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三ヶ月⑥

最終課題

ちょっと一区切り。

「では、最終課題を提出してください」

 ナリミヤ氏との最後の錬金術講座。

 この三ヶ月の集大成だ。

 何か魔道具をつくる。だ。

 既存のものでもいい、とにかく正確に発動することだった。

 まずリツさん。

「私は『浄化機能、温度調整機能付きミキサー』です」

 リツさんは四角の箱の上に、円柱のガラスの器が乗った魔道具。なんだろう? 蓋が付き、ガラスの中で三つの刃があるが、どんな風に動くんだろう?

「へえ、温度調整付きか。では、動かして」

「はい、ではまず冷却機能で皮を剥いた桃を入れ、回します。イメージは液体窒素で桃のシャーベットつくる感じです」

「なるほど」

  ウィーン。

 リツさんが軽く蓋を押すと、ガラスの中で刃が横に回転。皮を剥いた桃がガラスの中で、回転する刃に切り刻まれる。すごいな、あっという間にジュースに、あれ、なんか液体に変化が、ドロッてしてきた。

「桃のシャーベットです」

「すごいな、一瞬」

 リツさんは中身の元桃を器に移してアイテムボックスへ。うん、ペーストみたいになってる。シャーベットって何? 気になる。

「浄化があるので、洗う手間が省けますが、ちょっと魔力の消化が多いので今後の改善点です。次に加熱です、玉ねぎを入れます」

  ウィーン。

 おお、玉ねぎが切り刻まれる。あれなら目にダメージを受けない。今度は先ほどよりゆっくり刃が回転してる。うん? 玉ねぎに色が付き出した。あっという間に茶色だ。

「飴色玉ねぎです」

 すごい、あそこまで色がつくまで炒めるのに、結構時間がかかるのに。

 リツさんはガラスの中から飴色玉ねぎを取り出す。

「温度調整機能があるので、ひき肉等も出来ます。もちろん、そぼろもです」

 なんと、あんなに苦労したひき肉も出来るのか? うん、すごいな、すごいけど、あのとんとんした時間が、何だったんだろうと、ちょっと釈然としない。

「すごい、サイトウ君頑張ったね」

 そう言われ、リツさんは嬉しそうだ。

「次は私です」

 マリ先輩が出したのは、何か大きな布と何本かの金属製の棒。

「支柱に消音、消臭、布に撥水、結界機能の着いたテントです、小ですけど」

 おお、すごい。マリ先輩もすごい。夜営するのに助かる魔道具だ。夜に動くのは危険、視界が遮断されるしね。夜営の時交代で見張りが必要だが、雨に降られると最悪なのだ。撥水があるなら雨露がしのげる。体温だって奪われなくて済むし、結界効果があれば見張りの負担が減る。しかも消音、消臭もあるなら、感覚頼りに襲ってくる魔物から身を守ることもできる。

「広げられる?」

「はい、庭で」

 マリ先輩とナリミヤ氏は、庭に出る。マリ先輩はまず地面に床となる布を敷き、三角形の支柱を二つ、頂点に長い棒をかける。さらにそこに被せるように残りの布をかける。意外と簡単。床との隙間なし、中もおそらく私達がくっついて眠れる広さだ。入り口は左右に布を広げて中に入るのね。

「隅をこうやって固定します」

「ペグだね。なぜ効果が小なんだい?」

「私のスキルレベルが低いのと、材質の問題です、中を1つでも着けたら、1つは諦めないといけないので」

「なるほど材質か、スパイダー系の糸を使うといいよ。支柱は難しいけど強度を考えたらアマダンタイトがベストだけど、ミスリルと合成してもつけられる付与が増える。スパイダーの糸は魔鉄の鎧も切り裂くから、強度は問題ないし。布にした時点で材質上すでに物理防御がついてるからね。付与もかなりできるよ、僕、スパイダーの布あるから、今度分けて上げよう、味噌とトレードでどうかな?」

 …それが目的じゃないの?

