思わぬ②
ワッフルの試食を鍛治師ギルドと、騎士団の訓練所で行った。騎士団の訓練所では、ミカエル達も着いていき、訓練の見学をさせてもらうように交渉していた。
騎士達が、きちんと整列するミカエル達に、へー、と興味津々。
「君はまだ奴隷のままなのかい?」
と、お手伝いしているアーサーに、懲りないエクエスさんが声をかけている。アーサーはリツさんから離れるつもりもないからね。
「そうか、残念だよ。その気になれば養子先も探すから言いたまえ」
「よ、養子?」
アーサーが戸惑いの表情。
「知らないんだね。騎士団に入るには、保証人とかの問題があるから」
騎士団に入るには、一般人でもある程度の身分が必要。普通に工房勤めとか、農家でも大丈夫なんだけどね。きちんと働いて納税している人が、家族にいれば問題はない。とりあえず、必要な体裁だ。ただ、アーサーのたのたぬき夫婦は、ただいま犯罪奴隷で労働中。まったく似てない兄も、それでおそらく何処にも所属できてないはず。
アーサーの場合は、形式上、どこか、しっかりした所に養子に入り、騎士団に入団するのが一番簡単。
「候補はトウラの男爵家で」
リストを出すエクエスさん。手を回すのはやっ。
あわててアーサーを回収する。油断も隙もあったもんじゃない。
「あのルナさん」
「何?」
「自分、奴隷なのに、そんな養子先なんて簡単に見つかるんですか?」
「普通の借金奴隷はないわよ。アーサーには騎士団が欲しがる支援魔法があるからよ。どこか、エクエスさんの息がかかった養子先に入れて、確実にアーサーが欲しいのよ」
「そうなんですか……………」
なにやらアーサー思案顔。
「どうしたの?」
「ちょっと考えてて、今はリツ様の奴隷で満足なんすが、その、そのうち……………」
ぽっ、とアーサーの頬がピンクに。
ああ、そっか、いつかリツさんがアーサーを奴隷解放した時の事ね。
「やっぱり、ちゃんとした親、形式上いた方がって考えちゃって」
「あんまりリツさん、気にしないような気がするけど」
「自分が気になるんです」
「そう」
アーサーなら、事情を知ってる人なら、養子に入れてくれそうだけど。ほら白熊町長さんとか。
「うちも底辺貴族だけど、お父様なら説明したらいいって言うかもよ」
「え? ルナさん所の?」
「なあに? 不満?」
からかうようににこっと言うと、アーサーは一気に悩む顔。本当に悩み顔。あれ、本当にうんうん言い出したよ。軽い冗談のつもりで、あはは、と流すつもりだったのに。
「アーサー、真に受けないで、冗談よ。うちは庭にカボチャやじゃがいも植えてる底辺貴族だからね」
「カボチャもじゃがいもも花はかわいいですよ。ルナさんの弟、弟……………」
「あんたの方が年上でしょ」
「自分はルナさんの弟の位置です」
前にも聞いたことが。
「もし、ルナさんの弟になったら……………」
ぶつくさアーサー。
「アーサー、落ち着いて」
「アルフさんの弟にもなれます?」
………………………………………
ぼんっ
何故か私が、ぼんっ。
そりゃ、地竜の咆哮が済んだら、そうなるけどっ。
「ま、ま、ま、そう、なるかな?」
「ルナっちの動揺が激しい」
リーフがぽつり。やかましい。こほん。
しかし、なんだか、嬉しい。アーサーがアルフさんを慕っていたのは分かっていたけど、こんな発想するまでとはね。うん、アーサーが無性にかわいくかんじる。
ここは、アーサーの位置的自称姉が、締めないと。
「養子うんぬんは、まあ、コードウェルに帰った時にでも相談しましょ。今すぐって訳じゃないでしょ?」
ふわっ、とアーサーが嬉しそうな顔。
「そうですね。ルナさんがアルフさんと結婚する前くらいで」
はうっ。
「なっ、何年も先よっ」
「でも、後、2年ですよね?」
そう。
バーミリアン殿下が指定した期間まで後2年だ。2年後のリリィの月には地竜の咆哮に、ダンジョンアタックだ。
急に現実に引き上げられる。
「そうね。後2年だね」
気を引き締めよう。
歓声が上がる。
ミカエル達が騎士団にポーズを披露していて、拍手貰ってる。
ちょっとだけ、恥ずかしくて、アーサーと揃って背中を向けた。
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