再び決闘②
次の日。
私達は支度を整える。
ローズさんの手により、綺麗にひとまとめになる。武器は指定の木製だが、他の装備品は使用できるのでそのまま。
グレイキルスパイダーのシャツ、カラーシープのレギンス、アダマンタイトとミスリルの極薄の籠手、グレイキルスパイダーの布が仕込まれているブーツ、そしてアルフさんからもらったペンダントに髪止め、装備大丈夫だ。マントは今回なし。
案内人が来て、舞台袖に移動する。
歓声が聞こえる。
「緊張してきました」
アーシャがそう言う。
「偶然ね、私も」
そう私が答えると、アーシャは一瞬止まって笑顔を浮かべる。
「ルナさんでも、緊張するんですね」
「私をなんだと思っているの?」
「別の生き物」
失礼だね。
まあ、それはさておき。
「今回は巻き込んでしまい、申し訳ありません」
私があのキンキンキラキラの『決闘』を受けなければ、こうはならなかった。
「いいのよルナちゃん、あの勘違い令嬢はいずれこちらに難癖つけてきたはずよ。遅かれ早かれね」
リツさんが優しく言ってくれる。
「そうです。私も一発がつんとやりたいですから」
ローズさん、気合い十分。
「私は、恩を返したいです」
アーシャは義理堅く言ってくれる。
「メエメエ~」
ノゾミはかわいい。
有難い。
「ありがとうございます」
歓声が沸き上がる。
向こうが順番に呼ばれている。
「さあ、勝って皆で帰るわよっ」
リツさんが気合いを入れる。
負ける気がしない。
『さて、こちらは先日この『決闘』の主役となった美しきコードウェル嬢が率いる面々だあっ。まずは美少女コンテストで二位を勝ち取ったクリスタムの冒険者アーシャッ。ちなみに子供の部で優勝したミーシャちゃんのお姉さんっ、命の恩人、ルミナス嬢の為に立ち上がりますっ』
「行きます」
アーシャが気合いを入れて木製ナイフを持って舞台に上がる。
『次に美少女コンテスト優勝を飾ったクリスタムの冒険者リツさんっ。大親友マリーフレア嬢の代わりに参戦だあっ』
「じゃあ、行くわね」
男前リツさんは木刀。
『コードウェルの危機に再び立ち上がるクレイハートッ。綺麗な花には刺がある、まさにその通りっ、美しく忠義高きメイドローズッ。そしてマリーフレア嬢のもう一体の従魔っ、カラーシープのプリティノゾミちゃーんっ』
ノゾミの紹介だけ、なんかおかしい。
「ノゾミ、行きますよ」
「メエメエ~」
ローズさんは木製の盾と木製の短めの剣。ノゾミはクレイハートの紋章が刺繍された赤いバンダナ。ローズさんの後ろにノゾミがとっとこ続く。
うわあ、緊張してきた。
『最後に登場するのは、今回、ナリキンヤ侯爵令嬢から、婚約者アルフレッドを差し出すよう要求されたが、断固拒否っ。この『決闘』となりました。そしてあのローグ様が唯一右腕と呼んだ、エルランド・コードウェルの孫娘っ。そしてナービット伯爵からの要求をはね除け、愛しい娘を守り抜いたフレデリック・コードウェルの長女、ルミナス・コードウェルッ』
息を吸う。
大丈夫、大丈夫。私は大丈夫。
『決闘』に勝って、皆で帰るんだ。
私は、ルミナス・コードウェル。
フレデリック・コードウェルとフェガリ・コードウェルは娘。
大丈夫。
息を吸う。
負ける気がしない。
大歓声の中、私はリツさん達と並ぶ。
向こうは、一瞬ふざけているのかと思った。
あのキンキンキラキラ令嬢、金髪を高く結い上げ、光に反射するようなギラギラの宝飾品で飾る。そして、真っ赤な派手に装飾された赤い鎧は、機能性があるとは思えない。指にも耳にもこれまたギラギラのアクセサリー。派手な化粧。なんか勘違いしてない。後は傭兵だとナリミヤ氏からの情報があったが、こちらは控えめ機能性重視だ。常識的な格好。ただ、向こうも眉を寄せてる。
「メエメエ~」
あ、そうでした。我らの癒し担当のノゾミがいました。すみません。ふざけているのかと思って。そうだよねえ、羊毛の為に飼われているカラーシープだし、向こうにしたら、ふざけるなだ。
『華がある、華がありますっ。前回カヂムキ野郎達と違って華がありますっ。きゃー、ノゾミちゃーんっ』
おい、実況。
歓声が上がるが、罵声も飛ぶ。
「引っ込め貧乏男爵っ」
「ナリキンヤ侯爵家にたてつくなっ」
『はい、そこ、止めて頂きましょう。これはウェルダンの誇り高き『決闘』なのです。片方を貶めるような事は控えてください。応援なら結構です。あまり目に余るようなら、ご退場して頂きます』
実況が急にトーンを落としてヤジを飛ばした方にいい放つ。しん、と静まり返る闘技場。
どうん
地鳴りがした。
どうん
地鳴りがした。
顔を上げると、客席の一部から、緑の旗が翻る。
銀色の隼の紋章が彩る旗が翻る。何本も。
え? うちの家紋ですけど。
「「「コードウェルッ」」」
どうん
「「「コードウェルッ」」」
どうん
あ、ウェルダンの鍛治師ギルドの皆さんが、足を踏み、旗を振る。
主賓席でおばあ様がいい顔してる。
「「「うぉぉぉぉぉっ、コードウェルッ」」」
は、は、は、恥ずかしいッ。
ちょっとおばあ様、何をしてくれてんのっ、とんでもなく恥ずかしいんですけどっ。
しん、となった闘技場が一気に活気が戻る。
『盛り上がってまいりましたっ。これこそがウェルダンの誇り高き『決闘』に相応しいっ。どんどんやっちゃってくださいっ。きゃー、ノゾミちゃーん、頑張ってーっ』
おい、実況。
ノゾミはボンボンのついた尻尾を高速で振ってる。
それで、私は少し冷静になった。
私は主賓席を見上げる。
2週間前に私が晒し者のように座った椅子に、全身鎧のアルフさんが座り、左右をフル装備のマルコフさん、イスハーン殿下ががっちりガード。
お父様、お母様、エリック、ジェシカもいる。
もう、アルフレッド君はうちの家族だからと、お父様はあそこに座ってくれた。あそこは身内しか座れないからだ。すごく、嬉しかった。私以上にアルフさんは嬉しそうな顔していた。
アルフさんは優しい目で私を見ている。
クレイハートの貴賓席では淡い黄色のドレスを纏ったマリ先輩。アーサーはサーシャ、リーフ、バーン、イレイサー、バラックがスーツ姿でいる。ミーシャはブラウスとスカートだ。
更なる大歓声が上がる。
ショウが白い翼を広げて旋回し、クレイハートの貴賓席近くに着陸したのだ。
確か、クレイハートの紋章は鷲のはず。
鷲の体を持つグリフォンのショウは、正にクレイハートの旗印だ。
皆で帰るんだ。
大丈夫、私は大丈夫。
絶対に負けない。
違う、負ける気がしない。
『では、今回の審判、見届け人ッ。お呼びしてよろしいのでしょうかっ。ライドエル国王、リチャード三世陛下ーっ』
私は、噴き出した。
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