スタンビード②
「ルナちゃんと1ヶ月接近禁止とします」
「そんなあ。儂、ルナがおらんとオリハルコンが…………」
「お黙りなさい」
ピシャッ、とリツさん。
あれから宿は騒然となった。
男性総出でアルフさんを運び、ベッドに。
リーフが同じの食べてるのに、なんでこんなに差があるの? みたいな事を言ってた。
結局、しばらくしてアルフさんは目を覚ましたけど、魔力枯渇していて、魔力回復ポーション一気のみ。
落ち着いてから、リツさんからピシャッ、と言われている。
「扱わないって約束でしたよね?」
「まあ、そんなんだが、いける気がしてな」
「お黙りなさい」
ピシャッ。
私はマリ先輩が新作のクッキーを出してくれているので、パクパク。
「美味しいルナちゃん?」
「はい、このピスタチオのクッキー、薫りが違いますね。とっても美味しいです」
「こっちはね、チェダー。こっちはね、マカデミアナッツよ」
「いただきます」
きりっ
向こうでアルフさんが、私の名前呼んでるけど、リツさんの顔が怖くていけない。パクパク。
「せめて、3日に…………」
「だまらっしゃい」
アルフさんとリツさんの攻防が始まってる。
私との接近だけど、1ヶ月かあ。
? て、ことは、私もアルフさんと接近禁止? え? そうなるの? 頭くらい、撫でてくれないの? ご飯、隣で食べれないの? え? なんだか、急に寂しい。
私はそっと、リツさんの袖を引く。
「どうしたのルナちゃん?」
「私も、アルフさんに近づいちゃダメなんですか?」
すごく、寂しい。
「はあ、もう、仕方ないわね。ルナちゃんからの接近はいいわ。だけどアルフさんはこのスタンビードが無事に終わるまで禁止ですからね。手招きしてルナちゃん呼んだら、期間延ばしますよ」
「分かった分かった」
「本当に分かっているんですね?」
リツさんが念押しして、その場は収まった。
私はそれからお風呂に入る。出るとアルフさんが新生の盾を磨いていた。やっぱり、色、いや輝きがちょっと違う。皆興味津々に見ている。
「やっぱり、色が違いますね」
私がそっと覗くと、アルフさんは嬉しそうだ。
「まあな。少ししか混ざっとらんが、かなり付与が追加できるな」
予定として、火・土・無属性の補助、魔法防御を追加するそうだ。
「どうして、オリハルコン使えたの?」
ミーシャが盾をじっと見ながら聞いている。私も気になっていた。
「んー、親父のやり方を真似ただけだ」
アルフさんが言葉を濁す。
気になる。
「まあ、残り少ないしな。誰の武装に振り分けるかだな」
アルフさんと、リツさんが相談を始める。
「でも、オリハルコンの武装ってまともにあつかえるのはアーサー君くらいですよね?」
「含量を調整すれば、リツ、マリ、ローズあたりはいけるかもしれん」
「お兄ちゃんは?」
ミーシャが訴える。
「うーん。サーシャはちょっと厳しいなあ」
ぴたり、と耳が垂れるサーシャ。あれの仕組みは一体どうなっているんだろう?
「どうして?」
ちょっと必死にミーシャが聞く。
「アダマンタイトも扱えんしな、オリハルコンは更に上位金属だ。おそらく一撃ももたん」
へたる。サーシャの耳が。
アルフさんがそれを見て、苦笑い。
「サーシャ、アダマンタイトに苦手意識があろう?」
「う」
そう、サーシャは未だにアダマンタイトを含んだ武器を扱えない。リツさんのロングソードは光属性の付与があるため何度かチャレンジしているが、毎回魔力枯渇か暴発。とうとう、アルフさんからストップが出たのは、数ヵ月前。先日、ヒースのダンジョンの後、見守られながらしたが、枯渇した。
「すみません………」
「仕方ないさ、苦手意識はな。それにサーシャには、アダマンタイトは体質的に合わんかもしれん」
「?」
サーシャが首をかしげる。
「人それぞれ、受け付けやすい材質ってものがある。そうさな、儂には今回のドラゴン系素材は合わんが、僅かだがオリハルコンが扱える。サーシャにはドラゴン系素材が合うが、アダマンタイトは出来ない。分かるか?」
「う」
サーシャの耳がぴ、と立ち、へたる。
アルフさんに合って、サーシャに合う。
ドラゴン、アダマンタイト、ドラゴン、オリハルコン。
「生き物の素材、か、そうではない、か?」
自信のなさそうなサーシャ。
「正解」
アルフさんの答えに、サーシャの耳がピクピク。ポーカーフェイスなのに、ここだけ、感情豊かだ。
「種族や体質的な問題もあるがな。儂には金属系の素材は上手く魔力が乗るがな。上位魔物素材となると、上手くいかん」
前回のヒースで得たドラゴンの爪を使ったナイフで、全員の魔力を流している。そういえば、アルフさん首を傾げていた。
「でも、アダマンタイト使えたほうがいいですよね?」
「そりゃなあ。だが、アダマンタイトやオリハルコンに拘る必要はない。お前に合った武装を作るのが、儂ら職人の役割だ。心配するな、お前に合った武装を作ってやる」
おお、カッコいいなあアルフさん。
「じゃあ、アルフさん。サーシャ君の武器、強化します?」
「ちょっと、今日はもう無理だ」
アルフさんはドラゴンナイフをサーシャに渡す。
「サーシャ、疲れとるだろうが、少し魔力流して訓練しとけ」
「はい」
それからアルフさんはお風呂に。
「なあ、アーサー、お前あの剣どうやって振り回せているんだ?」
ドラゴンナイフに魔力を流しながら、サーシャが聞いている。
「あの剣って、ルナさんの?」
残念金髪美形の最後の剣ね。
「そう」
「さあ? 逆らわずに魔力流したら、出来ましたよ。コントロールは難しいですが」
「………………そうか」
あの剣を難しいくらいで表現してるよ。
私はサーシャの肩をポンポン。
「魔力系では、誰もあれを扱えないって。アーサーは特別、私達は、脳筋」
「なんか、や、だなあ、それ」
読んでいただきありがとうございます




