三ヶ月⑤
積み込み。
季節が流れる。
私は食後、食器を洗う。
居間には目の下に隈を作っている三人。大量の資料に鉱石、多種類の薬草。ナリミヤ氏による錬金術講座の資料が、居間中に散らばっている。そんな中で三人はあーでもない、こーでもないと言ったり、目の前の課題にのめり込んだり。やつれてる。ああ、やつれてる。
私はあまり感知していないが、ナリミヤ氏の錬金術講座は本当に詰め込みのようだ。ナリミヤ氏は週に3~5日来る。それ以外は自習なのだか、日が空くと必ず課題を出す。その課題が大変らしい。私にお手伝いできるのは、家事だ。できることはすべてしている。今は冒険者はお休みだ。月に一度の依頼だけ受けてる。気分転換を兼ね、薬草摘みの時だけ外出。
よし、食器はすみ。後は食料が乏しくなって来たから、買い出しかな? あ、お茶淹れておこう。ローズさん程ではないが、私だってお茶くらい淹れられる。茶葉はこれくらいかな?
「お茶ここにおいてますから。後でマルシェに行きますが、何か必要なものあります?」
聞くと、リツさんが気力なく顔を上げる。
「今日の夕食と明日の朝のパンを」
「分かりました。今日の夕食私が準備しますから」
「お願いね」
マリ先輩が果物と呟くのを拾う。ちゃんと買って来ますよ。
私は篭を片手に外に出る。夏の太陽がサンサンと輝いている。
「暑いなあ」
夏だ。春に開始した錬金術講座は二ヶ月過ぎ、最後の三ヶ月目が始まっている。宿の中は空調の魔道具があるから快適だが、たまに、自然の空気に触れたい。ああ、贅沢だな。
私はマルシェに向かい、いつものパン屋を覗く。
「いらっしゃい、今日もお使いかい」
すっかり顔馴染みになり、店主の女性がにこにこ話しかける。
「はい、今日はこの黒パン下さい。8個下さい」
少し大きめの黒パンを選ぶ。輪切りにして、残ったミートソースとチーズのせて焼けばきっと美味しい。これくらいなら私にもできる。スープも確かまだある。
「毎度、800Gだよ」
銀貨を渡し、銅貨2枚が戻ってくる。篭に黒パンを入れてもらう。
「また、来てね」
「はい」
次に果物を覗く。
アセロラ、桃、杏、ブルーベリー、レモン。プラム色とりどりだ。
うーん、どうしよう。
「ブルーベリーと桃が甘いよ」
「じゃあ、ブルーベリーを2つ。桃を4つ。後レモン2つ」
ブルーベリーは摘まめるし、桃は切って出して、レモンは蜂蜜と冷えた水と混ぜたら美味しいし。
「ブルーベリーは1000、桃は1200、レモンは300。ブルーベリー少しおまけしてあげるね」
「ありがとうございます」
銀貨2枚、銅貨5枚。
「また来てね」
パンを寄せて、果物を入れる。
さ、帰ろう。
帰ると居間は変わらず惨状だ。邪魔しちゃいけない。私はブルーベリーを洗ってそっと出し、ナリミヤ氏からもらったマジックバッグに、買って来た残り食材を入れる。後は夕食の準備まで時間がある。小さいが庭があるので、私はひたすらナリミヤ氏からもらった剣に魔力を流す。かなり慣れてきた。これなら戦闘でも問題ない。後は身体強化を繰り返す。あ、汗が止まらん。
「暑、暑い、いかん、何か飲もう」
私は汗だくになり、居間に戻る。ああ、涼しい。
ブルーベリーが半分になってる。あ、お茶も空だ。
リツさんに聞いたレモンの輪切りと蜂蜜と少量の塩のレモン水。レシピ通りにレモンを切り、蜂蜜と塩を入れ、氷を入れる。冷蔵庫の中には氷がたっぷりある。これは三人が錬金術で作った。最後に水。後は混ぜて。
ふふふ、最近料理してる感じがしている。まあ、大した料理じゃないけどね。
「皆さん、ちょっと息抜きで、庭でお茶しましょう。夏なんですから、暑いのも感じなきゃ」
そう声掛すると、隈を作った三人が顔を上げた。
「あー暑ーい」
マリ先輩が間延びして暑いと訴える。
「申し訳ありませんルミナス様、いろいろしてもらって」
ローズさんが一番隈がひどい。さっと白いお皿に乗ったクッキーが出てくる。ドライフルーツを細かく切って練って焼いてあるクッキー。差し出されたのでいただきます。うん、ドライフルーツがほんのり甘さがあって美味しい。
「これくらい何でもないですよ。今、大切な時だし、さんざんお世話になってますし。生活費はナリミヤ氏から貰ってますからね」
私は本当のことを話す。
「ルナさん、食材後どのくらい残ってる?」
リツさんがレモン水の半分飲んで、心配そうに聞いてくる。
「えっと、ミートソースは今日の夕食に使ったらなくなります。あとはラタトゥイユ、マッシュポテト、ロールキャベツ、ハンバーグがまだありますね。スープも二種あります。魚のフライ、タルタルソースもかなりあります」
錬金術講座が始まったはじめの頃に、大量に作っていた。講座が始まると料理どころではなくなり、私もなるべく役に立ちたいと、家事を率先している。本職のローズさんにしてみたら、足りないだろうが、ローズさんもそれどころではないから、いつも拙い家事をする私にお礼を言ってる。気にしなくていいのに。
「そう」
「大丈夫よ、ローズのマジックバッグの中にもあるし」
マリ先輩がレモン水を飲み干し、ローズさんに聞いている。
「はい、お嬢様。二ヶ月は籠城出来ます。お菓子はまだあります」
籠城? 何するつもりローズさん。
「あまり、ローズさんのマジックバッグ食材には頼らないようにしたいけど、最悪お願いするかもしれません」
「お任せください」
私が録な料理ができないから、何だかすみません。
しばらく四人で並んで空を眺める。
「さ、リフレッシュしたから、頑張ろう」
マリ先輩がポンッと膝を叩いて、立ち上がり背伸びをする。
「そうね、頑張りましょうかね」
リツさんも立ち上がる。
「後、もう少しですからね」
ローズさんも立ち上がる。
「皆さん、私はできることはあんまりないですが、何かあれば言ってくださいね」
「ありがとう、ルナちゃん」
「いいんですよ、マリ先輩」
マリ先輩が手を握る。リツさんもローズさんも私の手をぎゅっと握る。
「さあ、もうひとふんばりです」
隈が浮いた顔で三人は頷いた。
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