引っ越し準備②
狩って来て。
ちょっと短め。
役場まで歩いて10分。すぐ近くに冒険者ギルドや商人ギルド、鍛治師ギルドなどがある。
「結構人がいますね」
リツさんが辺りを見渡しながら聞く。
多種多様の種族に、職種の人達が歩いている。ギルドが近いせいか、余計に多い気がする。露店も活気がある。
「そうだね。街道が通ったりしたから、余計にね。あ、あそこがマルシェだよ」
ナリミヤ氏が指した先には、沢山の人が行き交うマルシェ。
「生活に必要なものは、大体ここで揃うよ。家具屋はちょっと奥ね」
あそこのお肉の処理きれいだよ、果物はあそこと奥にある赤い旗のお店がオススメだよ、野菜はね、なんて教えてくれる。
「ナリミヤ先輩は自炊しているんですね」
「こっちに来た時はね。今は忙しいから、やってもらってる」
話をしているうちに役所に到着。
ナリミヤ氏とリツさんが奥に向かい、私達は備え付けベンチに腰かける。
「あ、騎士隊だ」
マリ先輩が開け放たれた窓から、颯爽と馬で進む騎士隊を見つける。
「ここは辺境伯が統治していますから、その辺境伯の騎士隊でしょうね」
ローズさんが答えている。
「あれ、ここって国境近いの?」
「いえ、確かクリスタム最大の魔の森が近いのと、街道が通る前はここが、ワイバック王国との最前線だったはず」
魔の森とは、簡単に説明すると、魔物がいっぱいいる森。開拓しようにも、リスクが大きすぎるので、広がらないようにするのが最良の策。辺境伯がその任にあたっているわけだ。おそらく冒険者ギルドも大きいのだろう。結構な数の冒険者が行き交っている。
しかし、ワイバック王国か、あまりいい噂聞かないな。ライドエルとは、クリスタムを挟んでいるから直接的に干渉はないが。
「今は新しいミュートという城塞都市が最前線です」
ローズさん物知りだね。
しばらくしてナリミヤ氏とリツさんが戻ってくる。
「お待たせしたね」
「手続き終わったわ。冒険者ギルドカードって、免許証みたいなのね」
メンキョショウ? あ、きっと異世界のギルドカードね。
「そうだよ。ギルドカードはそういった役割あるからね」
なくさないように、とナリミヤ氏。わかってますよ。
「じゃあ、家具屋に行こうか」
「お願いルナちゃん、トレント狩って来て」
只今家具屋です。一番の目的、ダイニングテーブルの前で、マリ先輩とリツさんがお願いしてきた。かわいい二人のお願い攻撃に、私の生命力が削られる。
ちょうどいいサイズのダイニングテーブルがなく、さんざん悩んだ結果、ナリミヤ氏の一言。
「トレントなら魔の森にいるよ。自分の好きなサイズで作れるとおもうけど」
それで、これだ。レベル200越えがなに抜かしてる。
トレントは高級家具によく使われる。丈夫だし、防腐力あるし、防虫力もあり。だから、お値段がいいのよ。
「いや、あのですね、簡単にトレントなんて狩れませんよ。トレントなんて斧か鉈が必要だし」
「ルナちゃんなら、一刀両断できそうだよ」
気軽ね、マリ先輩。相手は樹の魔物よ。薪じゃないのよ。枝やら根やら、時には木の実で攻撃してくるんだから。しかも生木よ。刃が食い込んで大変なのよ。前世でひどい目にあったから嫌なのよ。
「だから、私をなんだと思っているんですか? 無理ですよ無理。一人じゃ無理」
「君、レベルは?」
のほほんとレベル200越えが聞いてくる。きぃー。
「24です」
「高いじゃないか。大丈夫だよ、君ならできるよ」
「レベル200越えてる人に言われてもね」
私は嫌みで切り返す。
「大丈夫だよ、ほら、僕が作った剣なら火魔法全力でかけたら」
なんでこの人必死に私を励ましてるの?
「とりあえず、何か手頃なものを選んではどうでしょう? トレント材が手に入っても、すぐに加工は無理でしょうから」
ローズさんの助け船。ありがたく乗ります。
しぶしぶ諦めてくれるマリ先輩とローズさん。後ろで店員さんが疲れてます。
結局、6人掛けのダイニングテーブルと椅子。ソファーにローテーブルを選び、リツさんがアイテムボックスに入れる。
店員さんが丁寧にお見送りしてくれた。ナリミヤ氏はここトウリでは、有名人みたい。出歩くときはフードをしっかり被っている。
まだ、夕方にはなってないが、ナリミヤ氏が申し訳なさそうに帰宅時間を告げる。
「構いません、こちらがお世話になっているんですから」
「すまないね。あ、そうだ。僕、ワープ使えるけど、複数人を運べることは内緒にしてくれる? ちょっといろいろあって」
わかってますよ、軍事利用されそうだものね。
ん、待てよ。帰るって、また、ワープ? えぇ、やだなあ。
ちらっと、ローズさんを見ると、青ざめてました。
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