拠点④
いざ。
ちょっと短め。
宿に戻る。ドアを開けると、いい匂いが溢れ出す。ああ、冒険者ギルドでのいろんな気持ちが流れ出す。
「あ、お帰りなさい、ルナちゃん」
マリ先輩がフライパンの中身をかき回しながら、振り返る。いつもの笑顔が、ほっとさせてくれる。
「ただいま戻りました」
空調が整った居間と台所に大量の野菜と果物、そして肉。多くない? テーブルに乗りきれてないよ。
「どんだけ買って来たんですか?」
野菜の山の向こうで、ローズさんが顔を出す。
「籠城できます」
「何から身を守るんです?」
ローズさんの言葉に私は突っ込む。
リツさんが大きなボウルを持ってくる。
「お帰りなさいルナさん、早速だけど、これ一緒に包みましょ。さ、手を洗って」
「了解です隊長」
何、隊長って、笑うリツさん。
私は手を洗ってスタンバイ。
「さ、餃子よ」
あ、あの薄い丸い小麦粉の皮だ。いろいろあって放置されていた。ボウルの中身はひき肉と細かく刻んだ野菜が混ぜ混んである。
「まず、皮を手にとって」
はい。
「たねをスプーンでこれくらいすくって、皮にのせて」
これくらいね。
「次に水を縁半分に塗って、こうひだを作って、空気を抜きながら閉じるね」
こうかな、えいえい。どうだ。
「上手よルナさん」
「そ、そうですか? リツさん、私のこと『さん』つけなくてもいいですよ」
「あらそう? じゃあ私もルナちゃんっていうね。ルナちゃん、この餃子、お願いね」
「はい」
へへへ、任せてください。
「はい、皮よ」
ざっと出された、多量の皮。あら? あら? 多くない? ちょっと山だよこれ。
「よろしくルナちゃん」
「……はい、全部、包みます」
こりゃ日がくれるぞ。
案の定、日が暮れた。
私の前に最後の餃子が並ぶ。ちょっと破れたりしてる所あるけど、ご愛敬ってことで。
疲れた、単純作業は無心にならないと私には無理だ。マリ先輩とリツさんは楽しそうだ。次はあれ作ろうとか、これ作ろうとか話している。ローズさんは変わらず無表情でいろいろしてる。
「遅くなっちゃったね」
マリ先輩、本当に遅いですよ。今は夏の終わりでまだ日が長いのよ。お腹ペコペコだよ、こんなにいい匂いが充満してるのに。お腹ペコペコだよ。
「夕御飯よ」
リツさん、待ってたよその言葉。
残りの野菜を、リツさんのアイテムボックスやローズさんのマジックバックに入っていく。私の餃子も。今日、食べないのね。
「さあ、今日はしょうが焼きよ」
もう、部屋中いろんな匂いがしてる。
角ウサギの角だね。薬の感覚しかないから、ぴんと来なかったけど、ちゃんと料理になってる。
今日はご飯だ。マッシュポテトには刻んだパセリが振りかけられ、トマトはくしぎりにされてる。そして茶色に焼かれたのお肉が角料理ね。後、味噌汁。味噌汁とは、味噌をいれ溶かしたスープ。味噌スープじゃないのかな? と、思ったが、マリ先輩もリツさんも味噌汁と譲らない。まあ、美味しいなら、名前は何でもいいけど。
「いただきます」
まず、味噌汁、ずーっとな。うん、安心の味。キノコたっぷり。で、この茶色に焼かれた肉はどうかな?
ぱくり
甘、いや、ちょっと辛い? 何これ美味しい。ぱくり、美味しい。ご飯、ぱくり。美味しい。ぱくりぱくり、ばくばく。角ウサギやるな。ばくばく。ばくばく。ソースが美味しい、ソースだけで、ご飯が行けます。うん、ご飯、止まらない。
「ルナちゃん、ご飯はおかわりあるよ」
マリ先輩が嬉しそうに言う。
「いただきますッ」
もちろん、おかわりです。
よし、今度、角ウサギ狩りまくろう。
次の日、朝からバタバタ片付けて、ナリミヤ氏を待つ。
何とか片付けて一息つくと、ナリミヤ氏が来訪。
「やあ、おはよう」
いつ見ても美形だね。慣れたけど。
「早速行こうか、みんな、手を繋いで、円になって」
は?
「どうするんです?」
リツさんが聞く。そうだよね、トウリは魔法馬で10日だし。まさか、ワープ? 確か時空間魔法スキルレベル80超えだったから、出来なくないだろうけど、まさか生体まで? うわ、怖。しかもナリミヤ氏含め五人だよ。魔法馬で10日の距離だよ。あ、そっか、何回かに分けてワープをするのね。なるほど。
「ワープだよ、一気に行くからね」
…………はあ?
すごいですね、なんて、言ってるマリ先輩とリツさん。隣で手を繋いだローズさんを見ると、顔色悪い。私と顔を会わせて、はい、諦めます。
「さて、手を繋いだ? よし、ふー。ワープ」
体が、ふわっと浮いたが、血が頭から引くのを感じた。
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