三度目の決闘①
次の日。
私は支度をして、闘技場に向かう。
リツさんとマリ先輩がお弁当とおやつを持たせてくれる。ローズさんはお茶を水筒に入れてくれた。
「ルミナス、しっかりね」
「はい、おばあ様」
分かっていますよ。
「ルミナス、大丈夫か?」
「ルミナス、気を付けるのよ」
お父様、お母様まで心配してくれた。エリックとジェシカもだ。
「相手は熊じゃないからね」
「ねえ様、ケガしないでね」
エリックの心配ポイントが違うけど。
「ルナ」
アルフさんがそっと、手を握ってくれた。
「『決闘』は心配しとらんが、気を付けるんだぞ」
「はい」
皆に見送られて、私は1人で馬車に乗る。
去年と同じ控え室に入り、私はそれからずっと暇していた。
いよいよ次の日。
私は支度をする。
髪は一つにまとめ、アルフさんからもらった髪止めで止める。ペンダントも大丈夫。ドラゴンベストも、グレイキルスパイダーの装備も大丈夫。よし、行ける。
「ルミナス・コードウェル様、お待たせしました。こちらに」
「はい」
私は一つ呼吸をする。
去年と同じ舞台袖。私はちょうどいいながさの木刀と、盾を手にする。すでに、歓声が会場を包んでいる。
『まずは宰相の次男である、ジェイムズ・ブルーブ様ッ。長年の想いを込めて、いざ、舞台に立ち上がりますッ』
歓声が上がる。
去年の実況が盛り上げる。
『次に、去年、この『決闘』で主役となりましたルミナス・コードウェル嬢。恩あるクレイハートの為に立ち上がりますッ。マリーフレア嬢は、薬師として成し得たい事があるために、今は結婚は考えられないとのことで、この舞台に立ちましたッ』
案内人が私に合図。
「はい」
私は舞台に上がる。
大歓声が包む中、対面するのは、黒髪の青年。ジェイムズ様だ。ロングソードの木刀を持ちヤル気満々だけど。こちらはレベル100越してるからね、いや、油断大敵。全力でいこう。
あの晒し者の椅子には、ピンクのドレスを着たマリ先輩。うん、ローズさんの気合いの入ったドレスとなっています。マリ先輩の左右はローズさん、ショウが固め、足元にはノゾミが居座ってる。サイドにはクレイハート伯爵様達と、宰相様一行が並ぶ。
別のボックス席に、コードウェルの面々とアルフさん達が。
おばあ様の貴賓席にはバーミリアン殿下ご一行様と、獣人のご一行様。あれが脳筋お友達かな? 遠いから、よく見えない。あら? リチャード三世国王様までいらっしゃいますよ。いかん、恥ずかしい戦いはできない。
審判役の年配の騎士が、私とジェイムズ様に、誓約書の説明。去年と同じだ、サイン、と。ジェイムズ様もサイン。
誓約書はエンリケ様の元に。
『はい、確認されましたッ。ジェイムズ様っ、ルミナス嬢っ、位置にっ』
よし。
【風魔法 身体強化 発動】
【風魔法 身体強化 発動】
【火魔法 身体強化 発動】
準備万端。
息を吸う。
『ではっ、絵面的に完璧な感じになりましたっ、美しいマリーフレア嬢の運命は…………』
マリ先輩を困らせたら、排除対象だ。
すう、と顔が引き締まる。
『ひーッ、ジェイムズ様、逃げてーッ』
こら、実況。
「ウェルダン、『決闘』始めっ」
実況を無視して、開始の合図。
私は構えから一気に間合いを詰める。
下から、私の木刀がジェイムズ様の木刀を空高く弾き飛ばす。
振り上げた木刀を、呆気にとられたジェイムズ様の額寸前で止める。
ジェイムズ様の顔色悪い。
「勝者、ルミナス・コードウェルッ」
一瞬の間を置いて、大歓声が包み込む。
私は一礼する。
『ちょっと。圧倒的な感じで終わりましたが、ルミナス嬢ッ、去年よりパワーアップしちゃってますっ』
レベル上がったもん。
ジェイムズ様、悔しそうだ。まあ、諦めてください。
私は拍手をくれるマリ先輩を見上げて、一礼。国王陛下にも一礼。
ふう、終わった終わった。
今日は、後夜会だけだ。
歓声の中で、えー、もう終わりー、見たいな声が。いや不満が漏れる。仕方ない、だって一撃で終わってしまったし、私だってだらだらしたくないしね。
だけど、徐々にブーイング。お金払って来ているからね、文句言いたいのだろうけど、私に言われても。
そんな中、リチャード三世国王様が立ち上がる。
しん、と静まり返る会場。
「ルミナス嬢、素晴らしい戦いであった。さすがエルランド・コードウェルの孫娘」
キャーッ。陛下にお言葉頂いたーっ。
慌てて膝をつく。
僅かに遅れて拍手が包み込む。
「で。だ。みな、あまりにも素晴らしい『決闘』で、血が沸いておるようだな。そこでだ。ここに来賓として来ていただいたディーダ殿下より模擬戦の申し出があったッ」
ギャーッ、嫌な予感っ。
念のためにサーシャは、ウェルダンの屋敷でお留守番しているけど、嫌な予感しかしない。
再び大歓声。
そんな中立ち上がるのは、金色の髪を持つ、ゴツイ男性。獅子の獣人、ディーダ殿下だ。
「素晴らしい戦いを見せてもらい感謝する。私はバインヘルツから来賓として迎え入れてもらった、ディーダ・ワナーズだ。確かに素晴らしい戦いだったが、あまりにもあっけなさ過ぎるではないかっ、祭りはこれからであろうっ」
『キャーッ、ディーダ様-ッ』
おい、実況。
「もちろん、この『決闘』のルールに従い正々堂々と戦おう」
盛り上げる会場。
『キャーッ、ディーダ殿下-ッ、素敵-ッ』
すう、とリチャード三世国王様が手で制すると、静まり返る会場。
「では、ディーダ殿下、何をかけますか?」
「そこの」
ディーダ殿下が指したのは、ボックス席の一つ。
「子供の部で優勝した銀狼の少女を。是非、我が甥の花嫁候補に」
ミーシャが狙われた。
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