?」

 マリ先輩が恐ろしい事を言うので、咄嗟にマリ先輩のケープを掴んで、私は無言で首を振る。もちろん横だ。

「あ、ごめんね、僕以外にはなつかないから」

 ほ、よかった。マリ先輩が残念そうな顔で諦めてくれた。あ、スレイプニルがこっちを向いて、口開けて、あ、いかん。

  はみはみ

 ナリミヤ氏の金髪をはみはみしだす。

「僕にはこんなに甘えてくるんだ。かわいいだろ?」

 ナリミヤ氏がえっへんと言いたそうに、スレイプニルの首筋を撫でる。いや、私、ナリミヤ氏の頭がなくなりそうで、怖いんですが。首、もげない? 大丈夫? もげないよね?

「さ。乗って」

 はみはみされながらナリミヤ氏は馬車に促す。

 はしゃぎならがマリ先輩は馬車に乗り込む、リツさんもウキウキと続く。私は真っ青なローズさんの手を引いて乗り込む。

 うわあ、豪華。

 空間拡張され、本来の馬車の十倍以上だろう。

 赤い絨毯に、上品なソファー、レースのクロスのかかったテーブル。何、これ? 何、これ? どこの貴族の屋敷よ。

 私はローズさんをソファーに座らせる。

「じゃあ、出発するからね」

 ナリミヤ氏が変な兜をしてドアを閉めている。目を覆うようなガラス板がはまっている。

 マリ先輩に聞くと、ヘルメットだと。

 私はソファーに腰かける。

 ゆっくり馬車が進み出す。マリ先輩とリツさんは窓に張り付いている。城門を抜け、あまり揺れを感じず、馬車が進む。

「速いね」

 マリ先輩が楽しそう。

 私は窓の外に視線を移すと、景色が恐ろしい速さで流れていく。

 ああ、やはり、普通の馬車の速度じゃない。これ、馬車なの?

 全然揺れない。全く揺れない。

「ローズさん」

「はい」

「こういう馬車なんですよ」

「そうですね」

 しばらくして、ローズさん復活。

 お昼休みを挟んで夕方には、トウラに到着。本来なら魔法馬で10日の距離をだ。

 貴重な体験でした。

 城門を通るときに冒険者ギルドカードを示し、拠点にするため登録する。1000Gを支払う。居住登録したので、出入りにこれ以上お金はかからない。ワープしたらこれができないからわざわざ馬車での移動だった。あと、久しぶりにスレイプニル(スウちゃんという名前らしい)を走らせたかったと。

 屋敷の前まで送ってくれる。

「僕はこれで失礼するけど大丈夫かい? 何かあったらその携帯電話で連絡して、ただ、ダンジョンに潜っていると繋がらないから」

「ありがとうございます。奴隷商会への手紙までありがとうございます」

 リツさんが丁寧にお礼を言ってる。ナリミヤ氏は奴隷商会への紹介書と新しい携帯電話を渡す。

「ナリミヤ先輩は、今から帰るんですか?」

「うん。人気の無いところでワープするよ、あ、はい、最後の剣だよ」

 できてたんかい。

 ナリミヤ氏は緑がかった黒い鞘のロングソードを渡す。うわあ、個人で持っちゃいけないものが来たあ。

「ど、どうも」

 受け取るが、鞘から抜けない。マジックバックにしまう。

「あと、これが、グレイキルスパイダーの布だよ」

 ナリミヤ氏がアイテムボックスから出したのは、絨毯見たいに巻かれたデカイ布。あらぁ、見ちゃいけないものがまた出てきた。量、おかしくない? さすがのマリ先輩も戸惑ってる。

「気にしないて、たくさんあるから」

 気軽ね。本当に。さすが最高ランクの冒険者なのか、そうなのか?

 戸惑っているが、マリ先輩は絨毯のような布を受けとる。余りの大きさなので、すぐにローズさんのマジックバックへ。

「じゃあ、僕行くね。スウちゃんよろしく」

 似合わない名前だね。口が避けても言えない。

 ナリミヤ氏は轟音を響かせ、スレイプニルの引いた馬車で去っていった。町の中ではあまりスピード出せないが、城門過ぎたらすごい土煙を上げ、去っていった。

「なぜ。まだダンジョンに」

「脳筋のお友達の為でしょうね」

 私の問いにリツさんが答えてくれる。

「さあ、私達の家に入りましょう」

読んでいただきありがとうございます。

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