引っ越し準備③
薙刀と盾
あれから屋敷に戻り、地下室に降りる。ガードマン・ガーディアンがさっと扉を開けてくれましたよ。相変わらず迫力。リツさんが「名前どうしよう」と言ってる。え、つけるの? いや、リツさんがナリミヤ氏から買ったのだ、私は何も言うまい。
そして、ワープ。
気持ち悪い。崩れ落ちる私とローズさん。始めに比べていいけど、気持ち悪いのは変わらない。
何とか回復している最中。
「じゃあ、5日後に来るね。あ、そうだ。槍と盾だよ」
あ、どうも。今ね、回復中ですので。ちょっときちんとお礼言えない。
渡されるまま、受けとる。
後で確認しよう。
「剣はもう少し待ってね。どうしても入れたい素材があってね」
「もう、いいんですが…」
「ダメだよ。約束したからね。しっかり魔力感知上げてね。出来れば魔力操作と干渉も出来れば」
「無理です」
気持ち悪い中でも突っ込む。魔力操作は何とかなっても、さらに上位スキルなんて無理だよ。何、あのエルフ、魔力干渉なんて持ってるの? さすがに魔力関連は人族より優れているな。しかし、私には無理だよ、生きてる間に取得できる気がしない。確かに、エルフの剣とひけをとらない一振りって言ったけど。
「もう、本当にいいんですが」
「大丈夫だよ、心配しないで、ちゃんと材料揃うから」
私が心配してるのは、そこじゃない。そこじゃないよ。
「何をいれるんです?」
リツさん、聞かないで。
「えっとね。火竜か風竜の牙、オリハルコンも外せないし」
「竜ですか? どこにいるんです?」
「ダンジョンだよ。確実にいるからね」
「え? ナリミヤ先輩一人で行くんですか?」
「まさか。脳筋の友達がいてね。彼らと行くよ」
私の耳、おかしいかな? 今、火竜とか風竜とか、オリハルコンとか聞こえたけど。いや、そんなの入れたら個人で持っていたらダメなものでしょう。ダメだよ。ダメでしょう。
「なので、もうちょっと待ってね」
もう、出来なくて大丈夫です。絶対使いこなせない。
オリハルコンは現存する金属で最高ランク。硬いし、魔力の流れは最高。アダマイタイトやミスリルなんて目じゃない。ただ、扱いに高い魔力系スキルが必要。私? 今の私じゃ絶対無理。宝の持ち腐れだよ。しかも、竜の牙って何よ。ワイバーンでも、引いたのに。何言ってるのこの人。
「本当に本当に、いいんですけど」
ささやかに言ってみたけど、ナリミヤ氏が輝くような美形スマイルで、大丈夫だよと。
違う。私の心配はそこじゃない。そこじゃないのよ。
「じゃあ、また。醤油ありがとう」
マリ先輩から渡された小さなビンを抱えて帰って行ったよ。
「薙刀ね」
「そうね」
リツさんとマリ先輩が、ナリミヤ氏から渡された槍を見ながら教えてくれる。槍の穂先が、見たことのないものだった。やや反ったような刃がついてる。ちょっと思ったより刃の部分が大きい。
復活した私は、槍、いや薙刀を眺める。ローズさんも無事復活して、みんなで薙刀を眺める。
突くというより、撫で斬る、そんな感じ。長さもちょうどいい。重さもちょうどいい。
「付与ついてます?」
鑑定スキルのある、リツさんに聞く。
「えーっと、中の火・風魔法強化、自動修復、衝撃吸収。後、硬化強化と、重量軽減。材質はミスリルが主に使われてる。魔鉄にアダマイタイト、柄はレッドトレントで、ワイバーンの皮が巻かれている」
「わーお」
また、とんでもないのが来た。レッドトレントはトレントの上位種で、なかなか見かけないし、樹の魔物なのに火魔法を使う非常識な魔物。その素質でそのレッドトレントで作られた盾は火に強く、また、火魔法と相性がいい。
「ねえ、盾は?」
マリ先輩が盾、ラウンドシールドを両手で持ち、リツさんに聞いてる。
「レッドトレントにミスリルと、アダマイタイト巻いている感じかな。中の火・風魔法強化、魔法防御、自動修復、衝撃吸収、大の重量軽減」
大の重量軽減か。重くないはず。軽い。しかし、盛ったなあ。ナリミヤ氏。
「ルナちゃんの装備、揃って来たね」
「私には身分不相応ですよ」
マリ先輩の言葉に、私は冷静に返す。
「そうかな?」
「しばらく慣れるまで、使えません」
今度試しに使いたいが、しばらく引っ越しの準備の手伝いしないと。
「トウリに移ってから試しに使います、あ、明日冒険者ギルドに行ってきます。拠点がトウリになることグラウスさんに報せないと」
「あ、そっか。保証人だったね」
何か言われそうだけど。誤魔化そう。
「私達は拠点の移動のこと、ギルドに言った方がいいかな?」
リツさんが聞いてくる。
「トウリに移動してからでいいですよ。別にパーティー組んでるわけでもないし」
それから、私の新しい薙刀と盾を思う存分観察した後三人が納得して、ようやく夕食を取った。川魚のソテーにラタトゥイユ、マリ先輩特製白パン。うん、今日も美味しかったです。
次の日、私は冒険者ギルドへ。
三人は部屋の片付け。
グラウスさんに伝言位でいいかな、と思っていたけど、連行されました。マスター室に。何故か。
「嬢ちゃん久しぶりだな」
何故かギルドマスターだ。マスター室だしね。いて当然か。
白髪のおじさん、ギルドマスターがニコニコしてる。
「はあ、あの、グラウスさんは?」
「ん? ああ、あいつは商人ギルドに行ってるよ。伝言なら、俺が受けるぞ」
「なら、トウラに拠点を移すので、と伝えてください」
「え、マルベール出るのか?」
心底驚いているギルドマスター。
「はい」
「え、ほら、保証人のグラウスはマルベールにいるし、いいところだよ。ここ」
「グラウスさんは拘束するつもりはないと」
「でも、ほら、ほら、依頼一杯あるし」
「私はJランクですよ、あのギルドマスター」
「なんだ?」
「仕事しないと、グラウスさんに怒られますよ」
私の言葉に、うっ、と胸を押さえるギルドマスター。
「机の上の書類の山、どうにかしないといけないんじゃないんですか?」
ぐわっと呻くギルドマスター。なんなの。
「帰っていいですか?」
伝言よろしくお願いします。と最後に言ってマスター室を出た。
そんなにグラウスさんが、怖いなら、仕事したらいいのに。
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