帰って来る女たち②
がんっ
アルフさんの拳が、優男風冒険者の鎧に覆われた腹部を直撃。情けない悲鳴を上げて、優男風冒険者が吹っ飛ぶ。
こうなるね。
回りから、ざわざわされた。
「えー、一撃ー」
「何あいつ、大した事ねー」
「なあ、あいつの鎧、なんか見た事ない色だよな?」
「え、魔鉄じゃねーの?」
「違うんじゃない?」
ざわざわ。
完全に伸びた優男風冒険者は、回収された。
ざわざわ。
ばれる前に退散した方がいいかな?
「えー、つまんなーい」
可愛くないぞ、ギルドマスター。
「うーん、そうですねー」
グラウスさんまで。
「おーい、せっかくだから、俺と一戦しよーぜー」
おーい、ギルドマスター。
「いや、そろそろ帰りたいのだがな」
アルフさんがそれとなくご遠慮している。
「じゃあ、そこの黒髪の坊主どうだ? あのAランクの魔法使いシンザが目を着けているんだ。噂の支援を使う奴隷の魔槍士だろ? そこの銀狼の坊主とタッグを組んで、俺とグラウスとタッグマッチしないか?」
アーサーとサーシャに流れ弾が。
「はあ、ちょっと待ってくれ。分かった、受けよう」
結局、アルフさんとギルドマスターによる模擬戦となる。
元、保証人のグラウスさんの袖を引く。
「ちょっと止めてくださいよ」
「すみませんね。色々噂のある貴女方を情報を得たいので、ご協力ください」
「情報って…………」
「ゴブリンキングの首を一刀両断する少女、シルバーオークをひとつきしアダマンタイトを扱う鍛冶師、騎士団からスカウトが来る支援を使う奴隷。話題にならないとも?」
「う」
「しかし、立派な全身鎧ですねえ」
他人事の様に話すグラウスさん。
模擬の槍を持ち、対峙するアルフさんとギルドマスター。
ギルドマスターはいい笑顔を浮かべてる。
あ、2人とも身体強化している。
合図と共に、激しい打ち込み合いが始まる。
以前ここでギルドマスターの悪い癖に巻き込まれた時に比べて、レベルアップしているアルフさん。
アルフさんも凄いけど、流石、ギルドマスター。見事な体の裁き方だ。
「うん、以前に比べてかなり動きがいいですね」
他人事のグラウスさん。
回りはドン引きするほどの打ち合い。
結局、槍が折れて、引き分け。
礼をして、終了。
2人とも汗が凄い。
「アハハ、ああ、楽しかったなあ」
あっけらかんに笑うギルドマスター。
「お前さん、こっちに来る気はないのか?」
「儂はトウラの鍛冶師ギルドに所属しておるからな」
「ははは、鍛冶師か、よう言うな」
私はアルフさんにタオルを渡す。浮かんだ汗を拭く。
「さあ、皆さん、お仕舞いですよ」
パンパンと手を叩くグラウスさん。
つられて退場していく観客。汗を拭いたアルフさんはマントを着て鎧を隠す。
「さあ、帰りましょう」
リツさんが号令をかける。
「あ、リツさん。一緒にやって欲しい依頼があるんだが」
慌ててライナスさんが止めに入る。
そのまま依頼の話になる。
「ゴブリンの巣ですか」
「そうなんだ。巣となるとそこそこの数の冒険者が必要なんだが、君たちなら問題はないからね」
「はあ、でも、私達は今他のパーティーの方達と移動しているんです」
「それは彼らだよね? もちろん彼らも十分な力量だから」
リツさんが、マルコフさんとフレナさんと相談。
相談していると、冒険者ではない人達が。ドワーフの方々だ。あ、鍛冶師の方ね。
アルフさんが後退り。
あ、目がいってる。
私も後退る。
「噂のダビデの秘蔵っ子か」
先頭のドワーフ、あ、目が怖い。アルフさんが更に後退り。
「ちょっと、こっちこい」
「拒否する」
アルフさんが即お断りする。
したなめずりしそうなドワーフの皆さん。
「何故じゃ」
「身の危険を感じる」
「優しくしてやるぞう」
目がいってますよ。
「断固拒否する。野郎に触られる主義ではない」
「安心しろっ、マリベールが鍛冶師ギルドが誇る美人女将衆ッ」
目がいってるドワーフは、女将衆を召喚。
え、どっから出てきたっ。
「女将さん方っ、落ち着いてくれっ」
アルフさんが更に後退り。
「大丈夫だよ坊やっ」
「安心しなっ」
「ぎゃーッ」
アルフさんが悲鳴を上げる。女将衆が一斉にアルフさんに群がる。
あっという間にアダマンタイトの全身鎧が、華麗に取り去られていく。
「えっ?」
「はっ?」
アーサーとサーシャが、巻き込まれる。
「ぎゃーッ」
「ぎゃーッ」
悲鳴を上げる2人。え、どうしよう。
「ぎゃーッ」
更に野太い悲鳴。
「キャーッ、リーダーッ」
マルコフさんまでっ。
本当にあっという間に、丸裸、いや、ちゃんと服着てますよ。ただし、アルフさんだけ、上半身まで裸。え、シャツまで持っていかれたの? いや、あの直視出来ない、初めて見たけど、凄いガタイだ。
「明日には返すーっ」
そう言って、ドワーフ達は去っていく。
「災難でしたね」
相変わらず他人事のグラウスさん。
「すげえガタイ」
たまたま残っていた冒険者がポツリ。
武装一式持っていかれた。
「はあ、リツすまん、何か着るものを出してくれるか? さすがにこのままじゃ、変質者だ」
「はい、どうぞ」
リツさんがアイテムボックスからシャツを出して渡す。
「ライナスさん、あの依頼の件ですが、主力メンバーの武装がこのようなことになってしまって」
リツさんとライナスさんが話し出す。
「構わないさ、明日には戻って来るんだろう? それからでいいさ。是非、一緒にやって欲しいんだ」
話し合い、明日武装が返って来てから、出発となる。
「はあ、不味いことになったな。仕込み内の盾や槍を見られると後々面倒になりそうだ」
あ、オリハルコンの武装。アダマンタイトの武装以上に見られると、色々厄介かも。
アルフさんの盾に十文字槍、アーサーの盾、マルコフさんの大剣。ドラゴンのドロップ品を使ったアーサーの剣、サーシャの武装一式。見られると不味いことになる。
「アルフさん、どうします?」
リツさんが相談。
「武装一式戻ったらすぐに出た方がよかろう。トウラに戻れば、鍛冶師ギルドがある程度は守ってくれるだろうからな」
「なら、そうしましょう。ライナスさん、よろしいですか?」
「構わないさ」
それで一旦解散となる。
マリ先輩達が留守番している宿に戻る。
あ、いい匂いだ。マリ先輩がお菓子焼いてるんだ。今日はなにかな? ワクワク。
「あら、お帰りなさい。今、チェリータルトが焼き上がったのよ」
わーい。
お茶の準備していると、来客が。
ミーシャが出ていく。
「リツお姉ちゃん、ナリミヤさんが来てる」
「あら、ナリミヤ先輩が?」
リツさんが玄関に向かうと、しばらくしてリツさんだけが帰ってきた。あれ、いつもならナリミヤ氏が何か食べて行くのに。
あまり釈然としないリツさん。
「どうしました?」
「リツ様?」
私とアーサーが心配で聞く。
「うん、ちょっとね。ほら、そろそろ三年でしょ? だから、帰って来るって、あの時の人達が」
赤髪エルフだ。
後ろでリーフが身を固くしたのを感じた。
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