拠点③
捜索?
冒険者ギルドに向かい、リツさんは自分のギルドカードに金貨五枚を入れた。受け付け嬢はさすがプロ、顔色一つ変えずに対応しました。
で、私は副ギルドマスターに呼び出しです。
何故?
と、思いつつ少し時間がかかると言われる。わあ、逃げたい。
結局、私は冒険者ギルドに残り、マリ先輩達だけでマルシェへ。大丈夫かな? 絡まれたりしないかな? 心配するが、大丈夫と押しきられる。ローズさんいるから、変なのについていくわけないか。
ハラハラした気持ちで私は三人を見送る。
「じゃあ、私達は買い物するから、ルナちゃんお話終わったら宿に戻ってて」
マリ先輩からスペアの鍵を渡される。
「いいですか? 単独行動はダメですよ。何かあったら大声だして」
「大丈夫だよ。心配性なんだから」
あのね、マリ先輩、だから心配なのよ。だいたいマリ先輩とリツさん気になるのあったら、こちらを気にせず左右に別れちゃうでしょ。最初のマルシェで私とローズさんが慌てる慌てる。
「大丈夫です、ルミナス様。お二人には手を繋いでいただきますので」
小さな子供か? ま、もう、いいや。マリ先輩とリツさんがものすごくかわいいから。男臭い連中が見てる。まったく気づいていない二人。
「分かりました、気をつけてくださいね」
私はナリミヤ氏のナイフをローズさんに渡す。
「いざというときはこれで」
「承知しました」
あら、回りがドン引きしてる。
かわいいマリ先輩とリツさん、美人のローズさんを守るにはこれくらいはしないとね。この三ヶ月でローズさんは無事に無属性魔法を取得。恐らく魔力感知も上がっているはず。これなら魔力の当て身とかもできるしね。
「じゃあ気をつけてくださいね」
私は最後に念押しして見送る。
後ろで「おかんだ」と言う言葉は無視。
しばらく、いや、結構待って職員から声がかかる。やっとか。でも、副ギルドマスターなら忙しいよね、しょうがないか。いつもの応接間に通される。
「お待たせしましたね。申し訳ない」
副ギルドマスターのグラウスさんが、書類片手に応接間に入ってくる。
「いえ、大丈夫です」
一応社交辞令。
「早速ですが」
グラウスさんは、私と対面するソファに座る。書類出す。その文字を見て、私は血の気が引く。
「ルミナス・コードウェルさん、貴方はライドエルのコードウェル男爵家の長女ですね? 貴方の捜索依頼が出てます」
グラウスさんの言葉が、素通りする。心臓が、静かに打ち出す。
差し出された書類には、私の捜索依頼がかかれている。
どうして、捜索依頼が? ちゃんと探さないで、帰らないと書いた手紙をおいて来たのに。捜索依頼なんて、タダじゃない、うちにそんな余裕ないのに。どうして? どうして? どうして?
「大丈夫ですか?」
グラウスさんの声が入って来ない。
私は右手で額を覆って、前髪を掴む。
今日、あんな夢をみたばかりなのに。なんで? どうして?
「コードウェルさん?」
どうして、捜索依頼なんて、出してるの?
