三ヶ月③
スタディ開始
次の日からナリミヤ氏による錬金術講座が始まった。緊張感のある三人が並ぶ。私は見学。
「では、錬金術講座開始します。まず、錬金術には様々な使い方があります。基本に分解、抽出、再構成、合成です。その過程で乾燥、加熱、温度調整、撹拌等があります」
ふーん。
「分子の理解は大丈夫ですか」
はい、と返事をする三人。
昨日夕食後に、そんな話になった。私はちんぷんかんぷんだったが、ローズさんは何度か聞いて理解してました。優秀だな。
「では、早速、簡単な分解と乾燥から説明したいのですが、その前に古代魔法語の…」
ぐうぐう。ぐうぐう。
はい、分かりません、速攻で寝ました。
「ルナちゃん、ルナちゃん、お昼よお昼ご飯の時間よ」
マリ先輩に起こされるまで熟睡。
寝ていただけなのにお腹が減った。
あ、なんだろう、嗅いだことのない匂い。
いけない、お手伝いも何もしてない。
「すみません、お手伝いしなくて」
「いいのよ、さあ、今日は味噌を使った料理よ。気に入るといいけど」
「マリ先輩の作る料理はなんでも好きですよ」
「あら、嬉しい。たくさん食べてね」
よし、許可いただいたよ。
「あの、僕もいただいていいのかい?」
ナリミヤ氏が恐縮してるが、目線はしっかりコンロにある鍋だ。
「構いませんよ」
リツさんが白い何かをお椀にいれてる。
さっとローズさんが配膳する。
「今日はご飯と、オークのなんちゃって豚汁、川魚のなんちゃって西京焼き」
「おおおおおぉぉぉぉッ」
ナリミヤ氏が叫ぶ、涙を流して。どうしたの大富豪、そしてなんちゃって豚汁の匂いを鼻を膨らまして嗅がないで、せっかくの美形が崩れる崩れる。
「味噌だ、味噌だ、味噌の香りだ。十年ぶりだあ」
ああ、なるほど、故郷の味か。味噌とか醤油とかは向こうには、どの家庭にもあるって聞いた。でも、こちらにはない。
大富豪で、優秀な錬金術師でもできないことあるのね。
「いいのかい? いただいていいのかい?」
目、血走ってます。
「どうぞ、ご飯と豚汁はおかわりできますよ」
「いただきますっ」
ナリミヤ氏は両手を合わせて、自分のアイテムボックスから細い二本の棒を取り出し、器用に使ってがつがつ食べ出す。マリ先輩に聞くと箸という日本のフォーク見たいなものらしい。へえ。いいたべっぷりだか、涙が止まらないようだ。
私もいただきます。
豚汁を一口。
「あ、なんだろう、香ばしいけどちょっと塩味なのかな、なんだか、ほっとする」
今まで味わったことのない味だが、体に染み込んで行く感じ。入っているオーク肉、昨日私がひたすら切った、薄く切るの大変だったなあ。野菜もたくさん入っている。うん、美味しい。
「気に入ってくれた?」
マリ先輩が聞いてくる。
「はい、とても美味しいです、味噌ってこんな味なんですね。香ばしいし、なんだか、優しい味です」
感想をのべると嬉しそうなマリ先輩。
「サイトウ君、おかわりいただいてもいいかいッ」
もう食べたの?
リツさんが豚汁を追加で入れてる。
「ありがとう、ありがとう」
がつがつ。
本当にいいたべっぷり。
「マリ先輩、この白いのは?」
「お米よ、炊いたの。無理ならパンを出すけど」
「いえいえ、いただきます」
スプーンですくってぱくり。あ、柔らかいけど噛むと甘味が出てくる。パンとは違う風味。でも、豚汁ならこっちが合うな。川魚も一口、なんちゃって西京焼きってなんだか分からないが、川魚の切り身の上に薄茶の濃いソースがのってる。
ぱくっ
「このソースなんです? とっても美味しいです」
ちょっと淡白な川魚にのってるソース、ほどよい塩気と優しい甘味、川魚に合う、お米に合う。
「味噌にちょっと砂糖と野菜のスープを混ぜたのよ」
リツさんが説明してくれる。
「なんちゃってだけど、まずまずいい感じね」
マリ先輩とリツさんが食べながら話している。これでまずまずなの? 私は十分なんですが。もぐもぐ。
結局、ナリミヤ氏は豚汁を三杯食べた。
「まさか、味噌が出来上がっていたなんて」
食後のローズさんの紅茶を頂きながら、ナリミヤ氏は感慨深く呟く。何でも味噌を作ろうとして失敗を繰り返し、食材をダメにし続けたため諦めはじめていたと。
「まだ、完成してないですよ。熟成がまだ甘い感じだし」
マリ先輩がナリミヤ氏に説明。きっと味噌はワインみたいに時間かかるんだな。
「なんだ、それなら何とかなるよ、魔法頼りになるけど」
ナリミヤ氏がさらっと言う。
魔法で熟成なんて聞いたことない。
「それも錬金術ですか?」
私が聞くと、ナリミヤ氏は首を横に振る。
「時空間魔法だよ。時間をすすめればいいんだよ。まあ、魔力の消費は激しいけどね。やってみようか?」
なんか、気軽。
時空間魔法ってワープとか、空間把握して他の魔法とか併用すると、魔法を誘導し湾曲し、着弾させる。そんな魔法じゃなかったっけ?
半信半疑でマリ先輩はローズさんのマジックバックから、味噌のつまった甕を取り出す。中身は茶色の味噌だ。
「えっと、どれくらい進める」
「とりあえず、4ヶ月」
なんだろう、会話が軽い。夕食のパンの個数を聞いているような感じだ。
「了解、ふー、タイムリープ」
ナリミヤ氏が甕に向かって手をかざす。
ふわっと光が包む。
「終わったよ」
早ッ しかも魔力枯渇してない。
中身を見ると、更に深い色になった味噌。
「すごい、すごい」
「なんか、本当に熟成進んでる」
私とローズさんは呆然。マリ先輩とリツさんははしゃいでいる。
「私にも出来ますか?」
リツさんがナリミヤ氏に聞いてる。そうか、時空間魔法、リツさん持ってたな。
「今は無理だよ。僕はレベルが高いから魔力の保有量が多めだし、時空間魔法のスキルレベル80越えてるからね」
スキルレベル80!? どんだけ高いのあんた。あ、そういえばこの人のレベル自体200越えてたな、まあ、そうなのかな? うーん、解せぬ。
「はじめは30分くらいから始めた方がいいよ。繰り返ししたらスキルレベル上がるし」
「じゃあ、パンの発酵くらいから始めた方がいいかしら」
だから、リツさん魔法の使い方がね。
真剣に話をしているマリ先輩とリツさん。次の休みにパンの製造が決定。
ちらっとローズさんを見ると悟りの表情。はい、受け入れます。
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