表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
366/386

三度目の決闘⑥

 次の日、『決闘』に出た私達に面会者が。

 アルフさんやマルコフさんを越す巨体が、背中を丸め、情けない顔でたってる。両手は包帯でぐるぐる巻きだ。

「昨日は、どえらあ殴ってしまって申し訳ないなかっただあ」

 …………………………

 誰?

 対応した私とアルフさんはよく分からず、首をかしげる。

「まさか、昨日の?」

 拳から血を噴き出しながら戦ってた、あの熊?

 え? 全然雰囲気が違うんだけど。

 なんだ、なんだ、と後ろから皆が見ている。

「ビューダは、常はこうなんだ。昨日は巻き込んで申し訳なかったな。あの少女に謝罪したくてな」

 巨体の後ろから、ひょっこり出たのはディーダ殿下だ。

 あ、やばい。

 後ろにいたサーシャが、変わらずポーカーフェイスを保っていた。


 メイド長がディーダ殿下ご一行様を、ウェルダンのガーデンにご案内。

 もう、ばれたから仕方ない。諦めてミーシャに付き添うサーシャ。

 昨日の夜会で、ミーシャをだしにしたのを謝りたかったディーダ殿下。同行したあの獣人男女、豹の獣人で姉弟だと。かわいい丸耳はタヌキの獣人。で、熊は熊だ。私とアルフさんに、申し訳ないと蜂蜜入りの瓶をおどおどしながら差し出されたので、受け取った。

「おらの家でとれた蜂蜜だあ、うんめいぞう」

「ど、どうも」

 本当に昨日と真逆なんですが。

 ガーデンでもてなされるディーダ殿下ご一行様。お茶やお菓子が振る舞われる。

「昨日はすまなかったね。いきなり言われて困っただろう?」

 ミーシャが曖昧に笑う。

「しかし」

 ディーダ殿下がサーシャに振り返る。

「君は俺の知り合いに似ているな。兄弟と言われても納得するくらいに」

「他人のそら似では? 俺に男兄弟いません」

「はは、そうか」

 にべもなく答えるサーシャに、ディーダ殿下は苦笑い。ディーダ殿下はそれ以上は言わない。

 それぞれ好きに席に着き、お茶を頂いている。

 ビューダだけたっている。頭に小鳥が止まってる。同じ席を進めたが、

「おら、もと奴隷だあ、殿下と同じ席なんて、畏れ多いだあ」

 ですと。

「ビューダ、いつまで引き摺っておる。座れ、命令だ」

「でも殿下、そんな細い足の椅子、壊しそうですう」

 うん、かもね。

 結局、石造りのベンチに。

 ローズさんがお茶を運ぶ。

 頭の小鳥、増えてます。

「この黒いのはなんだ?」

 ディーダ殿下がチョコレート菓子、ショコラに興味津々だ。

「カカオという食物の種を使ったお菓子です。御ひとつどうぞ召し上がってください。こちらはカカオの苦味を生かした味で、こちらは甘味を追加していまさす」

 マリ先輩が、営業スマイル。

「これも貴女が? たしか薬師だと」

「これは趣味というか、好きで作って。思ったより好評で、小さいですが、店舗販売していますの」

 ほほほ、マリ先輩。

「では、ひとつ、もぐ。おお、確かに苦味があるが嫌な苦味でないな」

 他の方もモグモグ。

 マリ先輩が他のショコラの説明もする。もちろん他のお菓子もモグモグ。ウェルダンの赤オレンジを使った色鮮やかなタルトも好評だ。

 ビューダだけ、遠慮しながら食べてる。だけど、パウンドケーキ、一口だけど。

 私は新たにパウンドケーキやマドレーヌを皿に乗せて運ぶ。聞きたいことあったし。アルフさんも着いてきた。

「どうぞ」

「あ、あんがとう」

「手のお怪我は?」

「ああ、これなあ、ちょっと指の骨が折れちまって」

 やっぱりなあ。

「これくらいなんともねえだあ。奴隷の頃に比べたらあ」

 あ、この人まさか、奴隷の時に肉盾させられていたんじゃない?

「でもお、あれだけ殴って凹まない鎧、初めてだあ」

「はは」

 アルフさんが乾いた笑みを浮かべる。

 ……………この人、拳で鎧、凹ませてるの?

 そんな事を思っている間にも、マリ先輩とディーダ殿下の御話しがすすむ。

「これは店舗で販売されているのなら、どちらで購入出来ますか? 政務に忙しい兄上達に買って帰りたいのだが」

 お兄さん想いだね。

「はい、首都です」

「そうか、なら無理だな、明日には帰国しなくてはならないから」

「良ければお包みします。新作もお入れしますので、次に首都にいらいた時にお店いらしてください。ディーダ殿下がいらしたら、絶大な宣伝になりますわ」

「商売上手だな。だが、ありがたい、是非にも伺おう」

 マリ先輩とリツさんがお土産を包みだす。

 す、とディーダ殿下がこちらに来る。

 私とアルフさんは礼の姿勢、ビューダは立ち上がる。

「失礼、あの黒い鎧の方か?」

「そうです」

「あれば自前だそうだが、貴方が?」

「そうです」

「見事な鎧だ。あれだけのもの、バインヘルツでも見られない。ビューダが凹ませられない鎧とは、かなりのもののはず」

「勿体なきお言葉です」

 なんだか、嫌な予感が。

「ご入り用なら、クリスタム、トウラの鍛冶師ギルドを通して頂ければ」

 アルフさんが先制攻撃。

「では、ビューダのサイズならいくらになる?」

「彼のサイズですと全身鎧(フルプレート)でしたら、これくらいですな。付与なしです。儂にしか作れませんので、待っていただかなくてはなりません。指名料頂きます」

 ディーダ殿下の金色の目が、まん丸になる。

「桁、が、2つ、いや3つほどおかしいのでは?」

「いいえ。付与は重量軽減が必須です。後は衝撃吸収、温度調整をオススメします。そうなると予算はこうなります」

「聞かなかった事にしてくれ」

 撃退成功した。


「殿下、やはり彼は?」

 屋敷を出て、タヌキの獣人、カナートが聞いて来る。

 ウェルダンの屋敷を訪れ、ミーシャに謝罪したのは口実に過ぎない。

 一年前に消息を絶った、かつての部下と同じ顔の銀狼の青年に会いたかっただけ。

「ああ、腹違いの弟だろうな。顔立ちもそうだが、あの灰色の目は、ジェヤードの家の男に出る色だ。あの家の悪習から逃れて隠れて育ったのだろう」

 ディーダは、ジェヤードが死んだと思っていない。もしかしたら、同じ顔の彼が、匿っているかと思っていた。

 去年の顛末は聞いている。同時にサーシャの存在を知った。

 数日前から周囲を探りを入れたが、ジェヤードの姿はなかった。

 やはり、ジェヤードは死んだのか。

 珍しい光の精霊魔法を使うジェヤードを、ディーダは重宝した。剣士としての腕も悪くなかったし、何より身体能力が群を抜いていた。あのまま自分の隊にいれば、バインヘルツを代表するような騎士になったろうに。

 あの時、もっと抵抗して、手離さなければ良かった。

 そうすれば、こんなことには、ならなかった。

 後悔しても、もう、遅い。

 たった1人の部下ですら守れなかった。

「俺は、このまま騎士を続けていいのだろうか?」

「何を仰います。我々は最後までお供しますよ」

 カナートがいい、アオモナもフクザもビューダも頷いた。

読んでいただきありがとうございます

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