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とりあえず、穏やかな日々①

 先にイスハーン殿下の帰国となる。

 ローグから半世紀前の事実を聞いた翌日。

 皆でお見送りした。

 錬金術チームが小型マジックバックを作り、コーナーや道具一式を入れて渡している。

「イスハーン殿下、この度はありがとうございました」

 アルフさんと並んで私は礼の姿勢。

「いいや、構わない。こちらこそ、いい経験になった。アルフ、何かあれば知らせてくれ、私で手助けできるものなら駆けつけよう」

「感謝します。イスハーン殿下」

 で、ローズさんとのお別れのご挨拶。

 私達はそっと離れる。

 イスハーン殿下が何か言っている。三兄妹が気を使って耳を塞いでいる。

 うーん、ローズさんの頬が薔薇色に。

「いい感じねッ」

 マリ先輩そっくりのマーガレット様が、ぐ、と握りこぶし。因みに伯爵様、シュタム様は帰っています。これを見届ける為に残っていたようだ。

 イスハーン殿下は、ローズさんの手を取りたそうだったが、引っ込めて、馬車に乗り込んだ。

 馬車を見送り、私達はウェルダンの屋敷へ。私達の帰国は明日だ。アルフさんが騎士団長にすがられてこうなった。

 リツさん達は買い物に回る。ウェルダン特産の赤オレンジや春野菜の買い物だ。妊婦に優しいエルフのリーフは、体に優しいレシピ片手に買い物部隊に参戦。マルコフさん達も、荷物持ちすると、着いていった。

 私はウェルダンの屋敷に残る。お母様やジェシカとクッキーを作った。明日帰国したら、次に会えるのはずっと先になるからだ。たくさんクッキーを焼いた。

 夕方前に、買い物部隊が帰って来た。

 また、ずいぶん買い込んだね。

「地竜の咆哮の為にね」

 そうですか。しかし、赤オレンジの箱が、すごい数ですが。キャベツやらアスパラガス等もすごい数。しかも、アーサーが行くと、必ずおまけしてくれたそうだ。それ以外でも、道行く人が、傷はもう大丈夫なのかと声をかけてくれたそうで。アーサーはちょっとくすぐったかったと。

 夕御飯は春休みたっぷりのパスタと、ホワイトトレントのチップで燻製されたハムを使った彩り豊かなサラダ、具だくさんスープだった。デザートは赤オレンジのシャーベットだった。

 皆でわいわい作った。妊婦のミアさんも手伝ってくれた。つわりとか大丈夫かな? と思ったが、かなり収まっているし、役に立ちたいと。おばあ様が来て、「私も同じのを頂きたいわ」と言ったので、追加作成した。

 次の日、おばあ様、お母様、ジェシカ、マーガレット様に見送られてウェルダンを出発。お母様とジェシカはウェルダンの騎士団が送ってくれると。

「ねえ様、いつ会えるの?」

「ジェシカ、ルミナスを困らせないのよ。ルミナス、気をつけるのよ」

「はい、お母様。ジェシカ、いい子にね」

「はい、ねえ様」

 クレイハートのマーガレット様も、マリ先輩にこんこんと言い聞かせている。マリ先輩は結婚適齢期に入っているが、いまだ婚約者的なものはない。ただ、今までコラステッド病での療養していたので、のらりくらりとお断りしていたが、今回の春祭りで回復しているのがばれて、ジェシカと比べ物にならないくらいに話が来ていた。クレイハート伯爵様が華麗にお断りしてたよ。

「まず、ショウ君を納得させた者から、話を聞きましょう。ただし、けがをしてもこちらは責任を追いません。こちらにサインを」

 ほとんど帰って行きましたよ。

 そんなこんなでやっと帰国。

 ずっと作業していたアルフさんは、さすがに疲れた表情だ。おばあ様とお母様、ジェシカに挨拶して馬車に乗り込んだら、直ぐに寝ている。

 ジェシカが必死に手を振っている姿に、涙が浮かびそうになる。

 馭者台にはローズさんとリーフ。

 ウェルダンの中を抜けていると、外を覗いていたサーシャが声を上げる。

「止まってください」

 どうしたんだろう?

「あんたは、隠れてろ」

 サーシャは耳を隠すために大きめの帽子を歌舞っていたジェイドさんに言う。

「サーシャさん、どうしました?」

 アーサーも心配そうに聞いている。

「あいつだ。あの、ナービットってやつ」

 え、まだ、いたの? うーん、私も一言ガツンと言ったほうがいいかな?

 心配する中、サーシャは馬車を降りる。私も降りようとしたけど、サーシャが止めた。

「すぐ、済む」

 そう言われて、馬車から見守ることに。

 やつれた顔のダイダンが、何かに迫られる様な表情で、人並みから出てきた。ナービットの騎士達に囲まれている。サーシャはたった一人で、対面する。

「ジェヤードッ、ジェヤードッ。やはり、生きていたんだな。お前がリザードごときに遅れを取るわけがない。どうして髪の色が違うのだ? だが、良かった、さあ、一緒に帰ろう。ジェヤードッ」

 ダイダンは歓喜の声を上げるが、サーシャはいつものポーカーフェイスだ。

「何を言っている? 俺はジェヤードではない。アレクサンドル、サーシャだ。人違いだ」

 突き放すようにサーシャは言う。

 凍りつくダイダン。

「何を言っているジェヤード?」

「俺はサーシャだ。狩人ナットの息子だ」

 首を振るダイダン。

「ジェヤード、どうしたのだジェヤード?」

「だから、俺はサーシャだ」

 繰り返すサーシャ。

 ダイダンは更に混乱した様子で、サーシャを見る。

「ジェヤード、一体どうしたのだジェヤード」

 押さえる騎士の手を振り払い、サーシャの腕を掴む。

「ジェヤードッ。一緒に帰ろうッ」

「いい加減しろッ」

 サーシャは腕を振り払う。

「俺は、サーシャだ」

 何度目かのサーシャの言葉に、ダイダンの目が正気を取り戻す。

「ああ、ああ、そうだな、そうだ、ジェヤードはもういないのであったな。すまない、あまりにも似ていたので、混乱してしまった。お恥ずかしい所をお見せしてしまった。申し訳ない」

 私の知っている頃のダイダンの表情だ。まるで憑き物が落ちたような顔だ。

「すまない」

「いいさ」

 これから、ダイダンはどうなるんだろう?

 ダイダンは騎士達に囲まれて、背中を向ける。

「あんたはどうなる?」

 サーシャが聞く。言葉使いが貴族に対して如何なものだが。

 ダイダンはやや憔悴したした顔で振り返る。

「罪に服すさ」

 一言言って、ダイダンは馬車に乗り込んだ。

 走り去っていく馬車を、隠れて見ていたジェイドさんは、無言で帽子を被っていた。

読んでいただきありがとうございます

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