再び決闘⑥
観客が沸き起こる。
ショウが羽ばたき、舞台に着地する。アーサーを背に乗せて。
アーサーは素早く降りて、陛下の前に膝を着く。私が教えた騎士の礼。ショウは臥せる。
陛下はアーサーの首の奴隷紋を見たが、なにも言わない。だが、ウヌスは金切り声を上げる。
「卑しい奴隷めっ、今すぐ切り捨てよ」
返り討ちにしますよ。
「黙れナリキンヤ、そちが『誰でもよい』そう言ったのだぞ。己の言葉に責任を取れ」
鋭く言うリチャード三世陛下。やっぱりかっこいいなあ。
「発言を許そう。名はなんという?」
「アーサーと申します」
「クレイハートの奴隷か?」
「いいえ」
「ならば主人は?」
「リツ・サイトウ様です」
「そうか」
リチャード三世陛下は一つ息をつく。
「ならば、アーサーよ。我が名の元に許そう。力を示せ」
「はっ」
アーサー、立派になったね。なんだろう前世で指導した騎士達を送り出した気分になる。
深い一礼し、立ち上がるアーサー。無駄な動作なく柄を握る。もちろん、二本とも。
しん、と静まり返る闘技場の中で、アーサーは魔力を操る。
一瞬の間を置いて、剣に異変が起こる。片方は空気を揺らがす程に赤く、もう片方は空間を揺らがせる程に黒く。うちのバランサーは優秀なんだよっ。
うぉぉぉぉぉぉぉっ
大歓声が沸き上がる。
先ほど剣に魔力を流した騎士も目を見開き、ローブの男性に至っては、獲物を狙うような目になる。リチャード三世陛下も、ほう、みたいな顔だ。
うちのアーサーは人族では珍しいくらいに、魔法スキルが高い。もちろん、アーサーは努力を惜しまないからね。
反対にウヌスの顔色が一気に悪くなる。
リチャード三世陛下が拍手を送る。国王陛下から拍手頂いたよ。闘技場が割れんばかりの拍手に包まれる。
アーサーは柄から手を離して、陛下の前に再び膝をつく。
「見事であったぞ。さて、ナリキンヤよ、よいな? いい加減に観念せよ、力を示せ」
「ふんっ」
ウヌスはずかずかと柄を握ろうとするが、直前にローブ男性が杖を前に突きだす。
「ナリキンヤよ、私からの餞別だ」
「ミドル・キュアッ」
ローブ男性の解毒魔法が発動する。
「何をするッ」
「何を? だと? 解毒されて困るような事でもあるのか?」
ぐうの音も出ないウヌス。
「さあ、示せ、力を。歴代最高成績をな」
「ぐねう………」
ウヌスは震えながら柄を握るが、反応しない。
「惨めだな、ナリキンヤ。これがお前の全てだ。本来の騎士位は、ラァーファンの騎士補佐、ライラに授けよう。本来、あるべき場所に」
ライラ。
そう、私の前世を名前。
なんだろう、胸が一杯になる。胸が一杯に。
「黙れッ黙れッ黙れッ」
そんな気分をぶち壊し、ウヌスは台から剣を引き抜く。
リチャード三世陛下の前に、護衛騎士が出る。
「黙れッ黙れッ黙れーッ」
ウヌスは狂ったように剣を振り回す。身構える護衛騎士、なにもしなくても、この2人が切り捨てられる。私は少し距離がある。間に合わない。
悲鳴が上がる。
「アーサー君ッ」
リツさんが悲鳴を上げる。
ウヌスと護衛騎士の前に躍り出たアーサーは、振り回された太刀を、まともに背中に浴びる。
「アーサーッ」
私は、飛び出した。
近くに落ちてた木製の剣を握り、ウヌスの手首に叩きつける。
無様に転がるウヌス。
だが、どうでもいい。
「アーサーッ」
私は倒れ付したアーサーに駆け寄る。すでにリツさんがヒールを発動。ローズさんもアーシャも駆け寄っている。ノゾミまで、駆け寄ってくる。ショウはウヌスに威嚇体制。
ローブ男性が杖をかざす。
「ミドル・ヒール」
アーサーに光が降り注ぐ。
「う、うぅ」
アーサーがうめき、何とか起き上がる。
「アーサー君、どう?」
「あ、はい、リツ様、もう大丈夫です。ありがとうございます」
ミドル・ヒールをかけてくれたローブ男性は、じっとアーサーを見て、小さく微笑む。
「少年、大義であった。若いが素晴らしい才能だ」
リチャード三世陛下も、優しい眼差しだ。だが、次の瞬間、刃の様に鋭い目付きになる。
「ナリキンヤ侯爵夫人を捕らえよ、たとえ先代国王の妹だろうが容赦しない。連れていけっ」
ウェルダンの女騎士達が舞台袖から飛び出して、ウヌスとキンキンキラキラ令嬢を引きずり出していく。
「これにて『決闘』を終了するッ。コードウェル男爵令嬢ルミナスと鍛治師アルフレッドの婚約に祝福をッ」
今日一番の大歓声が、闘技場を包んだ。
「ねえ、アーサー」
「はい」
念のため医務室と来て、私はアーサーに確認した。
「さっきの、アーサーなら何とかできたよね? わざと受けたんじゃない?」
「ばれました?」
やっぱり。
ウヌスは高齢者だ、アーサーは現役冒険者。あれくらいの動きなら、アーサーの体術でどうにかできたはず。それをわざわざ背中で受けた。
「どうして?」
「えっと、その方が、あのおばあさん困るかなって」
その言葉に、私はため息しかでない。
他人の奴隷を故意に傷つけたら、罪になる。それはライドエルでもそうだが。
「あ、大丈夫ですよ。土の身体強化ギリギリまでしましたから」
「そう言う問題じゃないのよ。たく、リツさんがどれだけ心配したと思っているの?」
以前、私も言われた言葉。
「う、すみません」
アーサーがしゅんとしていたが、やはりアルフさんにはばれていて、げんこつくらってた。軽くね、軽く。
私の顔を丹念にチェックしてくれた。大丈夫なのに。あの、アーサーがいるので、見えない所でしてほしい。ほら恥ずかしいからね。アーサーも微妙な顔だし。
いろいろあったけど、やっと帰国だ。
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