引っ越し準備④
種類?
本日の22時の更新お休みになります。
冒険者ギルドから戻り、昼食後ローズさんの紅茶を頂きながら引っ越しに必要なものをリストアップ。もともとここには生活に必要なものは揃っているが、持ち家となるとそうもいかない。
「まず、何がいるかしら?」
マリ先輩が楽しそうに指折り数える。
「そうね。食器にタオル、鍋にやかん。あと、石鹸に、掃除道具、あ、床は大丈夫ね。試しに作った自動お掃除魔道具、あれ、使えるし」
リツさんが考えながら、一つ一つ出してる。
「あのリツさん」
私は楽しそうなマリ先輩とリツさんに、肝心なことを聞く。
「あれだけの家ですよ。私達だけで維持するの、難しくないですか?」
本職はローズさんだけ、私は大雑把にしかできない。マリ先輩は私より掃除はできる。伯爵令嬢なのに。家主のリツさんにしてもらうのは心苦しいし。
「そうね。お手伝いさんに適宜来てもらった方がいいかしら?」
リツさんがうーんと悩む。
ローズさんが、リツさんに提案を始める。
「リツ様、使用人を雇うのも手がありますが、私達は今低ランクです。まともな方は来てくれるとは思えません。ナリミヤ様のお名前を借りれば、相応の使用人が雇えます」
「いえ、ナリミヤ先輩には、これ以上迷惑をかけたくないし」
「ならば、奴隷はどうでしょうか?」
「ど、奴隷?」
リツさんが戸惑っている。
「確かに、それが安全かも」
「ルナちゃんまで」
いや、あれだけの予算あるから、ナリミヤ氏も奴隷のことを含ませていたとおもうけど。リツさんは気が進まない様子。
「あ、あのねリツちゃん」
マリ先輩が奴隷の説明を始める。
リツさんがいた世界にも、奴隷の歴史があった。敗戦国の人間を鉱山に強制労働したり、ある国では自分のお墓を建てるために、数えきれない犠牲を出した。あとは肌の色が違うために、奴隷にされ、異国で強制労働させられた。そんな歴史がリツさんの頭にあるため、受け入れられないのだと。少し前はこちらもそんな感じだが、今では奴隷の人権が確保されている。購入者は最低限の衣食住を保証しなくてはいけない。そして契約時以外の事を本人の了承を得ず、強要、または、強制させてはならない。当然犯罪もだ、もし、そうなった奴隷は奴隷商館やどこかのギルドに駆け込めば、保護してもらえる。購入者は罰せられる。
「奴隷の種類によって、そのいい方は変わるけど、価格が変わるの」
奴隷の主は借金か犯罪だ。
借金奴隷は、まさに借金をして奴隷になっている。解放条件は購入者との購入時に決められる。何年働くとか、自分を買い戻す額とか。
犯罪奴隷は、犯罪を犯した奴隷。あのガイズの受付嬢や解体職員達だね。犯罪の重さにもよるが、基本的に男は鉱山等で重労働、女も工場等で労働。軽犯罪に限り、数年で解放されるが、それ以外は恩赦がないと無理。価格は借金奴隷より安い。まあ、奴隷の資質にもよるけどね。元冒険者等は安く用心棒になったり、若く美しい女は性奴隷でかなり高額。例えばあの赤髪エルフとかすごい額になるはず。借金奴隷は行政や工場、鉱山の管理者がまとめて買い上げることが多い。
奴隷は種類に関係せず、他者が奴隷を害することは禁じられている。当然手を出したものは、厳しい罰則あり、下手をしたら犯罪奴隷落ちだ。
「後は私のような特殊奴隷です」
「え、ローズさん奴隷なの?」
「元、です」
ローズさんの思わぬ言葉に、リツさんは驚きの声を出し、私もローズさんに振り返る。奴隷は首にチョーカーのような『奴隷紋』があるのだか、ローズさんの首にはない。元、と言っていたから、解除されたんだろう。
「私の場合は、母が妊娠に気が付かないまま奴隷になり、購入先で生まれました。本人の意志に関係なく奴隷になったものですね。私は特殊の中の特殊な例ですか。ほとんどは奴隷狩りで被害に遭ったものです」
「異世界怖いわね」
リツさんが呟く。
「借金奴隷などは向こうの条件等をのむと、かなりよく働いてくれますよ。最低限の衣食住に賃金が貰えますし、何より身を守ることにもなります」
「そうなのね。住み込みで働いてくれる、お手伝いさんを給料を先払いして雇う感じかな?」
「そのような感じです」
リツさん、言い方が上手いし、優しいなあ。
「じゃあ。検討ね。ナリミヤ先輩に相談しましょう。奴隷はどこで会えるのかしら?」
「奴隷商館ですが、私達では、誰かの紹介がなければ敷居すらまたげません。ナリミヤ様に口添えだけご依頼してはどうでしょう?」
「そうよね。人を扱っているしね、安い買い物でもないでしょうし、ナリミヤ先輩にトウリに移動する時に聞いて見ましょう」
リツさんは奴隷に前向きかな? うちのターシャも元借金奴隷で、解放されてもコードウェルで安い給料で働いてくれてる。元気かなぁ。私が角ウサギぶら下げて帰って来る度に、卒倒しそうになってた。
「後は、最低限の生活用品ね。ちょっとお店を回って見ましょう。食材はある程度あるし」
