表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
368/386

帰って来る女たち①

「だからなんだ? ここは冒険者ギルド。冒険者であれば、地位は関係ない。ここで冒険者を名乗るなら爵位を振りかざすな」

 ライナスさんがいい放つ。

 そうなんだよ、冒険者ギルド内で、誇示していいのはランクだけ。基本的に爵位を振りかざすのはタブーとなってる。中にはそれを理由に、ランクを上げる連中がいるからだ。お金に困窮した冒険者を雇い、自分は後ろで見ているだけで、雇った冒険者に依頼をさせて、ポイントを稼ぐ。それでは真面目に冒険者をやっているのが割に会わない。ギルドだって目を光らせているが、こういった輩が多いのは実情だ。

 まさに、これがいい例だ。

 Bランクって言っていたけど、身のこなしから見て絶対に違う。

「それに爵位を振りかざすから、礼儀をわきまえろ。女性に対して失礼だ」

 更に追い討ちするライナスさん。

 本来侯爵家クラスの人が冒険者なんかやらない。他にいくらでも仕事はある。ギルドや商会、行政等の仕事がいくらでもある。こねだけどね。好きで冒険者していて、常識あるなら侯爵家の名前なんて出さない。侯爵家に迷惑になるからね。カウンターの向こうで、数人のギルド職員が、眉を寄せている。

 優男風冒険者は、ぐうの音も出ない。相手は格上のAランク冒険者だからだ。

「なんの騒ぎ?」

 そこにリツさんが、マルコフさん、フレナさん達と戻って来る。

「やあ、リツさん。お久しぶり。皆さんも」

「まあライナスさん。ご無沙汰しています」

 リツさんがご挨拶する。

「ちょうど良かった。実は一緒にして欲しい依頼が」

 ライナスさんが優男風冒険者を完全無視して、リツさんに話を持って行く。

「おい、そこの銀髪、お前がリーダーだなッ、だったら責任を取れッ、こいつらは暴力を振るうんだぞッ」

 リツさんの綺麗な眉がはね上がる。私にちらり、と視線を流すが、私は首を横に振る。

「リツさん、気にしないで構わないさ。彼女が、あいつに絡まれて彼が助けただけだから。それで依頼を………」

「ふざけるなッ、侯爵家の人間に手を出してタダで済むと思うなよッ」

 優男風冒険者が吠える、すると一斉に冷たい視線が突き刺さる。

 それを見て、リツさんは頬に手を当てる。

「マリベールの冒険者って、失礼な方だかりですね」

 リツさんが毒を吐く。

「リツさん、あんなのと一緒にしないでくれ、あいつは前からトラブルを起こして皆迷惑しているんだ」

 げんなりしているライナスさん。こいつ常習犯かい。

 だが、それを聞いて優男風冒険者の顔が、一気に赤くなる。

「ふ、ふ、ふ、ふざけるなぁッ」

「なんの騒ぎですか?」

 人垣が割れて、出てきたのはお久しぶりのグラウスさんだ。

 職員が連絡したんだね。

 この場が収まるかな。

「おいっ、こいつらは、無礼な奴らだぞッ。侯爵家の僕に手を出してッ」

「Bランクの冒険者だって言ったじゃん」

 バーンがぼそり、と突っ込み。

 グラウスさんは、私達を見て、吠える優男風冒険者を一瞥。

「はあ、またあなたですか。前にもいいましたよね? これ以上トラブルは避けるように、と。それにここは冒険者ギルド、冒険者を名乗り行動したいのなら、爵位はないものと思うようにと、あれだけ警告しましたよね?」

 グラウスさんの言葉が突き刺さる。だが、優男風冒険者が、みっともなく喚く。

「この女を渡せば、穏便に済ませてやると言ってやっているんだッ。人の好意を無下にして、暴力を振るった方に非があるだろうがッ」

 アルフさんの額に青筋が浮かぶ。グラウスさんからも、絶対零度の空気が流れ出す。

 メリメリと、拳を握るアルフさん。

「人の婚約者に手を出すとは、クリスタムの貴族はずいぶん品がないな」

 優男風冒険者の前に立とうとするアルフさんのシャツの裾を、咄嗟に掴む。

 既にトラブルになっているけど、これ以上はグラウスさんに任せた方がよさそうだからだ。

「まあ、かわいいルナちゃんを渡せですって? そんな事、リーダーである私が許さないわ」

 リツさんまで。

「だいたいっ、一般人が冒険者ギルドに出入りするなッ」

 優男風冒険者が、ラフな格好のアルフさんを指差す。

「ギルドは一般人も出入り出来なければ、成り立たない。それはどこのギルドでもです。侯爵家出身にしては、学がありませんね」

 グラウスさんの毒攻撃。

「それに彼は冒険者ですよ。こんな格好ですがね」

 アルフさんまで、流れ弾が。

「だったら証明しろッ」

「そうだー、そうだー」

 ん? あれ? 野次馬に混じっているの、ここの冒険者ギルドマスターじゃない?


 結局。

 地下の訓練所で、模擬戦だ。

 グラウスさん曰く、新人のために手本になってとアルフさんに頼んでいたしね。これはあくまで、ギルドからの見本となる為の模擬戦だ。リツさんは、「ほほほ、やっておしまいなさい」だし、グラウスさんも「やってかわまない」と。いいのか?

 優男風冒険者は、アルフさんが鍛冶師と兼務していると知って、それは馬鹿にした。思わず、2代目を抜刀寸前になり、アーサーが腕を抑えてきた。

 訓練所の中央で、ふんぞり返る優男風冒険者。

「ライナスさん、あれの実力は?」

 こそっと聞く。

「さあ、組んだことはないが、噂だとお飾り冒険者だ。常に別の冒険者を雇って、リーダー気取りさ。雇われた連中も金が手に入ったら、すぐに去っていくようだからね」

「侯爵ってのは?」

「それは本当だけど、ビーバ侯爵家も手を焼いているんだよ。嫡男の癖に、学も人柄もあれだからね。あの性根を叩き直すために冒険者にさせたようだけど、あれじゃあねえ」

「詳しいですね」

「これでも元伯爵の三男坊でね。たまに噂好きの姉が、放してくれるんだよ」

 ライナスさんは苦笑い。

 へー、ライナスさん貴族だったんだ。でも、ライナスさんの対応が常識なんだよね。貴族の中には社会勉強の為に、身分を隠して冒険者やったり、ギルドや商会の職員やったりしていることがままある。それがそのまま本職になること多いそうだ。

「俺はこの生活が気に入っているんだ。伯爵って言っても、あまり裕福じゃないしね。親も兄弟達も、認めてくれているから」

「ライナスさん、Aランクですもんね」

 地道にコツコツ冒険者稼業をして、今があるそうだ。だから、あの優男風冒険者には、我慢ならない時があったと。

「ギルドだって彼との実力差を分かっての模擬戦さ。これで叩いて、ランクの査定をやり直すんだと思うよ」

「多分、一撃ですよ」

「だろうね。本来なら既にAランクの実力だよね彼は。鍛冶師ギルドの兼ね合いや、まだ冒険者として日が浅いからBランク止まりなんだろう?」

「そうですね」

 話していると、騒然となる。

 支度を終えたアルフさんが出てきた。

 言わずと知れた、アダマンタイトの全身鎧(フルプレート)で。

読んでいただきありがとうございます

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