拠点⑤
家?
浮いた。体が浮いた。周りがぐわぐわ、景色が歪む。歪む。歪む。歪む。
気持ち悪い。気持ち悪い。そして、ふわっと落ちる。
気持ち悪い。足の裏に床を感じる。何だろう、地面ってこんなに安心できるものなの。
「着いたよ」
ローズさんが床に手をつく。私も膝をつく。
なんでこんなに軽いの人。なんなのこの人。
マリ先輩とリツさんが、すごいすごいとはしゃいでいる。私、もう、突っ込めない。
「ここは地下だよ、さ、上がろうか」
ちょっと待ってよ。ちょっと待ってよ。着いていけない。
「地下って、トウリの拠点の地下ですか?」
リツさんが辺りを見渡す。
「そうだよ。前はここに転移門あったけどね」
何度か息をして、ようやく落ち着いて辺りを見渡す。石造りの地下のようだ、天井も高いし、広い。奥に扉。多分、地下なら、地上に繋がるのか。
未だに崩れ落ちてるローズさんの背中を、マリ先輩がさすっている。
「立てそう?」
リツさんも心配してくれる。
「大丈夫です」
私は自力で立ち上がる。まだ、ちょっとふらついているが、膝を叩いて立つ。
ローズさんはマリ先輩に支えられ立ち上がる。本来なら私が支えないといけないが、今、自分だけで、精一杯。
ナリミヤ氏を先頭に、ドアを抜け、短い廊下を抜ける。夏だけど、涼しい。地下のせいかな。しかし、不気味。進む度に壁の明かりがつく。
「人感センサーですか?」
リツさんが聞く。なんだ、なんの魔法? いや、どうでもいいや。きっと錬金術の一種だよね。
「当たり、こっちの部屋は貯蔵庫だよ。一応腐敗防止のために、時間遅効の魔方陣あるけど、魔石をセットしないと作動しないからね」
ナリミヤ氏は階段を上がる前に、もう一枚のドアを示す。普通ないからね、腐敗防止の貯蔵庫なんて。そして、階段を上がると、もう一枚のドア。
「さあ、ここが、エントランスだよ」
ドアを開けると、自然の光が差し込む広いエントランス。ああ、なんか、安心。
「あ、土禁で」
靴を脱ぐナリミヤ氏。え、何、なんで。てか、土禁? 何?
マリ先輩とリツさんはすぐ理解して、靴を脱ぐ。ナリミヤ氏はアイテムボックスからスリッパを出してくれたので、私とローズさんも履き替える。リツさんが日本の風習で、家の中は靴は履かないと教えてくれる。裸足かスリッパと。へぇそうなの。
吹き抜けのエントランスの横のドアから、ナリミヤ氏誘導で移動。うん、広い。二階立てみたいだ。
「好きに見る?」
ナリミヤ氏が聞いてくるので、私達は好き勝手に見ることに。一階は居間、応接間、食堂。広い台所、奥に部屋が四つ。一つは広めで、奥に小さな続きの部屋がある。元貧乏貴族の私はわからなかったが、ローズさんが、使用人部屋と教えてくれる。後は水洗トイレが二つに、洗面所に家事部屋。マリ先輩とリツさんは台所を入念にチェック。台所だけ、しっかり魔道具揃ってます。コンロが四つ、大型オーブン、大型冷蔵庫。後、この箱何?
「あ、食器洗浄機ね」
はい? 食器洗ってくれる魔道具なの? ローズさんの目が輝いてる。ああ、やっと復活したのね。
あと、各部屋に空調の魔道具がある。奥に広いお風呂があった。シャワーも完備。広いなあと思っていた「皆で入りましょ」というマリ先輩の言葉に、私は吹き出した。いや、無理だ。いろいろ精神打撃受けそうだから。
二人が納得するまで、台所をチェック。二階へ。
全部で七つ。一番大きい部屋には、奥にもう一部屋に衣装部屋、多分主人の部屋かな? トイレに洗面所ついてる。あはは、すごーい。後は次に大きな部屋、まあ、この家なら中ね、二つ。一つは小さな部屋と中で繋がっている。中の部屋にはちょっと狭い衣装部屋ありました。残りは小さい部屋。いや、小さい部屋なんて言っても、十分な広さよ。それぞれ、ガラス窓にはカーテン下がってる。二階には、もう一つトイレと洗面所がある。ちゃんとあります、空調魔道具。あはは、すごーい。
なんだろう、ちょっと疲れたよ、凄すぎて。これ、拠点じゃない、お屋敷、豪邸よ。
一旦ナリミヤ氏と合流。外に出ると、広い敷地だな。まあ、マリベールの豪邸よりは小さい。いや、十分に広いからね。
高い塀に囲まれている。うん、防犯としてはまずまずだね。
「あそこがアトリエだよ」
示されたのは、家だよ、普通の平屋だよ。私がイメージしていたの、これくらいだったんだよ。
私は黙ったまま、輝く瞳の三人の後に続く。
「中は空だけど、奥には炉があるからね」
ドアを開けると、大きい部屋に奥には鍛治場、ちゃんとトイレに洗面所あります。三人があちこちチェック。
「歩いて10分で冒険者ギルドと、市場があるよ」
かなり、立地いいな。
………いくらなんだろう。
「一応ガードマン・ガーディアンが二体、敷地内に循環するのが一体だよ」
ナリミヤ氏、何を言ってるの?
ひとしきりチェックしたリツさんが、肝心なこと聞く。
「あの、家賃は」
「35万だよ」
はあ、安くない? もっと、100万以上言われると思っていたけど。
「いろいろ改修したから、その材料費込みで、買い取りなら3億7000万だけど、3億5000万でどう。今なら魔道具付き、ガーディアン付き、四人分のベッドと布団もつけるよ」
「買います」
リツさーん。
てきぱきと話が続く。
私はついていけず、リツさんはアイテムボックスから大金貨の詰まった袋を出しているのを見ていただけだった。
「ここが、パーティーハウスになるのね」
マリ先輩が嬉しそうに言うけど、私は最後までついていけなかった。
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