三度目の決闘⑤
あまり休めず、夜会の準備が始まる。
「ルナっち、顔色が悪いよ。化粧しようね」
「いい、早く帰れるから」
「そう? でも、ちょっとだけ、ね」
「リーフに任せる」
支度をしてくれるリーフが、ちょっとだけ、チークという化粧をしてくれた。後は紅を薄く。
モスグリーンのドレス、同じ布のリボンとアルフさんの髪止めで飾る。
私の後にフレナさんの支度だ、辺境伯様と面会した時のワンピースだ。赤い髪の一部を結い、編み込む。髪に合わせた紅を引く。
うん、綺麗なお姉様だ。
アーシャとミーシャも支度が整える。綺麗なワンピースだ。サーシャはディーダ殿下と鉢合わせたらまずいので留守組だ。
マルコフさんはいつものスーツだが、ちょっとはつはつになってきてる。
「リーダー太った?」
バーンがぽつり。筋肉量が増えたんじゃない?
だが、マルコフさんが悩んでいる。
アルフさんもスラッとしたスーツだ。
両親とエリック、ジェシカの準備済み。
ジェシカ、ますますかわいいなあ。ナイフを無意識に取り出そうとして、リツさんのチョップが飛ぶ。フラワン男爵一行と合流。ソフィア様は黄色のドレスだ、かわいい。エリックがエスコートする。
「ルミナス嬢、お怪我の具合は?」
フラワン男爵一行が心配してくれた。私は笑顔を浮かべる。必死に浮かべる。
私はアルフさんの腕にすがり付き、歩く。
未成年は別部屋だ。
未成年組は仲良く歩いていく。
賑やかな夜会会場に入る。
和やかにバーミリアン殿下とディーダ殿下が談笑している。
入って行くと、色々言われるが、そんなのどうでもいい。
私達はおばあ様とエンリケ夫妻にご挨拶する。
「まあルミナス、なんて顔色なの? すぐにおやすみなさい」
「はい、おばあ様」
帰ろう。
あ、マリ先輩、クレイハート伯爵様にご挨拶しないと。夜会の会場のソファーに腰かける。
「エリック、ソフィア様を。私は大丈夫よ」
「儂がおります」
「はい、行こうかソフィア」
エリックはソフィア様の手を引いてダンス。婚約者だからね、ガチの夜会ではないから、軽くダンスだ。私はまったくできません。アルフさんも無理と。
ローズさんのスパルタ教室になりそうで、2人で逃げた。
アーシャとミーシャ、マルコフさん、フレナさんが挨拶の後に合流。
「ルナお姉ちゃん、大丈夫? 何か飲み物もらって来る?」
「ううん、大丈夫だから」
しばらくしてクレイハート伯爵様一行が登場。
まあ、キラキラ。マーガレット様の美しいこと。マリ先輩は鮮やかエメラルドグリーンのドレスだ。まあ、ウエストの細いこと。コルセットだよね。シュタム様がエスコートする。シュタム様の婚約者は確かまだ未成年のはず。
さー、と囲まれる。
クレイハート伯爵様一行が、やっと挨拶が済む。
「ルミナス嬢、お怪我は?」
こちらに来たクレイハート伯爵様一行。お父様と同じフレデリック・クレイハート様が声をかけてくる。私は立ち上がり、ちょい、とスカートを摘まんでご挨拶。
「はい、問題ございません」
「だが、ひどい顔色だ。マリーフレア、ルミナス嬢の介助を。ローズ、ついていきなさい」
「はい、お父様」
「はい。旦那様」
やっと、帰れる。
「さあ、ルミナス様、参りましょう」
私達は退席することにした。
お父様やお母様、エリック、フラワン男爵一行はしばらくして引き上げると。
アルフさんに手を引かれて行くと、ウェルダンのメイドが走ってくる。
「ルミナス様、お客様です。見つかったそうです」
私は走った。靴を脱いで走った。
屋敷の入り口で、みすぼらしい格好の家族が。
小さな女の子と更に小さな男の子、若い夫婦。
裸足で、駆け寄ると、ドン引きされた。
「あのっ」
切羽詰まって聞くと、母親がそっと男の子を押す。
「あい、どうじょ」
舌足らずに小さな手のひらを差し出すと、翼のモチーフのペンダントだ。チェーンが切れている。
だけど、私のペンダントだ。
私がアルフさんからもらった、ペンダントだ。
震える手でペンダントを受けとる。
絶対に見つからないって思っていたのに。
「あ、ありがとう、ありがとう…………」
ぼろぼろと涙が溢れる。
何度も何度もお礼を言う。
「ルナ、裸足で走るな」
アルフさんが靴を持って、追いかけてきた。マリ先輩やローズさん、マルコフさん達もだ。
「ありがとうございます」
ペンダント握りしめて踞る私に、アルフさんが背中をさする。
嬉しすぎて、言葉がそれ以上出ない。
みすぼらしい格好の家族は、ぺこり、して帰ろうとしたが、執事長が止める。家まで馬車を出すと言うが、家族は微妙な顔だ。
言いにくそうに、夫が話す。
私は、ペンダントが見つかって動揺してしまってたから、聞けてない。
私はアルフさんに抱えられて、与えられた客間で着替える。マリ先輩、ローズさんが手伝ってくれる。ペンダントはアルフさんが一旦預かる事に、チェーンを直すと。
なんとか、私が落ち着いて、改めてお礼を言いに向かう。
客用の応接室で、若い夫婦がはしゃく子供を諫めている。
リツさんやリーフがお茶やお菓子を出していた。
私は改めて、家族にお礼を言う。
「ペンダント、届けてくれてありがとうございます」
ぺこり、みすぼらし夫婦もぺこり。
でも、どうして届けてくれたのかな? 売ったらかなりの額なのに。
クッキーを無心に口に運ぶ子供達。
夫婦は気まずそうに話す。
なんでも数日前店舗兼住居が放火に遭い、まさに路頭に迷っていたと。小さな食堂だったが、軌道にのり、借金も順調に返せていたのに。
ちょっと前から土地を欲しいと言われていたけど、売る理由がなく、断ったら、次の日に放火だ。それが二日前。それから、この家族は着の身着のままだったと。
その放火、あれだよね、きっと土地を欲しいってた連中だよね。
家族は焼き出され、残ったのは借金。
途方にくれて、さ迷い、一般公開してあった舞台にたまたま行った時に、下の子が私のペンダントを見つけた。
初めはやはり売ろうかと思ったそうだが、思い留まった。
「拾ったもので得たお金を得て、私達は子供達に胸を張れません。せめて最後に、親らしい保持を見せたくて」
「そうですか…………」
子供達はジュースを一気飲み。
「なら、もともとシェフですか?」
マリ先輩がローズさんのお茶を飲みながら聞く。
「はい、厨房は私、妻が配膳をしていました」
「なら経験者ということですね」
マリ先輩が提案する。
「実はうちの家業で食堂を経営しているんですけど、シェフが不足していまして、経験があるんでしたらうちでしばらく働きませんか? もちろん、奥さんもホールスタッフとして働いてもらっても構いません。支度金もありまし。うちは社宅も保育園も完備していますから」
クレイハートの食堂ね。手広くやってるなあ。
家族はその話しに飛び付いた。
ペンダントを見つけてくれた窮地の家族は、こうしてペンダントを届けたことで、新しい生活を手に入れた。
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