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三度目の年⑤

 クレイハートの別宅を出た後、コードウェル領に向かう。

「ねえ様っ、お帰りなさいっ」

 ジェシカが飛び出してくる。

 ああ、背が伸びて、ますます可愛くなって。本当に変な虫が付かないかな心配だ。

 両親にフレナさん達も紹介。クレイハートの別宅の玄関くらいもない我が家に、何故かほっとした表情だ。

 アルフさんと両親も挨拶無事に済んだし。

「ジェシカ、ご挨拶なさい」

 母に言われて、ジェシカもご挨拶。

「はい、ジェシカ・コードウェルです」

 かわいい、ルナちゃんそっくりと大好評でした。

 ターニャもマイクも元気で良かった。

 牧師様にもアルフさんとご挨拶に向かう。

 ニックの件も気になってたし。

 足を少し引きずっている牧師様は、やるせない表情を見せた。

「最後まで悪くないって喚いていたよ。まったくみっともない。お前に暴力を震われたと喚いて、だが、お前はいつも力のない子供の味方だったからな。その子達が、証言してくれたよ。『お嬢様だけが、守ってくれた』と」

 ニックは、コードウェルでも裕福で、わがままに育てられて暴君気質だった。それが許されたのは、父親と叔父が真面目に狩人をして、時には獲物を格安で譲っていたからだ。だから、大人達は、そんな2人の血筋であるニックが、お金を巻き上げたり、いじめたりするわけない、と、思っていた。被害に遭っていた子達は、ニックに対してのひがみだと思っていたようだ。

 小さい頃は、回りの大人が味方だったが、私がニックを締め出した事をなんとなく分かったていたようで、少し警戒をしていた。ニックはいつの間にか孤立し、腰巾着までいなくなった。そりゃそうだ、ある程度の年になったら、いろいろ覚えなきゃいけないことがある。腰巾着達も生活あるしね。

 私が学園に行った後は、牧師様が厳しく監視していたし、いつまでもガキ大将気分のニックを、こんな田舎が受け入れる分けない。働かないと、食って行けないからだ。父親の手伝いをしていたが、はっきりいって、弓の腕は良くない。うわべだけ、練習しているだけ。これでは、いつまでたっても自立しないと、やっと父親達が焦りだした頃に私が帰国、そして、ゴブリンの巣。

 自業自得の逆恨みで、私に放った一本の矢が、ニックのうわべだけの人生に止めを刺した。

「ニックは、裁判官に素行不良と心証を与え、思慮浅い行動を重く取られた。未遂とはいえ、人に矢を放つ行為がどれだけの事か、最後まで分からなかったよ。ニックは恩赦・仮釈放30年なしの重犯罪の奴隷になった。今頃ハタナ鉱山で労働しているはずだ」

「そうですか………ハンス達は?」

「コードウェルを出ていったよ。ニックの母親の容態が悪くてね。今は、ウェルダンにいるはずだ」

 ニックの母親は心労で、倒れたままか。

 なんだか、私もやるせない。ニックは自業自得だけどね。

「フレデリックがハンス達の土地や家屋を、そこそこの額で買い上げたから、しばらく生活には困らんだろう。ルミナス、お前はなにも気にすることはない」

「はい、牧師様」

 牧師様に挨拶して、教会を出る。

 ウェルダンに行ったら、顔を見に行くべきか? いや、下手なことしないでおこう。リツさんやマリ先輩に迷惑かけるかもしれないし。ウェルダンにはジェシカ達も一緒に行くしね。

 アルフさんが、考え込んでいた私の手を引いてくれる。

 嬉しい。

「あ、お嬢様っ」

「ルミナスお嬢様っ」

 そこに、見知った顔の農家達が駆け寄って来る。

「皆、元気?」

「はい」

「はい、お嬢様」

「ああ、旦那様も相変わらずいい男ですねえ」

「まだ式挙げてないって」

 私は慌てて否定する。まだ、婚約だって。まあ、ちょっと嬉しいけどさ、うん、嬉しい。

「お嬢様は、結婚したら、コードウェルに? それとも旦那様の土地に?」

 あ、それは。

「トウラに残る事になるわ」

 アルフさん、トウラの鍛冶師所属だし。

 皆一様に残念、みたいな顔だ。

「ごめんなさい、お父様が待っているから」

「そうでしたね」

「お止めして申し訳ありません」

 ぺこ、ぺこ、して私とアルフさんはコードウェルの家に向かう。

「なあ、ルナ」

「はい」

「さっきの話、良かったのか? トウラに残ると」

「はい、構いません。アルフさんのお仕事あるし、もう、トウラは第二のふるさとですから」

 もう、三年も住んでるし、愛着が沸いてる。それにトウラ自体が住みやすい街だ。

「そうか」

「アルフさんは? やっぱりマダルバカラの方が」

「いや、儂もトウラが心地いいしな」

 なら。

「そのうち、ギルドマスターに物件紹介してもらわんとな」

 う、それは、それにその。

 でも、来るべき未来だ。

「………………はい」

 私は小さく返事。

 ちょっとだけ、私の手を握るアルフさんの手が強ばった。

「帰ってすぐ相談するか」

 私はまだ、ちょっと待ってと必死に訴えた。

読んでいただきありがとうございます

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