再び決闘⑤
示せ
「黙れッ、私を誰だと思っているッ、先代国王の妹であるぞッ」
確かそうだった。
先代国王は名君だった。その前の国王が、女にだらしなかったので、自分の息子より年下の妹がいたのだ。
リチャード三世陛下はゆっくり息を吸う。
「私を誰だと心得ている?」
そうだ。このキンキンキラキラ令嬢の祖母は、かつて王位継承権があった。それもかなり下位の。私の騎士の誉を横から盗っていった時、すでに年上の甥である、先代国王の長男であったバーナード王子がいた。それに正室のニーナ様はあの時すでに、リチャード三世陛下を宿していた。他にも王位継承権一桁の人がいたはず。記憶を引っ張りだすが、ちょっと不安だ。
「ナリキンヤ侯爵夫人、そちに我が王家が席はない。永遠にな」
底冷えのするような陛下の声。
キンキンキラキラ令嬢の祖母が、空気を読まずに金切り声を上げる。
「私は、そこの男爵の娘を断罪せよと言っているのだッ、侯爵令嬢にキズを負わせたのだぞッ、一族すべて断首にせよッ」
こいつも殴っちゃだめ?
左右にいたリツさんとローズさんが、さりげなく私の服を掴む。
「これは国の無形文化遺産、ウェルダンの『決闘』であるぞ。その様に地位を振りかざす事がないように、誓約書を書いている。違反したのは、ナリキンヤ、そちらだ」
護衛の騎士が、ナリキンヤ側の傭兵の持っていた盾をかざして、そのまま落とす。
バリッ
木製の盾が割れ、鈍い金属が覗く。
やっぱり、何か仕込んであるとは思った。まあ、こちらもグレイキルスパイダーの布が仕込まれたブーツで蹴ったけどね。服とか鎧とか装飾品は自前でいいもん。きりっ
「まともにルールも知らず、理解もしていないのか? よくも誇り高き『決闘』を愚弄したな。私の前で剣を抜いた時点で、この令嬢の運命は決まっている。覚悟せよ」
不敬罪だね。
それも、最大級の。
しかも、炎まで放ったんだから。
「ナリキンヤ侯爵夫人、そちにも、罪状はある。騎士位の違法な手段による取得、そして、王国学園での学歴詐称である」
あ、ローズさんがそんなこと言ってた。
確かに、まだ学生の身分で騎士位は取得できない。きちんと学園や騎士学校を卒業して見習いをして、もしくは騎士補佐として何年か勤めなくてならない。それをこのキンキンキラキラ令嬢の祖母はすっ飛ばして、騎士位を得た。
「黙れッ黙れッ、私は歴代最高の成績を納めたのだぞッ、先代国王の妹であるぞッ」
「ならば証拠を見せよ」
底冷えのする陛下の言葉。
「騎士位を取るだけの成績があったのだな? ならばそれを示せ」
舞台袖から数人が、何かを持って現れる。
剣と刺さった台座だ。
ざわざわざわざわざわ
観客席からざわめきが沸き上がる。
あ、あれは魔法スキルがどれくらいあるか判定する魔道具だ。騎士になるための最低限の試験。魔力を流すと、それぞれの属性によって色が変わる。魔法スキルが10越したら、大体反応する。なので、最低限の試験だ。一般人は見る機会はほぼない。
キンキンキラキラ令嬢の祖母は、戸惑いの表情。覚えてないか、知らないかだ。多分後者かな。
台座は2つ。
「もし、そちが正当に騎士位を取得したならば、分かっているな? さあ、今こそ示せ」
「こ、高貴なる者は、その様に力を見せびらかすことなどッ」
「ならば、出来ぬとして正式に受理しよう。よいな? もうチャンスはやらん。半世紀、そちはのらりくらりと示さなかった。だが、もう時間切れだッ」
リチャード三世陛下の鋭い声を上げる。
ぐう、と、言葉に詰まるキンキンキラキラ令嬢の祖母ウヌス。
あれ、何でウェルダンの騎士は動かないのかな? 普通なら、縄でぐるぐる巻きじゃない?
「ふんっ、仕方ない、このような卑しい場で私の力を示してやろうっ」
「ならば、降りてこい」
キンキンキラキラ、面倒、ウヌスでいいや。ウヌスはつんとして貴賓席から姿を消す。
すぐに来るかな、と思ったら20分近く待ってやっと舞台に出てきた。まあ、高齢者だしね。
また、派手なドレスに派手な化粧だね。歳を考えた方がよくない?
ふっさふさの扇を手にして、舞台に上がるウヌス。
リチャード三世陛下の目は、冷えきっている。
ウヌスは、ふん、と顎を上げる。
おいおい、国王陛下の前だぞ、礼儀ってもんをなあ。
「ナリキンヤ侯爵夫人、示せ」
リチャード三世陛下が命令する。
だが、ウヌスは鼻で笑う。
「それが本物の査定の剣であるかの証明もせぬのか?」
こいつも大概不敬罪だよ。
リチャード三世陛下は、控えていた護衛騎士に視線を送る。素早く護衛騎士が動き、ウヌスの前で綺麗に一礼。それぞれ、柄を握る。
すると、片方は赤く、もう片方は黒く染まる。
ざわついていた観客席から歓声があがる。見たことないから興奮してますね。
「さあ、本物と示したぞ。今度はそちの番だ、さあ、示せ」
「ふんっ」
ウヌスは更に笑う。
「私は火と闇を同時に扱うのだぞ。それが証拠出来る査定の剣であるか、証明するのが礼儀であろう」
それは中々難しい。この査定の剣は、一種の魔力を流すのは以外に出来るが、2種となると、かなり高度な魔力スキルがいるはず。でも、わざわざ、そんなことしなくても、いいだろうに。1つずつ示せばいいだけなのに。何故。
時間稼ぎ。
後ろのローズさんが小さく呟く。
ああ、そうか、このウヌスはドーピング剤を飲んできたんだな。その効果が出るまで、時間を稼いでいるんだろう。だから、舞台に来るまで時間かかったんだ。
「ふん、誰でもよい。さあ、火と闇を使い、査定の剣を動かすものゆ進み出でよ」
ざわざわざわざわざわ
ウヌスが勝ち誇った顔をする。
こいつ、こうやってのらりくらりやってな。
いらっ、とする。
すると、リチャード三世陛下が、貴賓席の一つを指差す。
クレイハートの貴賓席だ。
誰も手を上げない中で、ただひとり手をあげていた。
アーサーが。
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