再び決闘③
いいの?
え? 目の前に国王様が出てきたんですけど。
護衛の騎士2人と、ローブ姿の高齢男性と一緒に。
リチャード三世陛下はパリッとした軍服のようなスーツで、背筋をぴんと伸ばしている。
どよめく中で、私は、膝をつく。リツさん、ローズさん、アーシャもだ。ノゾミは伏せ。向こうの傭兵も慌てて膝をつく。あのキンキンキラキラ以外は。
おい、国王様の前だぞ。
『えー、今回陛下は国の無形文化財であるウェルダンの『決闘』が異例の追加開催の為に視察にいらっしゃいましたが、間近で見たいと審判を勝ってくださいましたっ』
お願いしますから、貴賓席にいてください。
リチャード三世はあのバーナード王子の一人息子だが、全然似てない。母親のニーナ様にそっくり。渋いおじ様で、女子人気が高い。
リチャード三世陛下は、私達を見て穏やかな顔。
『では、誓約書にサインをっ』
護衛騎士の一人が誓約書を出す。
おずおずと立ち上がり、誓約書を確認し、サインする。ノゾミは鼻スタンプだ。向こうもサイン済み。
リチャード三世陛下が誓約書を確認し掲げる。
『はい、確認されました』
誓約書はウェルダンの執事が持ち、エンリケ様の元に。
エンリケ様がチェック。小さく頷くと、リチャード三世陛下がこちらを向く。
「美しき花達よ、これは私からの餞別だ」
おーっ、陛下にお言葉頂いたよっ。これだけで十分なんですけど。ローズさん、失神しそうなんですけど。
てか、渋い、渋い、声が渋いっ。
リチャード三世陛下がローブ姿の男性に指示をする。
すう、と進み出るローブ男性。
「光よ、照らし出せ、毒の足枷に縛られし者達を救い出せ」
あ、これ、光魔法の解毒術だよ。
ドーピングしてもムダにするね。
残念金髪美形のいい顔が浮かぶ。
本当にあの人の人脈どうなってんの?
「エリア・キュア」
広範囲、多数の解毒をする高位魔法だ。このローブ男性、魔法兵団のかなりトップにいる人じゃない?
光が私達に降り注ぐ。
でも、やっぱりマリ先輩の光魔法が暖かいなあ。
キュアなんてかけても、私達には意味ないが、ちらっと見ると。キンキンキラキラ令嬢は憎々しい目で見ている。おい、国王陛下の前だぞ。傭兵達は諦めの表情。
陛下はそんなキンキンキラキラにも穏やかな顔。カッコいい。
ローブ男性が下がり、陛下が前に出る。
「では、各々位置に」
はい。
その声にローズさんが復活。
私は木製の盾、木製は剣を握り直す。
「暴力取り巻き」
キンキンキラキラが苦々しい声で、私に話しかける。
「私は侯爵、お前は男爵、わかっているでしょうねッ」
陛下の眉が羽上がる。
「ええ、存じてますよ。これが国の無形文化財、ウェルダンの『決闘』であることもです」
私は感情の籠らない声で返答する。
キンキンキラキラの顔が更に歪む。
ふんだ。
「位置に」
私はリツさん達に指示する。
私が先頭、すぐ後ろにローズさん。その後ろにリツさんとアーシャ。最後尾にノゾミ。
向こうは前に盾を構えた2人、すぐに後ろに1人、キンキンキラキラともう1人が並ぶ。一番強いのは、盾のすぐ後ろの茶髪の傭兵だろう。
私にはアルフさんのようなパワーはない。私の戦い方は、スピードを生かした戦いだ。
【風魔法 身体強化 発動】
【風魔法 身体強化 発動】
【火魔法 身体強化 発動】
長引けば、後方のリツさん達に危険が迫る。そんな事は私がさせない。
「ルミナス様、1人回してください」