「ルミナス・コードウェルさんッ」
大きなグラウスさんの声が、私を引き戻す。
「あ、はい…」
「大丈夫ですか? 急にどうされました?」
「いえ、ちょっと」
私は汗をかきながら曖昧に返事する。グラウスさんは少し訝しげに眉を動かす。
「まあ、いいでしょう。とにかく、貴方の捜索依頼です。ライドエルの冒険者ギルドに報告を」
「やめてくださいッ」
私は声も張り上げる。咄嗟に、出た。出して、私は口元を覆う。グラウスさんはさらに訝しげに顔を歪める。
「その、私は、その、ライドエルに戻る気はないので」
「……はあ、そうですか」
グラウスさんが深いため息をつく。
「しかし、最低限の報告はしなくてはいけません。貴方がクリスタムにいることは伏せますが、生存報告は必要です。それでコードウェル家が納得するかです」
グラウスさんは続ける。
「手紙を書かれたらどうですか?」
「手紙?」
「そう、報告しないだけより、ないよりましでしょう。便箋はこちらのものをどうぞ。確認ですが、貴方、虐待とか受けてないですよね?」
グラウスさんが便箋を出しながら、とんでもないことを聞いてくる。
「いいえ、ライドエルの両親は優しく育ててくれました。父は働きものだし、母は心配性だし、弟も妹もかわいいし」
「そうですか。なら、よろしいですよ」
グラウスさんは一枚の便箋を出す。
「どうぞ」
出されたが、何書いたらいいのか。
私は散々悩んで、書いた。
『生きてます。探さないで』
「もうちょっと、どうにかなりません?」
グラウスさんが少し呆れてる。だって何を書いたらいいか、分からない。えっと差し障りなく、あ、そうだ。
『新しい友達できて、忙しく過ごしてます。餌付け』
「はい、書き直し」
グラウスさんが便箋を取り上げる。
「ダメですか?」
「ダメですよ。何ですか餌付けって。ものはいいようです」
なるほどね。では。
『新しい友達できて、忙しく過ごしてます。しばらく帰れません。心配しないでください。ご飯ちゃんと食べてます』
どうだ。
しばらく帰れませんは、何年先か分からないよって意味。ご飯は食べてますは、食べさせてもらっています。心配しないでは、忘れてだ。なかなかいい感じの手紙だね。我ながら上出来。
「まあ、いいでしょう」
グラウスさんが少し呆れている。
あ、そうだ。
私は袋を取り出す。
「これも一緒に送ってください」
「これは? よろしいですか?」
「構いません」
それはガイズの冒険者ギルドで起きた騒ぎの慰謝料だ。手付かずで残ってた。
「生活に困ってないし」
これなら田舎のコードウェル家の食費がかなり浮くはず。エリックとジェシカ、これで少しは美味しいもの食べれるはず。あ、そうだ、手紙にお金の件を書き加えと、と。
「分かりました」
グラウスさんは納得してくれた。良かった理解ある人で。
これでしばらくは、大丈夫だろう。ああ、ちょっとほっとした。
しかし、手紙と袋を確認してグラウスさんは釘をさす。
「一度、帰国をオススメします。貴方は未成年なんですよ。本来ならまだ親の庇護下にいるはずなんですから。まったくどうやってここまで来たのかじっくり話をしたいのですが、あいにく時間が取れません」
よし、さすが、クリスタム王国冒険者ギルド本部副ギルドマスター。忙しいのに感謝。
「それでは手続きをします」
「よろしくお願いします」
「はい。そういえば、あの『暁』からパーティーメンバーの勧誘があったようですね」
「はあ」
よくご存知で。
「でも、お断りしました」
「そのようですね。しかし、彼らは優秀な冒険者パーティーですよ。今はBランクパーティーですが、Aランク確実と言われてます。リーダーのライナスも人望があるようですし」
確かに紳士的だったな、渋いライナスさんをぼわっと思い出す。ちょうど錬金術講座が始まった頃で、すっかり忘れ去っていた。よく考えたら、普通Bランクのパーティーから勧誘なんて、そうないよね。
「随分、彼らの肩を持ちますね」
「貴方の保護者にちょうどいいかと思いましてね」
保護者とな?
「はあ、そうですか」
「まあ、保証人は私ですが、常に側にいるわけではないですしね。貴方にその気がないなら私は無理強いしませんが、くどいようですが、貴方はまだ、未成年ですからね」
くどいよ、言われなくても分かってますよ。一応成人しているマリ先輩達といるから大丈夫だよ。
「一緒にいる彼女達を見てると、どっちが保護者か分からなくなりますからね」
あ、そうなの?
それからグラウスさんのちょっとお小言が続く。忙しいんじゃないの? 副ギルドマスターさん。
しばらくして、ようやく解放され、私はスペアの鍵を確認し冒険者ギルドを出た。
結構時間がかかったな。きっと、マリ先輩達は宿に帰っているだろう。早く帰ろう。
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