三度目の年②
2日目も大盛況だ。
腕相撲ブースは少しのんびりしていた。さすがに勝てないって思ったんだろう。まあ、諦めの悪いのか、のりの挑戦者だ。
本日もせっせと私はたい焼きの型に生地を入れるだけ。結構疲れる。昨日の夜、たい焼きもクレープも300個くらい予備を作ったけど。
朝早くから、ぼちぼちお客さん。夜警の騎士達が、買って帰ってくれた。
日が上がるにつれて行列となる。
バルハさんがお孫さんを前の日の倍、六人連れてきて、これまた大量購入してくれた。
オルファスさんも家族を連れてきてくれた。
交代で休憩。
昼過ぎに、お久しぶりな方達が。
「やあ、皆さん、お久しぶりです」
冒険者パーティー『暁』のメンバーだ。
去年最後の馬車護衛で、トウラに三日前に到着していたようだ。
「グリフォンがいるって聞いて来たが、面白いことしているな」
ライナスさんが、腕相撲ブースを見ている。
「リーダー、リーダー、彼をっ」
まだ諦めてなかったんかい。シンザが血走った目で、アーサーを指す。
アーサーは近くのジェイドさんの後ろに。
「勝てる気がしないぞ」
「いいから、いいからっ」
結局、アルフさんといい勝負だったけど、負けてた。呑気にチーズ入りミートソースたい焼きをぱくついていた、トルバが巻き込まれる。マルコフさんといい勝負だったよ。
「クリタナッ」
「はぐはぐ、何よ?」
リンゴの甘煮のクレープを食べてるクリタナは、めんどくさそうな顔で答えている。
「オークも振り向かない、お前の魅力でなんとかなんかっ」
ごすうっ
クリタナの拳が、シンザの鳩尾に綺麗に入った。
相変わらず、失礼だね。
「お騒がせした」
ライナスさんが、伸びたシンザを抱えて、ペコペコしながら、帰って行った。たい焼きのチョリソーやハム、ツナ、餡子を買ってくれた。クリタナはもう一つブルーベリーのクレープを買い、トルバはたい焼きのラタトゥイユとミートソース、マダル芋を買ってくれた。
せっせとたい焼きを焼いていると、また、お久しぶりな方達が。
フリオル様とヴェルサスさんとビルツさんだ。
ミュートの管理責任者の護衛できていて、休憩時間にわざわざ来てくれた。
「皆さん、明けましておめでとうございます」
マルコフさんやフレナさん達と面識があって、メイド服やギャルソン服には驚いていたが、丁寧にご挨拶してくれた。私達もご挨拶。
「面白いことしていますな」
腕相撲ブースが気になる様子。
フリオル様が試しに座る。
「相手は?」
「ルミナス嬢を。実は息子が、一目惚れしたようでな」
「はははははははは」
アルフさんのオッドアイ、笑ってない。
で、ごすうっ、と腕を倒す。
「き、君、手加減とかさ…………」
「はははははは、ルナは儂と婚約しておりますからな」
「先に言ってっ」
フリオル様が抗議している。
「婚約とはおめでたい、いつ、式を?」
ヴェルサスさんが聞いてくる。
「まあ、少し先になる」
アルフさんが曖昧に答えている。
ビルツさんも、おめでとう、って言ってくれた、嬉しい。
三人はイートインスペースで、そば粉生地のクレープとローズさんのお茶に舌鼓。帰り際、警備の騎士達の分を買ってくれた。
たい焼きとクレープは飛ぶように売れて、私達だけでは回らず、焼き場にバラックとサリナが入ってくれた。イートインスペースにはフレナさんとキャリーが入り。行列整理には残りのメンバーと定期巡回にノゾミがとことこ。いらいらしているお客さんには、可愛く鳴いて、すり寄っている。うん、ぐっじょぶ。
「チョリソー、リンゴの甘煮、売り切れでーす」
「粉チーズ生地、売り切れでーす」
「ミートソース、ハム、ブルーベリー売り切れですっ」
ひー、追い付かないっ。
昨日予備で焼いた300がなくなり、大忙し。
二日目、前日より早く完売した。
早めに店じまいして、屋敷に戻る。
つ、疲れた。
だけど明日最終日だ。
夕御飯はキノコやカラーラの白菜と魚介類の鍋だった。〆の雑炊が美味しい。ふーふー。パクパク。
それから明日の為に、生地を作り、次々に焼き上げる。
ホリィさん達には先に休んでもらう。
私はひたすら生地を流し込む。
リーフが計算しながら、アーシャとミーシャに指示を出す。
リツさん、マリ先輩、サーシャはひたすらクレープの生地を焼いている。アルフさんとアーサーは、焼き上がったクレープ生地に具材をのせて巻く。ジェイドさんはすべての個数の確認。
「たい焼きもクレープも500ですね」
「さあ、明日が最終日よ、みんな頑張りましょうっ」
「「「おーっ」」」
最終日。
新年の屋台は一週間あるが、3日を過ぎると徐々に縮小される。明日からの出店の人ももちろんいるし、まだ、しばらくは人出もある。
気合いいれた最終日。
腕相撲ブースは縮小。さすがに挑戦者は少なかった。
本日バルハさんは家族総出で来てくれたよ。沢山買ってくれた。鍛冶師ギルドや職人ギルドの人たちもだ。
昨日作ったたい焼きとクレープの売れ行きは好調だ。
警備の騎士の人も代表で何人かで来て、お食事系のたい焼きやクレープを大量購入してくれた。
孤児院の子供達もおこずかい握りしめて来てくれた。価格を抑えて良かった、とリツさん。
みんな、ニコニコで、帰っていった。
午前中に昨日焼いた予備のたい焼きとクレープは売り切れた。
交代で休みながら、焼き場フル回転。
もう、何個売れたか分からない。
日が暮れる前に完売した。
ああ、疲れた。
後片付けと周囲の掃除を済ませ、マルコフさんやフレナさん達にご挨拶する。三日間応援に来てくれたから、ちゃんと日当支払うことに。それぞれ15万ずつ。それから改めてお食事にご招待となる。
慌ただしく新年が過ぎた。
「なんだかんだで売れて良かったわ」
「そうね。来年も出店しましょう」
「やはり、お食事系が人気でした。ダントツにチョリソーが一番人気です」
リツさんとマリ先輩、ローズさんが楽しそうに話している。
ああ、今年だ。
そんな2人を見ながら思い出す。
あの赤髪エルフが、今年、ダラバから帰って来る。
残念金髪美形がちゃんと言い聞かせるなんて言ってたけど。
私、守れるだろうか?
「どうしたルナ?」
考え込んでいると、アルフさんが顔を覗き込んできた。
優しい、オッドアイ。
あ、大丈夫な、気がしてきた。
「いえ、なんでもないです」
「そうか?」
「はい」
大丈夫。
だって、アルフさんが隣にいてくれるから。
思わず笑みがこぼれた。
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