スタンビード⑦
朝御飯の片付けを済ませ、私達はリツさん達のお手伝いに出かける。
思ったより落ちついていた。
端のベッドで鼾をかいて、残念金髪美形が寝ている。
リツさんがやって来た。
「ナリミヤ先輩、お疲れみたいよ」
惜しみ無く回復魔法を使ったおかげで、たくさんの騎士や冒険者が救われたそうだ。
治療後、ある程度の魔物の死体を回収までしてくれたと。
うん、休ませてあげないとね。
「リツさん、私は何をしたら?」
「そうね。サーシャ君、解体の方を手伝ってくれる?」
「はい」
「ルナちゃんは私に着いてきて、アーサー君はアルフさんのお手伝いをお願いね」
「はい」
私達はそれぞれに散り、作業に入る。
私はリツさんと作業している人達に、水を配って回る。リツさんは適宜浄化魔法を使いながら周り、魔物を回収しながら回る。
アルフさんは穴にゴブリンを放り込み、塞いで回っている。アーサーも手伝っている。
作業は夕方近くまで繰り返す。
やっと落ち着いて、私達は宿に戻る。
ああ、どろどろだあ。
簡単に浄化魔法で汚れを落として、順番にお風呂に入る。
「今日は海鮮にしましょう」
リツさんはそう言って作りおきのシーフードシチュー、白身魚がムニエル、海鮮サラダが並ぶ。
「いただいていいのかいッ?」
「どうぞ、ナリミヤ先輩」
残念金髪美形がなんでいるのよ? まあ、いいかあ。今回の最大限の功績を上げたしね。
しかし、よく食べるわ。
デザートに出されたチーズケーキとコーヒーを飲み、お土産にマリ先輩とパウンドケーキを受け取り、ワープで帰って行った。娘さんが心配と。明日、また来るそうだ。
次の日、朝早くにマルコフさん達が来た。
「皆さん、バーンを助けていただきありがとうございます」
「ありがとうございます」
バーンは普通に歩いている、良かった良かった。
それから最前線に立った私達には、色々報償金を頂いた。リツさんが一括管理して、皆で分けることに。特に問題はない。
数日後、私達はトウラに戻ることに。
アルフさんがアイランさんに捕まって大変だったけどね。
ショウに馬具を繋ぐと、アーサーが無表情になっていた。
あ、いた? アーサーの兄が。向こうはギリギリしてる。
「アーサー、無視よ、無視」
「はい、ルナさん」
背中を向けると、急に騒がしくなる。
「皆さんッ」
ビルツさんだ。後ろに見たことある白髪混じりの男性が。ミュートの騎士団長、フリオル様だ。
「皆さん、お気をつけてください。アーサー君、支援ありがとう、本当に助かったよ」
「いいえ、お役に立てて良かったです」
すう、とフリオル様が前に出る。
「今回は皆さんのご助力感謝します。おかげで、多くの部下や民を守ることが出来ました。領主はいま事後処理で離れられず、代わりに参りました」
丁寧にお礼を言ってきた。最前線に立った他の冒険者パーティーにも、お礼を言っている。
最後にもう一度、私達の元に。
「少年」
フリオル様がアーサーの前に。アーサーが立位の騎士の礼の姿勢を取る。
「はい」
「いずれ奴隷という枠が窮屈になったら、ミュートに来なさい。君の席を、開けておこう」
おお、ミュートの騎士団長からの直接スカウト来ましたッ。そう言えば、トウラのエクエス様からもスカウト来てたしね。うちのバランサーは優秀なんだよ。
「ありがとうございます」
「アルフレッド殿」
「はっ」
「君の席は、言わずとも分かるだろう? ミュートの鍛冶師ギルドがてぐすねひいて待っているぞ」
「トウラの鍛冶師ギルドを納得させれば」
「これは手強な」
ははは、と笑うフリオル様。
「アーサー君、本当にいつでも待っているよ」
ビルツさんがニコニコしながらアーサーに言ってる。
「ありがとうございます、ビルツさん」
おーおー、向こうで、アーサーの兄が呆気に取られた顔だ。
ふふーん、だ。
「でも今は、リツ様のお側に仕えたいので」
「そっか、残念だよ」
がっかりビルツさん。
私達はビルツさんとフリオルさんに見送られ、ミュートを出た。
トウラに帰って来て、穏やかに、いや、色々あった。
「あの、アルフさん? なんでこの体制?」
「ルナを抱いとらんと、オリハルコンが扱えんからなあ」
あはは、とアルフさん。
私はアルフさんのお膝に、膝抱えて座っている。恥ずかしい。
何故か私が膝にいないと、アルフさんはオリハルコンが扱えないそうで。リツさんがあきれて見てる。マリ先輩とローズさんは魔力回復ポーションを持ち待機している。
残ったオリハルコンの1/4で、アルフさんの十文字槍の強化だ。
「さて、やるか」
ぎゅう、と私を抱き締めて、アルフさんがオリハルコンを十文字槍に溶かし混む。途中で、魔力回復ポーションを煽り、意識はなんとか保っていたけど、私の意識が持たないよ。毎回これなら、私の精神がもたん。
ちなみに私の最後の剣には、かなりのオリハルコンを使っている。もう一度、アーサーに「あげようか?」と言ったら、即断ってきたよ。
私は、アルフさんの額に浮かんだ汗を拭く。
残りのオリハルコンはマルコフさんの大剣、アーサーの盾、私の2代目に合成予定だ。
これで、オリハルコンはない。
出来れば、アルフさんの全身鎧、ローズさんのナイフ、フレナさんのショートソード、イレイサーの剣の分が欲しいそうだが、ないものはない。
「ダンジョンッ」
マリ先輩が拳を突き上げた。
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