三ヶ月②
とんとん
新しい宿に戻ったのは昼過ぎ。
マルシェで買ったパンと、ローズさんのマジックバックから出てきたのは、鍋に入った具だくさんのスープ。
食後、片付けた後は台所に集合。
今日は食事の準備をするようだ。
「じゃあ、ミートソースとか作る?」
「あと、ラタトゥイユとかは? 大きさを変えたら使い勝手いいかも。スープも作っておきましょう」
マリ先輩とリツさんが台所で話してる。
私は大量の野菜がどんな風に調理されるのか、わからず、玉ねぎをつつく。
「ひき肉はここではどうやって作るの?」
リツさんがボア肉を手にマリ先輩に聞く。
「家には、ミンサーあるけど、ここにはないから手作業かな」
ひき肉って、細かい肉だよね。
「手作業なのね、大変ね」
リツさんは顎に手を当て考える。
私はあんまり役にたちそうにないから、手を上げる。
「ひき肉とやら、作り方教えてもらえたらします」
次にローズさんが手を上げる。
「野菜の下拵えします」
結局、私はひたすらボア肉をナイフで刻み、ローズさんは指定された大きいで野菜を切り続ける。
マリ先輩はリツさんに分量聞いて、小麦粉をせっせと練ってる。パンかなと思っていたが、違うらしい。なんだろう? その間、魔道具の三つコンロには鍋。卵、皮を剥いたじゃがいも、鳥の骨やハーブに野菜が入っている。リツさんは見事な手捌きで川魚を捌いている。
しばらくもくもくと作業を続ける。
もくもく、とんとん、もくもく、とんとん。
「こんなものかしら」
目の前に大量のひき肉。手首、痛い。
「次に、兎肉よろしく」
にっこり笑うマリ先輩。くう、まだやるの?
「お願いルナちゃん」
う、可愛くお願いされました。はい、わかりました。とんとん、もくもく、とんとん、とんとん。
同じ作業って、なんだろう、きつい。ローズさんは無表情に野菜をひたすら切ってる。玉ねぎ染まない?
そうだ、無心だ、無心。
とんとん、とんとん、とんとん、とんとん。
私は無心のおかげか、再び大量のひき肉生産。
ふ、やりきったぞ。
作業に集中しすぎて、マリ先輩とリツさんが何してるか分からない。
何してるのかな?
マリ先輩はせっせとフライパンでローズさんが刻んだ玉ねぎ等の野菜と私の刻んだひき肉を炒めている。途中でリツさんが鳥の骨が入った鍋からスープをフライパンに少し移している。それから切られたトマトとハーブが入る。あ、いい匂い。
隣の鍋には色とりどりの野菜が煮詰まっている。リツさんは鍋をチェックしながら、マリ先輩が練っていた小麦粉の生地を小さく切り分けていく。何作っているんだろう。
「それ、何ですか?」
「皮よ、餃子にしようと思って」
「ギョーザ?」
「うふふ、お楽しみよ。今度のね」
そういうリツさん。きっと美味しいはず。楽しみだ。
リツさんは小さく切り分けられた生地を、麺棒で器用に丸く薄く広げていく。すごい、慣れてる。
私は大量に作ったひき肉をマリ先輩が念のため浄化をかけ、ローズさんのマジックバックに大皿に分けて収まった。
それから私は手を洗って、茹でられた後に、水で冷やされた卵の殻むき。大量の卵の殻をむき後、茹でられたじゃがいもを網のようなお玉、ポテトマッシャーというらしい、それでひたすら潰す。潰す潰す。
このじゃがいも、なんになるのかな?
ふふふ。コロッケかな? コロッケだよね? いくらでも潰します。ふふふ。
ローズさんは野菜の後は、ガリガリとパンを削っている。
あれもコロッケの材料だよね。ふふふ。ふふふ。じゃがいも潰して、うふふのふ。
あ、新しいじゃがいも? はい、潰します。お任せください。
そして夕方、私は力尽きる。
腕、痛い。料理ってこんなに過酷でしたっけ? 腕、痛い。
「ルナちゃんありがとう。力仕事ばかりさせて、ごめんね」
マリ先輩が声をかけてくる。
「大丈夫です。コロッケのためなら」
「ルナちゃん本心駄々漏れだよ。でも今日コロッケじゃないよ」
なんですとッ
私がガックリ肩を落とす。
「ルナちゃん、本当にコロッケ好きなのね」
「はい、じゃがいもが好きなんです」
くう、じゃがいも。こんなに潰したのに。
「今日はじゃがいものグラタンにしましょうか。あとピザトーストにマッシュポテト乗せましょう」
リツさんが素敵なメニューを提示。
「やたッ」
私は天に拳を突き上げる。
こういう所はかわいいのよね、と、かわいいマリ先輩が言うが私はピンと来ない。かわいい人に言われてもね。
グラタン皿にマリ先輩が炒めたミートソースを敷き詰め、私の潰したじゃがいもを被せるようにのせる。
ローズさんのマジックバックから食パンが出てくる。
「それぞれ好きな具材のせましょ」
私はミートソースに潰したじゃがいも、マッシュポテトだね、それを乗せて、チーズをそこそこ。
マリ先輩はラタトゥイユにチーズ多め。
ローズさんはミートソースに茹でた卵を切って乗せてチーズ多め。
リツさんはラタトゥイユにチーズそこそこ。
ぐわぁ、いい匂いだあ。
備え付けのオーブンから、堪らない匂いが漂って来る。
私は熊のようにうろうろする。
「ルナちゃん、落ち着いて、どうどう」
私は馬じゃないって。
そして、待ちに待った夕食。
四人でテーブルを囲んでいただきます。
ぱくっ
「あっつうっ」
グラタンを口に入れると、まあ熱い。
熱いが、このミートソース、美味しい。甘味と酸味がすごい美味しい。マッシュポテトに合う。
ピザトーストは?
サクッ
こちらも美味しい、チーズが入っているから、味が違う。あ、ミートソースとマッシュポテト、グラタンとピザトーストでだぶってる。でも、いいや、美味しいもん。
「うん、ミートソースいい感じにできてる」
「そうね、いろいろ出来そうね」
マリ先輩とリツさんが今後の料理計画を立ててる。
何でもお手伝いしますよ。こんなに美味しい食事がいただければ、何でもお手伝いしますよ。
ローズさんも美味しそうに、ピザトーストを食べてる。
「でも、ミンサーとか、パスタマシーン欲しいわね」
リツさんが悩ましげに考えている。
「そうだね、あ、錬金術で作れないかな? ルナちゃんのナイフとか錬金術で作ったってことは、できないことはないと思う」
マリ先輩、なんだか、錬金術の使い方おかしくない?
「そうね、好きなサイズのフライパンとか作れるって言ってたし、構造さえわかればいけるかな。あ、もしかしたらミンサーとかなら金属を冷やす魔法をかけられないかな? やっぱり熱がない方がいいし」
リツさんまで。冷やすって、もしかして付与魔法? いや、あのね、リツさん、魔法の使い方がね。多分、違うよ。
そんなことを思いながら、グラタンをふうふうして口に入れ、ピザトーストにかぶりつく。
グラタン美味しい、ピザトースト美味しい。
………ま、いっか。
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