スタンビード③
アルフさんがオリハルコンの合成に成功して数日。無事に付与も追加もできた。
アーサーの薙刀とサーシャのショートソードに、ドラゴンの爪の合成もすみ。こちらの付与もできた。
だが、それで時間切れだ。
間引きをしていたら、急にサーシャ、ジェイドさんが声を上げる。
「音がやんだ」
「悲鳴が止みました」
マルコフさんがすぐに撤退を選択する。
ミュートに戻ると続々と騎士団や冒険者が、戻ってきている。
ギリギリまで間引き作業をしていた私達は、一旦休憩だ。
時刻は夕方。宿に戻る。
何だか落ち着かない。
外壁付近の住人達の避難が続く。
ミュートは堅牢な要塞都市だ。よほどの大群でなければ、落ちることはないだろう。
直ぐにリツさん、アルフさん達が、帰って来た。
「さあ、皆、準備するわよ。間引きチームは休憩と軽く食事よ」
リツさんが指示を出す。
マリ先輩がおにぎりを出してくれた。ローズさんとリーフが豚汁を出してくれた。
いただきます。
焼き鮭ほぐしとゴマが入っている。美味しい。パクパク。豚汁、パクパク。
「ねえルナお姉ちゃん、すぐに魔物が来るの?」
「そうね、早ければ半日かな? 明日の朝かな?」
「そっかあ」
不安そうなミーシャ。
「ミーシャ、お前、宿に残れ」
「嫌、置いていかれるの、絶対嫌」
サーシャの言葉に、ミーシャは抵抗。1人残されるのが、嫌なんだろう。トウラで肩を寄せあっていた頃に、かつての村の仲間を家に招き入れて、貯金を奪われている。それでサーシャとアーシャは自分を売ろうとした。その時の置いていかれると、感じたことが、思い出されたのだろう。
「ミーシャ、来るのは構わんが、絶対に前線に出てはならんぞ」
保証人のアルフさんが、釘を指す。
「うん、分かった」
保証人のアルフさんの言うことには素直だ。
食事と休憩後、持ち物チェック。ポーションに水筒、軽食のお弁当
、予備の武器等だ。後は止血用の布など。私にはナリミヤ印のマジックバッグがあるが、他は小型のマジックバッグしかない。ギリギリまで詰め込む。
装備品もチェック。よし、大丈夫。腰には二代目とナリミヤ印のナイフ。籠手もブーツも、カラーシープのレギンスも大丈夫。アルフさんからもらったペンダントもある。
「皆忘れ物ない?」
「「「「はい」」」」
「さあ、行きましょう」
リツさんを先頭にすすむ。
ギルド前では人でごった返していた。
「後方支援の方はこちらにっ、前線に出る方はこちらにっ」
ギルド職員が台に乗り、声を張り上げる。
「じゃあ皆、ここで一旦お別れね。ルナちゃん、アルフさん、気を付けてね」
「はい」
振り返ると、アーサーが無表情にどこかを見ている。
視線を走らせると、騎士学校の生徒達だ。おそらく後方支援の為に駆り出されたのだろう。
例のアーサーの兄がいる。すごい形相だけど。
「アーサー君?」
「はい、リツ様。リツ様の奴隷として恥ずかしくない戦いをいたします」
おお、カッコいいじゃないかい。
向こうは憎々しい目線だが、アーサーは涼しい顔をしている。顔立ちも違うし、何より格好に差がある。
向こうは騎士学校のくたびれた運動着、こっちはドラゴンアーマーに薙刀、マント、ブーツと勢揃いだ。月とすっぽん的な感じ。
何て思っていると、聞きなれた声が。
「アルフレッドさんっ、皆さんっ」
深い茶色の革鎧を纏ったビルツさんだ。
「皆さんはこちらですよ。中央付近になります」
わざわざ呼びに来てくれたんだ。
うちには支援を使えるアーサーに、土魔法のレベルが高いアルフさん、そして私の二代目には衝撃斬刃がある。そして他方向からの攻撃できるグリフィンのショウもいる。私達とマルコフさん達『ハーベの光』は中央付近。フレナさん達『紅の波』は冒険者達が固まる右翼だ。ただ、ララは後方支援に回るそうだ。
「本当に感謝します。皆さんがいるといないじゃ、大違いですからね。アーサー君、よろしく頼むね」
支援目的だよね。今回かなりアーサーには魔力回復ポーションを持たせている。
「はい、精一杯勤めさせといただきます」
「そのままうちの隊に入っても」
「ほほほ、50億ですよ」
リツさんの鋭い突っ込み。ビルツさんが小さく舌打ちした。
向こうのアーサーの兄が更に顔を歪ませている。
多分、奴隷に落ちて、底辺の生活だろうと思っていたのだろう。だけど、身なりだって破格だし、アーサーの背丈もかなり伸びて向こうを見下ろしている。それに正規の騎士であるビルツさんの言動からして、感づいているはずだ。
騎士隊から、スカウトが、きている、と。
ごく稀に学生時代に騎士団からスカウトがあるが、そうなれば相応の格好で待機しているが、向こうは他の学生と同じ運動着だ。
差がある。
しかも、顔、申し訳ないが、アーサーに軍配は上がっている。
まあ、アーサーのわがまま兄はほっとこう。
私達は、ビルツさんに誘導されて、騎士団の詰所へ。そこには高ランクの冒険者パーティーが3つ。ガチムチの皆さんだが、とても紳士的だった。私を見て、大丈夫かい? と言ってきてくれた。
「これでもCランクなので」
皆さん、びっくり。
そして、アルフさんとアーサーのフル装備にびっくり。ショウにもびっくり。
「メエメエ~」
何故か着いてきたノゾミ。私達がびっくり。
皆さん、メロメロだ。
すぐにマリ先輩の元に連行されました。
「みな。揃ったか?」
壇上に出たのは、フル装備のフリオル隊長。腰に下がっているのは、多分アルフさんが手掛けた剣だ。
「今回、よくぞ集まってくれた。早速で悪いが説明をする」
悲鳴を上げていた森とミュートの間、魔の森近くに杭の仕掛けがある。それで勢いを削り、乗り越えて来たら、まず魔法攻撃。合図は太鼓だ。
「一は弓、二は魔法だ。それと衝撃斬刃を使えるものは?」
私とアーサー、高ランクの冒険者1名、騎士団は3名。
「発動は任せる。出来るだけ引き付けてから放って欲しい」
はい。
今まで起きたスタンビードは、悲鳴がやんで半日~3日で起きる。だが、例外が起きないことはない。今は橋を上げて守りの体勢に入ったミュート。深い堀に厚さ1メートルを越す高い壁。そう簡単には落ちないだろうが。今は後方支援の騎士達が総出で警備に当たっている。
「明朝、展開する。それまで休まれよ」
私達は、どうしようかと相談。
宿をせっかくあるので仮眠と入浴してから出直すことになった。
読んでいただきありがとうございます




