三度目の決闘④
「うわぁぁぁぁん、ねえ様ぁぁ」
ジェシカが泣く、堪えます。
さっき口に溜まった血を吐き出したらこれだ、見ない処ですべきだった。
全員治療班のヒールを受ける。真っ青な顔で飛んできたマリ先輩のミドルヒールで、ほぼ完治したんだけどね。だけど、ジェシカが泣く、私を心配したんだろうけど。堪えます。
フレナさんは現在治療を受けて座っている。マルコフさんも落ち着いた。
「情けないわ、あれしきの事で」
と。サリナが心配してますよ。
実はアルフさんは脳震盪を起こしてて、安静中。
あれだけ、殴られたらね。お父様に必死に謝ってた、私を守りきれなかったと。
だけどお父様は、アルフさんを責める道理はないと。『決闘』の舞台に立てば、ただの戦う人間だ。身を守るなかった、私に非があると。
まあ、そうだね、ザ正論。
「ジェシカ、私は大丈夫だから、ね」
「ぐずぐずっ」
「まったくお前は…………」
「申し訳ありません、お父様」
「脇の締め方が甘いわよ」
「はい、お母様」
「姉様、お願いだから無理しないで」
「ごめんエリック」
ソフィア嬢まで心配そうな顔だ。
「ルミナス様、ポーションをお持ちしましょうか?」
「ありがとうございますソフィア様、もう、大丈夫ですから」
なんて話していると、首もとが急に寂しい感じがした。
触ると、いつもの感触がない。
あれ、あれ?
「姉様、どうしたの?」
「どうしましたルミナス様?」
「ない、ない、ない」
「ねえ様どうしたの?」
血の気が引く。
「何がないのルナちゃん?」
マリ先輩が優しく聞いてくる。
「ないっ、ペンダントがないっ」
私はベッドを飛び降りる。
アルフさんがくれた、成人のお祝いのペンダント。
あれがない。
きっと、吹き飛ばされた時だ。
なら、舞台のどこかにあるはず。
探さないと。
「落ち着いてルナちゃん、今、閉会の挨拶中よ」
マリ先輩が私の肩をそっと抱く。
「でも、でも…………」
かなり混乱していた私に、回復したアルフさんがそっと押し留める。
「落ち着けルナ」
「でも、挨拶の後、舞台は一般公開されて………」
誰かが拾って届けてくれる? そんなことはない。ミスリルのペンダントだ。出てくるわけない。
大事に、大事にしてたのに。
アルフさんからもらった、大事な、大事なペンダントなのに。
私の目に知らずに涙浮かぶ。
「落ち着けルナ、心配するな、また儂が作ろう」
「あれがっ、あれがいいんですっ、あれがっ」
私はひどいわがままを言う。
アルフさんが困った顔。
「落ち着きなさいルミナス。おば様に頼んでおくから、アルフ君を困らせてはならないよ」
お父様が医務室を出ていく。
私は脱力する。絶対に出てこない。
ポロポロと涙が溢れる。
アルフさんがひたすらに拭ってくれる。
「ねえ様、私の髪止め上げるから泣かないで」
ジェシカまで心配して、私の手を握る。
そんな中、ソフィア嬢のお迎えがあり、エリックが付き添って行った。ソフィア嬢が心配そうに振り返った。
「少し、安心しました」
ソフィアがそう呟く。
「何に?」
迎えの馬車に向かう途中。
「ルミナス様は、私と全然違う人だって思っていました。本の中に出てくる誇り高き女騎士のようだと。でも、私と何にも変わらない」
ソフィアは笑う。
「大切な方から頂いたものをあんな風に大切にしている。失くしたと思って、涙を流す。気持ちは分かります。私だってエリックからもらった栞を失くしたら申し訳ないし、悲しいもの」
「そう思ってくれると嬉しいよ。姉様を理解してくれて。ありがとうソフィア」
「ふふ、中型のグリズリーと戦えるなんて仰っていた時は、驚きました」
「流石に大型は無理だったみたいだね」
ソフィアは笑う。だが、すぐに険しい顔に。
「ペンダント、出てくるかしら?」
「無理だろうね。アルフ義兄様の腕は、鍛冶師としてかなりのものだから、ペンダントも高品質のはず。出てくるとは思えないよ」
「そう、今から舞台で探そうかしら?」
「ありがとう、気持ちだけで十分だよ。きっとアルフ義兄様がフォローしてくれるから、さ、迎えの馬車だよ」
ソフィアをエスコートして、フワラン男爵一行と合流。
「エリック様、ルミナス様のお怪我は?」
ソフィアの母親が心配そうに聞いてくる。
「傷はきれいに治りました」
問題は別の所だ。
「ソフィア」
「はい」
「今日、夜会がある。僕がエスコートしてもいいかな?」
「はい、もちろん」
頬を赤く染めたソフィアは、嬉しそうに頷いた。
お父様とエリックが戻って来て、やっと帰宅が許される。
落ち込んでいる私をお母様が、優しく叱責。なんとか立ち上がる。
私はアルフさんに手を引かれて、迎えの馬車に乗るが、頭はペンダントの事で一杯だった。
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