三ヶ月①
新しい宿。
ナリミヤ氏との約束の日までに、私達は短期依頼などこなして過ごした。教会の大掃除だったよ。依頼料は少ないけど、パンを頂きました。マリ先輩に預けました、なんでもフレンチトーストにするとな。お任せします。
長々とお世話になった春風亭を後に、ナリミヤ氏に連れられ移動する。冒険者ギルドを通りすぎ、たどり着いたのはそこそこの一軒家。
「ここだよ。三ヶ月借りてるから。宿みたいに食事は付かないけど、家具つき、ある程度の魔道具はついているから。家タイプの宿だと思って」
なるほど、大所帯のパーティーが借りたりするのか。ナリミヤ氏に促され中に入る。
一階は大きな居間と台所、お風呂にトイレ。あちらこちらに魔道具が揃ってます。二階は部屋が四つ。ちゃんとベッドがある。一通り見て回る。
なんか、高そうな感じだけどいいのかな?
「ルナちゃんどの部屋がいい?」
「あ、えっと、この部屋で」
マリ先輩に聞かれ、他と比べて、小さめの部屋を選ぶ。こっちが落ち着く。ローズさんと取り合いになるが、勝利しました。
荷物を置いて、居間に集合。
「では、これからのことの説明をします」
ナリミヤ氏がこほんと一つ。
「ここで錬金術のレクチャーをします。ある程度の広さが必要なので、こちらに移って貰いました。で、こちらで自活してもらいます。食費はこちらに」
と、取り出した袋。リツさんは遠慮して、お断りをしていたが、結局ローズさんが管理することに。
「本格的に開始するのは、明日からです」
そうだね、食材ないから。
「後は何か?」
リツさんがおずおずと手を上げる。あの大金貨のことだ。お返ししようとするリツさんに、ナリミヤ氏は訳があって渡したと拒否する。
「とにかく、三ヶ月後に理由を話すよ」
「はあ」
次に私が手を上げる。
「何かな?」
「ダラバまであいつら、どうやって移動したんですか? 本当にこっちに帰ってきませんよね?」
「ああ、それね」
ナリミヤ氏の説明はこうだ。
ダラバの拠点とマリベールの豪邸はそれぞれ地下に転移門があり、それで行き来をしていたが、こちら側の転移門の一部を外した。これで転移門を使用した移動は不可能。
残りは海路だが、女達の身分証、全員冒険者ギルドカードだが、使用禁止にしたと。それで船には乗れない。身分証無いものは乗船不可なのだ。そんなことできるのか?
「出来るよ。内部事情が内部事情だからね。それに僕、最高ランクだし。三年って期間で、使用禁止にしたんだ」
なるほど。しかも身分証なければ、まともな職にはつけないし、向こうの冒険者ギルドも再発行はしない。そんな人物にダラバ自体も住民に出す身分証を出すわけない。
リツさんがなんとも言えない顔してる。
「娘さんは?」
「うん、通いのシッターさんや使用人を雇ったからなんとかなるよ。前からお世話になってるシッターさんだから、娘達もなついているからね」
「そうですか」
ほっとした顔のリツさん。
「魔道具の説明は大丈夫かな?」
「はい」
マリ先輩とリツさんが返事をする。
私は分からないよ。あとで聞こう。
最後にと、ナリミヤ氏は分厚い本を差し出す。
「これは僕の十年が詰まっている。錬金術で何が出来たかとか、付与魔法に必要な古代の魔法語とか、いろいろ書いてある。無くさないでね。いつか娘に渡すか錬金術を教える時に使う予定だから」
「え、いいんですか?」
驚くリツさん。
「うん、あまり字は綺麗じゃないけど、読んで参考にして」
「ありがとうございます」
それじゃあ、明日から詰め込みでするからね、と言ってナリミヤ氏は帰宅。
早速、リツさん本を開いている。マリ先輩も覗き込む。
「お二人とも、食材を買いに行きましょう」
ローズさんが本に熱中している二人に声をかける。
もうちょっと見たそうだが、本はリツさんのアイテムボックスになおされる。
四人で近くのマルシェへ。
野菜に茸や小麦粉、ハーブや卵。兎やオーク肉、ワインも手に入れる。さすがに内陸国、塩がちょっと高めだった。ボア肉もあった。オーク肉もそうだが、肉塊をいくつも選んでいる。てきぱき買うマリ先輩とリツさん。いや、買いすぎ、あ、時間停止のマジックバックね。できれば休みの日に作りおきを作ると。そうなの。何日分作るの? 更にあちこち回って豆類やなんと川魚まであった。なんキロもありそうで大きい、数日泥抜きしてあるためお高め、マリ先輩とリツさんは少し悩んで、数匹購入。乳製品を扱っている店は冷蔵庫型の魔道具が完備されていた。ちょっと高いがチーズ、バター、牛乳に卵を購入。卵なんて買い占めるような勢いでしたよ。店員さんが丁寧に見送ってくれた。それから更に野菜を購入して、終了になった。
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