三ヶ月④
勧誘?
私は午後から冒険者ギルドへ。
宿ではナリミヤ氏による錬金術講座が続いている。また、聞いていたら、寝そうだからね。
今日は何か講座あるかな?
「ねえ、君、ちょっといいかな?」
依頼板を見てると、声をかけられる。
きっと私じゃない。うん、違うはず。ちょっと移動しよう。
「君、君だよ」
がっつり肩を掴まれる。
しぶしぶ振り返ると、三十過ぎ位の鎧を着た男。背中に盾。当然冒険者だろう。背が高く、なかなか渋い顔。
「何ですか?」
「俺はライナス、Bランクのパーティー『暁』のリーダーをしている」
男は自己紹介。へえ。Bランクパーティーというと、このライナスという冒険者、少なくともBランク以上、雰囲気から多分Aランク以上だろう、高いな。
「少し話をしたいのだけど、時間を貰えないだろうか?」
丁寧に話を持ちかけてきた。この前マリ先輩達を勧誘してきた男達と雲泥の差だ。
どうしようか? 回りもちらちら見ている。見た感じ、悪い人ではないようだし。
「少しなら」
「ありがとう」
にこりと笑う。渋いなあ。冒険者ギルドの端にある、椅子に腰かける。併設の食堂だ。
「君は未成年で合ってるかな?」
「はい」
ライナスさんはさっと飲み物を注文。
「あの、結構です」
「こちらが時間を貰っているんだ。それに飲み物をご馳走するくらいの稼ぎはあるよ」
男前。しかし、渋い人だね。
「名前を聞いてもいいかな?」
「ルナです。あの、話って?」
「直球に聞くけど、君はあの副ギルドマスターが保証人になったJランクは君で合ってるかな?」
やっぱりそう来たか。うーん、嫌な予感。
「はあ、まあ、そうですが」
飲み物が運ばれ来る。果物のジュースだ。
「君をうちのパーティーに勧誘したい」
え、Bランクのパーティーに?
「私、Jランクですよ」
「知ってるよ。それを踏まえても、君を勧誘したい。あの副ギルドマスターが保証人だからね。君の将来性を買っている」
将来性ですか。多分グラウスさんはそれで私の保証人になったわけじゃないと思うけど。
「買い被りすぎですよ」
「そうは思わないよ。ギルドマスターが槍術講座に出てたろ? 実はね、あれ、見ていたんだ。素晴らし逸材だ。確かに君はまだ若いし、Jランクかも知れないが、是非戦力として欲しいんだ。うちに入ってくれたら、いろいろ譲歩する。生活面も心配しなくてもいいよ」
かなり、条件はいいだろう。
「光栄な話ですが、お断りします」
「そう、理由を聞いても?」
「私にはパーティーを組む予定の人達がいます」
そう、マリ先輩達だ。
「一緒にいた子達だね。失礼かと思うけど、君とレベルが合ってない気がするけど」
マリ先輩達を知ってて、勧誘したのか。
「それでもいいんです」
構わない。レベルとかの問題じゃない。いずれマリ先輩達がライドエルに戻るだろう。それまで、一緒にいるのは私の意思だし、なんたってご飯が美味しいし。これ重要。それに、何よりマリ先輩には恩があるし。
「残念だよ、まあ、気が変わったら声をかけて。俺達はここを拠点にしてるから」
ありがたい話だ。
「ありがとうございます。ご縁があれば」
「待ってるよ」
あっさり引いてくれてありがたい、最後まで男前だな。
それから差し障りのない話をして、ジュースのお礼を言ってライナスさんと別れる。
なんだろう、無料講座を受ける気になれず、悩んでいると、例の少年達。
「「「「お疲れ様です姐さん」」」」
帰ろ。
「リーダー、どうだった?」
パーティーで借りてる宿に戻ると、斥候のクリアナが聞いてきた。
「断られた」
「嘘でしょ。リーダー、ちゃんと誘惑した?」
「勧誘だ、誘惑するわけないだろ。相手は未成年だぞ」
クリアナの言葉に辟易するライナス。
「でも、将来性あるんでしょ。ガイの抜けた後のメンバーどうするの?」
そう、ガイは長年前衛でパーティーの攻撃役だった。獣人特有の高い身体能力で頼れるメンバーだったが、肩を壊し、先日20年の冒険者生活を引退し故郷に戻っていった。ガイの抜けた後どうしようかと悩んでいると、あの少女とギルドマスターが槍術講座で派手にやりあっているのをたまたま見た。あんな小さな体で、と思ったが、戦闘スタイルはガイに似ていた。確かにまだ若いが、ぜひ欲しい逸材だと直感。長年共闘していた彼女の戦闘スタイルなら、きっと直ぐに自分達のスタイルとも合うはず。しかも、副ギルドマスターが保証人だ、将来有望の判子を押されたようなものだ。かなりいい条件を提示したが、断られた。あの一緒にいた少女達がネックだろうが、今はいいかも知れないが、いずれレベルの差や、生活面で問題が起きるとライナスは踏んでいる。仲良しこよしで、生きていけない。しかし、無理に勧誘できない、ただ、印象に残ればいい。何かあって、困った時頼ってくる存在になればいい。
「まあ、地道に攻略するさ」
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