表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
37/386

三ヶ月⑤

積み込み。

 季節が流れる。

 私は食後、食器を洗う。

 居間には目の下に隈を作っている三人。大量の資料に鉱石、多種類の薬草。ナリミヤ氏による錬金術講座の資料が、居間中に散らばっている。そんな中で三人はあーでもない、こーでもないと言ったり、目の前の課題にのめり込んだり。やつれてる。ああ、やつれてる。

 私はあまり感知していないが、ナリミヤ氏の錬金術講座は本当に詰め込みのようだ。ナリミヤ氏は週に3~5日来る。それ以外は自習なのだか、日が空くと必ず課題を出す。その課題が大変らしい。私にお手伝いできるのは、家事だ。できることはすべてしている。今は冒険者はお休みだ。月に一度の依頼だけ受けてる。気分転換を兼ね、薬草摘みの時だけ外出。

 よし、食器はすみ。後は食料が乏しくなって来たから、買い出しかな? あ、お茶淹れておこう。ローズさん程ではないが、私だってお茶くらい淹れられる。茶葉はこれくらいかな?

「お茶ここにおいてますから。後でマルシェに行きますが、何か必要なものあります?」

 聞くと、リツさんが気力なく顔を上げる。

「今日の夕食と明日の朝のパンを」

「分かりました。今日の夕食私が準備しますから」

「お願いね」

 マリ先輩が果物と呟くのを拾う。ちゃんと買って来ますよ。

 私は篭を片手に外に出る。夏の太陽がサンサンと輝いている。

「暑いなあ」

 夏だ。春に開始した錬金術講座は二ヶ月過ぎ、最後の三ヶ月目が始まっている。宿の中は空調の魔道具があるから快適だが、たまに、自然の空気に触れたい。ああ、贅沢だな。

 私はマルシェに向かい、いつものパン屋を覗く。

「いらっしゃい、今日もお使いかい」

 すっかり顔馴染みになり、店主の女性がにこにこ話しかける。

「はい、今日はこの黒パン下さい。8個下さい」

 少し大きめの黒パンを選ぶ。輪切りにして、残ったミートソースとチーズのせて焼けばきっと美味しい。これくらいなら私にもできる。スープも確かまだある。

「毎度、800Gだよ」

 銀貨を渡し、銅貨2枚が戻ってくる。篭に黒パンを入れてもらう。

「また、来てね」

「はい」

 次に果物を覗く。

 アセロラ、桃、杏、ブルーベリー、レモン。プラム色とりどりだ。

 うーん、どうしよう。

「ブルーベリーと桃が甘いよ」

「じゃあ、ブルーベリーを2つ。桃を4つ。後レモン2つ」

 ブルーベリーは摘まめるし、桃は切って出して、レモンは蜂蜜と冷えた水と混ぜたら美味しいし。

「ブルーベリーは1000、桃は1200、レモンは300。ブルーベリー少しおまけしてあげるね」

「ありがとうございます」

 銀貨2枚、銅貨5枚。

「また来てね」

 パンを寄せて、果物を入れる。

 さ、帰ろう。

 帰ると居間は変わらず惨状だ。邪魔しちゃいけない。私はブルーベリーを洗ってそっと出し、ナリミヤ氏からもらったマジックバッグに、買って来た残り食材を入れる。後は夕食の準備まで時間がある。小さいが庭があるので、私はひたすらナリミヤ氏からもらった剣に魔力を流す。かなり慣れてきた。これなら戦闘でも問題ない。後は身体強化を繰り返す。あ、汗が止まらん。

「暑、暑い、いかん、何か飲もう」

 私は汗だくになり、居間に戻る。ああ、涼しい。

 ブルーベリーが半分になってる。あ、お茶も空だ。

 リツさんに聞いたレモンの輪切りと蜂蜜と少量の塩のレモン水。レシピ通りにレモンを切り、蜂蜜と塩を入れ、氷を入れる。冷蔵庫の中には氷がたっぷりある。これは三人が錬金術で作った。最後に水。後は混ぜて。

 ふふふ、最近料理してる感じがしている。まあ、大した料理じゃないけどね。

「皆さん、ちょっと息抜きで、庭でお茶しましょう。夏なんですから、暑いのも感じなきゃ」

 そう声掛すると、隈を作った三人が顔を上げた。


「あー暑ーい」

 マリ先輩が間延びして暑いと訴える。

「申し訳ありませんルミナス様、いろいろしてもらって」

 ローズさんが一番隈がひどい。さっと白いお皿に乗ったクッキーが出てくる。ドライフルーツを細かく切って練って焼いてあるクッキー。差し出されたのでいただきます。うん、ドライフルーツがほんのり甘さがあって美味しい。

「これくらい何でもないですよ。今、大切な時だし、さんざんお世話になってますし。生活費はナリミヤ氏から貰ってますからね」

 私は本当のことを話す。

「ルナさん、食材後どのくらい残ってる?」

 リツさんがレモン水の半分飲んで、心配そうに聞いてくる。

「えっと、ミートソースは今日の夕食に使ったらなくなります。あとはラタトゥイユ、マッシュポテト、ロールキャベツ、ハンバーグがまだありますね。スープも二種あります。魚のフライ、タルタルソースもかなりあります」

 錬金術講座が始まったはじめの頃に、大量に作っていた。講座が始まると料理どころではなくなり、私もなるべく役に立ちたいと、家事を率先している。本職のローズさんにしてみたら、足りないだろうが、ローズさんもそれどころではないから、いつも拙い家事をする私にお礼を言ってる。気にしなくていいのに。

「そう」

「大丈夫よ、ローズのマジックバッグの中にもあるし」

 マリ先輩がレモン水を飲み干し、ローズさんに聞いている。

「はい、お嬢様。二ヶ月は籠城出来ます。お菓子はまだあります」

 籠城? 何するつもりローズさん。

「あまり、ローズさんのマジックバッグ食材には頼らないようにしたいけど、最悪お願いするかもしれません」

「お任せください」

 私が録な料理ができないから、何だかすみません。

 しばらく四人で並んで空を眺める。

「さ、リフレッシュしたから、頑張ろう」

 マリ先輩がポンッと膝を叩いて、立ち上がり背伸びをする。

「そうね、頑張りましょうかね」

 リツさんも立ち上がる。

「後、もう少しですからね」

 ローズさんも立ち上がる。

「皆さん、私はできることはあんまりないですが、何かあれば言ってくださいね」

「ありがとう、ルナちゃん」

「いいんですよ、マリ先輩」

 マリ先輩が手を握る。リツさんもローズさんも私の手をぎゅっと握る。

「さあ、もうひとふんばりです」

 隈が浮いた顔で三人は頷いた。

読んでいただきありがとうございます。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