後ろのローズさんが、若干殺気だつ。本当に恐ろしい戦闘メイドだ。頼もしいけど。
私は集中する。魔力を全身に流す。
「ウェルダン『決闘』開始ッ」
リチャード三世陛下の声が響く。
私はそれを合図に飛び出す。
歓声の中で、私は盾を持つ1人と一気に距離を摘める。
「ヒートバッシュッ」
火魔法の盾術炸裂するが、異常な反動が帰ってくる。
向こうも盾術を使っていたのだろうが、反動が異常だ。ウェルダンの女騎士との模擬試合ではなかった反動。こちらの木製の盾が悲鳴をあげる。
おかしい、多分、あの盾、向こうの盾がおかしい。
だが、向こうも後ろに傾く。
私は間髪置かずに、攻撃に入る。グレイキルスパイダーの布が仕込んであるブーツで、力一杯蹴りを入れる。
布と中で、物理防御が最高のグレイキルスパイダーの布。つまり、攻撃に使っても最高の武器なのだ。案の定、向こうの盾が異様な音を立てる。
金属音だ。
木製の武器や盾しか使えないはずなのに、金属音がした。
やっぱり、何かしら仕込んでいる。
『素晴らしいスピードのルミナス嬢っ、相手に反撃の隙を与えないっ』
もう一発蹴りを入れて、盾が宙を舞い、バランスを崩した所を私は木製の剣を振るう。狙いは手首だ。
がつん。
相手は木製の剣を落とす。よし、1人。
「サンダーバッシュッ」
後方のローズさんの盾術が炸裂。盾術最強のサンダーバッシュが。マリ先輩のローズさんはただのメイドじゃないんだよ、最強の戦闘メイドなんだよ。くらくらとした所をローズさんが盾を弾き、叩きのめす。これで2人。
『クレイハートメイドローズっ、何者だあっ、サンダーバッシュなんて初めて見ましたっ、きゃー、痺れますっ』
私は盾の後ろにいた茶髪の傭兵と切り結ぶ。接近戦だ、私は盾を捨てて、反撃の間を与えずに切り結ぶ。相手は動きは悪くないが、遅い、なんせこちらはサーシャでスピードなれてますからね。一撃、二撃、三撃で木製の剣が空に舞う。強めに叩き上げたので、傭兵の顔に苦痛が浮かぶ。これで3人。
「メエメエ~」
とっとこノゾミが飛び出す。
え、ちょっとちょっとちょっと。ノゾミちゃーんっ。
とことこ、とこっ、とこっ、とこっ。
あ、あれ? ノゾミ赤くない?
白い毛並みが赤い色に染まる。
え、まさか? 火魔法の身体強化?
視界の隅で、アーサーがよっしゃ、みたいな感じだ。
今まで見たことのないスピードで走るノゾミ、いや、突進するノゾミ。最後の傭兵は木製の剣を構えるがお構い無しに、突撃する。見事に鳩尾に頭突きをして吹き飛ばす。
『きゃー、ノゾミちゃーんっ』
吹き飛ばされた傭兵に、ノゾミが駆け寄り、すりすりと寄り添う。
魔性の発動。
傭兵はかくかくして、破顔してノゾミにすがりつく。
かーわーいいー、叫んで。
見なかったことにしよう。これで4人。
最後はあれだけ。
キンキンキラキラ令嬢だけ。
「ルミナス様、お願いしますっ」
ローズさんがフォローに入ってくれる。
私は木製の剣を握り締め、構える。
ライドエルの古くからある、陸上戦を得意とする騎士の構え。前世でも散々指導したし、今世では牧師様に叩き込まれた。
一撃、ぶちこんでやる。
「無礼者っ、私を誰だと思っているっ、ナリキンヤ侯爵令嬢よ」
「だから、なんだッ」
身体強化された私は、まともに構えも出来ていないキンキンキラキラ令嬢の手首を強かに打ちのめした。
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