拠点①
どうしましょう?
「じゃあ、また、明後日に来るね、それまでゆっくりしてて」
私達が落ち着いた後、ナリミヤ氏は今後どうするか聞いてきた。
確かに、そうだ。今の宿はナリミヤ氏が借りてくれてる。今後どうするかだ。
「どうしよう? 春風亭に戻る?」
リツさんがどうしようか、聞いてきた。
「でも、春風亭では思うように錬金術出来ない」
マリ先輩が意見を出す。
「確かにそうですが、この宿をもう少し延長してはどうでしょう?」
ローズさんの意見が最良な気がした。私は反対はないが、ここいくらだ? 他人の財布で生活してたから、よくわからないが。建物、備え付けの魔道具、立地的にかなりいいからそこそこするはず。
「あ、ごめんね。もう次の借り手がいるから」
残念な報告がナリミヤ氏の口から出る。
確かにそこそこの稼ぎのある冒険者パーティー向けの宿。ナリミヤ氏の冒険者としてのランクで個人で信頼借りしてるだけだ。
私達のランクで借りれる一軒家タイプの宿か。厳しいな。私はJの未成年、三人はHの最低ランク。
お金にものを言わせれば、多分行けるだろうけど。ふっかけられそうだ。
「あの、予定がないなら、僕の提案を受けてくれないかな?」
うーん、と悩んでいるとナリミヤ氏が声をかけてきた。
なんだろうと私達が顔を見合わせると、手持ちの物件があるらしく、そこをしばらく拠点にしては? とのこと。もちろん家賃は正規にいただきますと言っていたが、なんとなく、ナリミヤ氏がリツさんに大金貨を渡した意味を理解した。おそらくそれを家賃などの支払いをさせるつもりだろう、こうなることを予測して。
物件はこのマルベールから東に魔法馬で約10日のトウラと言う城塞都市。クリスタム王国第三の都市だ。かなり勢いのある都市のようで、ナリミヤ氏の最初の拠点らしい。そこにある拠点はまだあるが、今の拠点はここのため、空き家のままでナリミヤ氏も悩んでいた。思い入れがある拠点、出来れば大事に使って欲しいと誰にも貸し出さずにいた。
「サイトウ君なら、きっと大切に使ってくれそうだしね。錬金術をするための工房もあるし、トウラは近くに魔の森もあるから、植物はここより豊かだし、近くには農耕をする町と繋がっているから新鮮な食材がある」
魅力的だな。
三人の目が輝いてます。
「とりあえず、一回見に行って見ないかい? ここは後一週間借りれるから、トウラが嫌ならまたその時考えたらいいさ」
「ナリミヤ先輩、どうしてそこまでしてくれるんですか?」
リツさんが聞く。まあ、確かにあの赤髪エルフ達のしたことの尻拭いにしては、よくし過ぎな感じだ。
「確かに家の者が君にした仕打ちもあるけど。僕は君に申し訳ないからだよ。だってあの時僕を助けようとしてくれた君には、大事な家族がいた。僕には兄弟もいない、親も他界して、それを機に親族とはケンカ別れ。こっちに来て、女神様にいろいろ待遇してもらったし、新しい大事な家族を得たから、今度は僕が、いろいろしなきゃね。これからは君は自力だけどこれからも頼ってもらって構わない。だって僕は君の錬金術の先生だからね」
「ナリミヤ先輩…」
確かにリツさんのこちらでのスタートは最悪だったしね。向こうには可愛がっていた、甥っ子と姪っ子がいて、関係のいい兄夫婦、元気な両親。すべてからいきなり引き離された。ナリミヤ氏の巻き込まれにさらに巻き込まれて。今でもふっと寂しい表情するもんねリツさん。
「とにかく、明後日来るから。明日一日ゆっくりして」
そう言ってナリミヤ氏は帰って行った。マリ先輩から味噌をもらって。
「どうしますリツさん」
私はナリミヤ氏の背中を見送っているリツさんに声をかける。
「そうね、ナリミヤ先輩の話の通りにしましょう。とにかく今は住む場所が必要だから。正規の家賃で借りれるようにしていくのが、きっとナリミヤ先輩も安心すると思うし」
自立しなきゃね。と最後にリツさんが呟いた。
「ねえ様、次はいつ帰って来るの?」
「分からないよ」
ジェシカがエリックの腕を引いて聞いている。エリックは困った顔をしている。
ダメだよ、ジェシカ、エリックが困っているじゃない。
「どうして?」
「だから、僕には分からないよ」
「ジェシカ、ねえ様に会いたい」
「僕だって心配してるよ、でも、本当に分からないんだ」
「ジェシカ、ねえ様に会いたい、えーん」
「泣かないでよ」
わんわん泣き出したジェシカを、エリックがなだめるが、効果がない。エリックはほとほと困った顔をしている。
ジェシカ、泣かないで、エリックが困っているから。声をかけても、エリックもジェシカも聞こえていないようだ。
ああ、これ、いつもの夢か。
でも、私が恋しくて泣くわけないか。勝手に出ていった私を、待っていてくれるわけないか。
そうか、これ、私の願望か? 待っていてくれていると微かな希望が、これを見せているのかな。
なんだろう、胸が締め付けられる。
どこまで私は、浅ましいのだろう。自分から、出ていったのに、待っているくれるなんて、どれだけご都合主義なんだろう。
胸が締め付けられる。
未だに泣き止まないジェシカ、困り果てるエリック。
お願いだから、こんな夢、見せないで。
読んでいただきありがとうございます。