思い付く限りの必要物品を書き出し、繰り出した。
「いやぁ、お嬢さん方、お目が高い」
からからと髭もじゃのドワーフが笑う。金物屋で熱心に鍋やら包丁やハサミ、鉈等の庭の剪定道具を選ぶと、店主のドワーフが嬉しそうに包んでくれた。
「どれも大事に作られたものじゃから。お嬢さん方も大事に使ってくれ」
「ありがとうございます」
何でも包丁は店主の自信作とのこと。真っ先に手にしていたのを見て、店主はいたく喜んでいた。
受け取り、リツさんのアイテムボックスへ。
「あの、木材とタオルとか布を売っている店はどこですかね?」
「木材なら、三軒右隣。布は商人ギルドの裏通りに何件かあるぞ」
リツさんが訪ねると、店主のドワーフは丁寧に教えてくれた。
金物屋を出て木材店へ。
「家具でも作るんですか?」
私が聞くと、リツさんがリストを見ながら答えてくれる。
「それもあるけど、木皿を作ろうかと思って。いきなり大きな家具を作るの不安だし、練習も兼ねてね」
「なるほど」
それから、木材店でアカシヤやオリーブの木材を購入。高級なトレントの木材の前で、散々悩んでいたが、結局諦めていた。サイズが希望していたものより小さかったからだ。仕方なく、いずれ作る予定のマリ先輩の杖用のトレント材を購入。
かなりの時間、木材店にいたので、急いで布屋に。何種類か慎重に選び買っている。白、薄茶、濃紺、灰色。
「エプロンは白かしら」
リツさんは白の生地を広げる。
「こちらの生地は南のタランス産の綿を使用してます。少々値は張りますが、丈夫な上に、通気性、肌触りもよろしいですよ。料理人のコック服やエプロンはもちろん、冒険者や騎士が鎧の下に身につけるシャツにも選ばれます。こちらの濃紺もそうですね。薄茶と灰色は、クリスタム産の綿です。お手軽な値段かと。柔らかく普段着に適しています」
閉店間際なのに、店主は丁寧に対応してくれる。
リツさんは白の生地を目を細めてチェック。鑑定してるな。
「タランス産は使い勝手がいいかも、これにします。10mください。濃紺もください。後はこちらの薄茶と灰色も。その黒とオリーブ色の生地は?」
リツさんが奥の方にある生地を指す。10mって、何枚シャツ作る気?
「あれは、カラーシープの生地です。まだ、付与がついていませんが、黒は闇、オリーブは風の魔法補助が性質上すでにあります。魔物素材なので、綿より遥かに丈夫で、発汗性に優れ、伸縮性があるので、ズボンに最適です。しかしかなり値が張ります」
「闇と風か。ルナちゃんは風魔法使うよね?」
手持ちぶさたで眺めていた私は、リツさんに急に話を振られあわてて振り返る。
「はい、主に身体強化ですが」
「じゃあ、ルナちゃんのズボン、いやレギンスがいいかしら」
「はい?」
「きっとこの生地でさらにルナちゃんのパワーアップできる。それに、ルナちゃん着た切り雀でしょ。何着か用意しないと」
「いやいや、自分で服、何とかしますよ」
カラーシープの生地を手に取るリツさん。
ちょっとリツさん。そのカラーシープ、生地にすでに魔法補助があるなら、高額よ、タランス産の綿と桁が違うのよ。桁が。二つね。桁が二つね。
高い高いとリツさんに訴える。
「いいのよ。ルナちゃんにはトレント取って来てもらわないといけないし」
あ、忘れてなかったのね。
「ほう、お若いのに、優秀な方なんですね。風魔法の身体強化なら、まさにこの生地が最適です。無属性のカラーシープも揃えています」
さっと生成の生地を差し出す。商売上手ね店主。
「あら、比べると随分安いんですね」
「カラーシープはほとんどは無属性なんです。こちらのように風や闇の補助があるのが珍しいため、高価になります。しかし、丈夫さや伸縮性は変わりません」
「そうですか。なら、風の生地を3m、無属性を10mください」
リツさんリツさん、ちょっとちょっと。私が袖を引くと、かわいい顔なのに、男前な笑顔を浮かべる。予算あるからと。あ、ナリミヤ氏からもらったお金ね。まだ、1億以上ありましたね。
それから、糸も選んでいる。あれ、針、どうするのかな? 聞いてみると、三人はぐっと親指を立て「錬金術」と答えたので、それ以上は聞かないことにした。
リツさんのギルドカードでお支払い。
タランス産の生地は10mで70000×2 クリスタム産10mで30000×2 カラーシープ(風)3mで300000 カラーシープ(無属性)10mで120000 生地だけで合計62万です。後は糸だが、かなりおまけしてくれた。糸は全部で5000G。金銭感覚麻痺しそうだよ。
私のズボン用が、とんでもない額なんですが? 生地でこれだけなら、仕立てたらいくらになるんだろう。切れっぱし出たら貰えないかな? ジェシカのリボン位にならないかな? あ、ダメだよね。うん、ダメだよね。
読んでいただきありがとうございます。