 そんな私の思いをよそに、マリ先輩は大喜び。

「スパイダーの布ですか? ぜひ欲しいです、いいんですか?」

「もちろん」

 スパイダーの糸はいわゆる魔物素材。細く頑丈で、それで編まれた布はなまくら剣など通さず、魔法攻撃にも強い。魔法使いのローブに最適だが、スパイダーの糸は高級品、他の糸と混ぜて布を織る。純度の高いスパイダーの布を使ったローブなんて、とんでもない額。ピンキリだけど、あ、王様とかが羽織っているマントはスパイダー100%で、庶民は遠くから眺めるようなものだ。きっとナリミヤ氏の持っているのも、何割かスパイダーの糸を使った布なんだろう。

「アネクラは今手元にはないけど、グレイキルスパイダーなら純度100%のがあるから」

 私は淹れていたお茶を溢しそうになる。アネクラって本でしか見たことないよ、いてもダンジョンとか、しかも下層のボスクラスだよね。お伽噺の魔物だよね。グレイキルスパイダーなんて、遭遇したことさえ分からないまま獲物を仕留める魔物で、生還率0の魔物ですよね。しかも森の奥深くにしかいない。なんでそんな魔物素材100%の布持ってるの? 高ランクの冒険者や王公貴族でもなかなか持てないもののはず。

「すごい、100%のグレイキルスパイダーの布なんて、お父様のシャツくらいしか見たことありません」

 持ってるんかいグレイキルスパイダーのシャツ。さすがライドエルを代表する大富豪。

「ちょっと伝があってね」

 ナリミヤ氏が曖昧に笑う。

 ん? 待てよ、アネクラは手元にないって、言っていたよねこの人。まるでかつて持ってたみたいな…あ、やめとこ、聞いてないことにしよう。マリ先輩、これ以上聞いちゃダメですよ。私の思いが通じたのか、マリ先輩はそれ以上聞かなかった。

「後で味噌包みますね。まだ未完成でもいいんですか?」

「十分だよ、ありがとう」

 ナリミヤ氏嬉しそうだ、お花が飛んでる。

 お茶、淹れよう。

「最後は私です」

 ローズさんが出したのは、短い筒のようなもの。ボタンがあるから、それを押して作動するのかな。

「これは?」

「はい、局所的に浄化をかけるもので、ドレスに付いた頑固な油、染み込んだワイン、ジャム、ソースなどきれいにします。このサイズにしたのは持ち運びに便利だからです。また、気になる所にすぐ使用できるようにしました。襟などに付着し目立つものも一発です」

 すごい実用的。そして、なぜか、切実なものを感じる。

「これが、あれば、いつでもどこでもさっと浄化。メイドの強い味方」

 あれ、ローズさん、何をエキサイトしてるの? 隈がすごいから迫力半端ない。

 取り出した白いハンカチに、紫の染み。あれ? ブルーベリー? 昨日、買ってきたブルーベリー?

 ローズさんはブルーベリー?の染みに筒の先を当て、ボタンを押す。ふわっとハンカチが揺れる。筒を離すと染みはきれいになくなっていた。

「名付けて浄化君ッ」

 まんまだよ。

「素晴らしいッ」

 ナリミヤ氏もエキサイトしてる。

「持ち運びできるように小型化したんだね」

「はい、そして魔法なのでかける対象、主に布製品ですが、傷めずに済みます」

「本当に素晴らしいよ。構造を詳しく聞きたいけど、やめておこう。クレイハート伯爵家で製品化できるよ」

 おお、クレイハート家のアドバイザー錬金術師からお墨付きいただいたよ。顔色の悪かったローズさんの頬が赤くなる。

「すごいわローズ」

 マリ先輩も絶賛。

「すぐにお父様に連絡しましょう」

「いえ、お嬢様。まだ改善したい点がありますから」

「そうなの? じゃあできたらお父様に製品化の話をすすめましょう」

 マリ先輩、まるで自分のことのように喜んでいる。

 こほん、とナリミヤ氏が息をつく。

「三人とも素晴らしいよ。この短期間でよくここまでできたね。君たちは素晴らしい素質を持つ頑張りやさんだ。錬金術はまだまだ応用例が効くから、いろいろチャレンジだよ」

 ナリミヤ氏の総評。

 聞きながら、三人の目に涙が。頑張ったもんな、この三ヶ月。私ももらい泣きしそうだよ。ぐっと堪えてたのに、マリ先輩の「ルナちゃんが助けてくれたからだよ」という言葉に、ポロッと流れてしまった。本当に私は何もしてない、頑張ったのは三人なのに。

 私達は抱き合って、しばらく泣いた。

 嬉しくて泣くなんて初めてだった。

読んでいただきありがとうございます。

今日の22時更新は、お休みさせていただきます。

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