スタンビード⑥
目を覚ますと、ベッドの中だった。
ショートブーツとマント、ベルト、ドラゴンのベストは外されている。
外は薄暗い。
え、寝てた。何時間?
慌てて部屋から出ると、ラフな格好のアルフさんが居間で鎧を拭き上げている。私の剣やアーサーの武具一式、サーシャのショートソードも綺麗になってならんでいる。アルフさんの近くにノゾミが丸くなって寝ている。
「起きたか」
「すみません。寝ちゃって」
「構わんさ」
「今、いつ頃です? 夕方?」
「明け方だ」
「えっ?」
通りでお腹ペコペコ。
「リツさん達は?」
「一旦帰って来たが、一休みしてさっき出ていったぞ。炊き出しと魔物の死体の処理だ。儂も後で合流する」
ジェイドさんも行っており、宿に残っているのは私とアルフさん、アーサーとサーシャ、ノゾミだ。
「私も手伝いに」
行かないと。
「いや、まだアーサーとサーシャが起きんから、2人の側におってほしいとさ。ルナ、風呂にも入っておらんだろう? 先に飯にするか?」
「お風呂入ります。あ、バーン、どうなりました?」
「命に別状はないさ。足も無事だし、頭も派手に打ってはおらん。ハイ・ポーションの影響で寝ているそうだ」
そうか、良かった。
サーシャのあのヒール、多分ミドル・ヒールくらいの威力あったかもしれない。
私がソファーで寝たあと、マルコフさんが来て報告してくれたそうだ。改めてお礼に来ると。
良かった。
私はシャワーを浴びてすっきりする。
髪を拭きながら出ると、アルフさんは出かける支度をしていた。
「もう行くんです?」
「ああ、リツが飯の用意はしてくれておるぞ。そうだ、ルナ」
「はい」
呼ばれて行くと、ちゅ、と頬にキスされる。
あ、なんか、恥ずかしい。
「もう、接近禁止はよかろう。行ってくる」
「は、はい、行ってらっしゃい」
小さな声でアルフさんを見送る。
なんだか、恥ずかしいなあ。
でも、いずれ二人暮らしになったら、毎日お見送りの時はこうなるかなあ。は、は、恥ずかしい。
何て思いながら振り返ると、じと目のアーサーとサーシャが。
私は噴き出す。
「み、見てた?」
「見たよ。たく、いいよな」
サーシャがため息をつく。
「なかなかアーシャと出来ないのに」
ぶー、と。
「え、サーシャさん、アーシャさんとどこまで?」
「キスくらいしてるさ、ミーシャが嫁に行くまでは、それ以上は控えてるけど」
視線を外すサーシャ。
「自分なんてッ、手も握れないのにッ」
それを聞いて、アーサーが釘でも打ち込むように壁に額をガンガン。
その音でノゾミが起きてくる。
「メエメエ~」
「お前と俺じゃ違うだろ? ミーシャなら後2年で成人するぞ」
「だから勧めないでくださいよッ」
なんの話よ?
「メエメエ~」
ちょっとカオスのような感じになったが、2人とも顔色は悪くない。
サーシャとアーサーが順番にお風呂に入る。
私はリツさんが準備してくれた朝ごはんを広げる。
鍋をコンロにかけて、と。お、具沢山ポトフだ。後はドライフルーツとナッツのパン。
この三人だけで食卓を囲むのは初めてだ。
「なあ」
サーシャが先に風呂から出てくる。
「何?」
「バーン、どうなった?」
「え? 覚えてない? 命に別状ないって」
「そっか」
ポーカーフェイスなのに耳がピクピクしてる。私は思わず笑う。
「なんだよ?」
「だってあんた、無表情な癖して耳だけ素直なんだもん」
「うっ」
私の言葉に狼狽えるサーシャ。
「変なところで子供よね」
「見た目ぎり未成年のあんたに言われてもね」
「あはは。ちょっとそこでやりあうかサーシャ?」
「いいぜ」
「やめてくださいよ、二人とも」
呆れた顔のアーサーが、髪を拭きながら出てくる。
アーサーもお風呂終わったし、朝ごはんだ。
ノゾミの分もよそって、頂きます。
アーサーもバーンを心配していたが、話を聞いて安心していた。
「そう言えば、ミーシャがどうかしたの?」
私が聞くと、アーサーが噎せている。
「ミーシャを嫁にしないかって、話してる」
今度は私が噎せる。
「ど、どうしてそうなってるの?」
「ん? まあ、ぶっちゃけアーサーは優良物件」
なんじゃそりゃ。
「真面目だし、優しいし、農作業できるし」
「そうだね」
「騎士団にスカウト来るくらいだし、もし色々落ち着いて奴隷解放されても、十分ミーシャを養える。しかも付与まで出来る。稼ぎは十分」
そう、アーサーは最近付与が出来るようになっていた。まだ1日に出来る回数は少なくアルフさんの半分以下にもならないが、日銭稼ぎくらいは出来るくらいはできる。
なるほど、高齢者になっても働き口ありか。ポイント高い。
「俺だってミーシャは大事だ。変なやつにやりたくない。アーサーなら安心かなって」
「なるほどなるほど」
確かに、なるほどなるほど。
「ちょっとルナさん、納得しないでくださいよ」
「ミーシャのどこがダメだ? 兄の贔屓目だけど、美人になるぞ」
「だから、答えにくい事、聞かないでくださいよ」
うーん。
確かに、アーサーは優良物件だな。
「ねえ、アーサー」
「なんです?」
「うちにね、ジェシカって言う妹がいるんだけど」
アーサーが噴き出す。
「ルナさんまで、何言ってるんですかっ」
「えー、ジェシカは可愛いわよ~。私似ないで、剣は振り回さないし」
「顔はそのまんまじゃん」
サーシャが突っ込む。
「それは姉妹なんだから我慢よアーサー。ほら、私が金髪だと思って」
「言っとくが、うちのミーシャの方が絶対かわいいからな」
「あはは、ちょっとそこでやりあうかサーシャ」
「いいぜ」
「だから、やめてくださいってッ」
「メエメエ~」
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