再び決闘①
いざ。
パワーレベリングを終えて、簡易転位陣で戻る。やはり簡易のためか、戻って来たら、魔法陣があちこち綻び、使い物にならなくなる。
おばあ様が笑顔で出迎えてくれる。父は一旦領に戻って、決闘前日にウェルダンに来る。お母様とジェシカが残っていた。
ナリミヤ氏は明日はどこかの誰かと会談があるからと、ワープで去っていった。誰か、何て聞かない。
一旦休憩してから客用の居間に集合。
おばあ様がウェルダン特産の赤オレンジのタルトを出してくれる。鮮やかな色でリツさんとマリ先輩の目が輝く。大量購入するつもりだろうなあ。
ローズさんとリーフが手分けして、お茶やコーヒーを淹れてくれる。
おばあ様がローズさんのお茶に感心しながら、話を始める。
「実はナリキンヤ侯爵から使者が来ました」
なんだ?
おばあ様で表情は穏やかだけど、目は笑ってない。
「トウラの鍛冶師ギルドは、アルフレッド様は除籍にし、ナリキンヤ侯爵直属になるようにと言付かったと」
「嘘だな」
ばっさりアルフさん。
バルハさんやおじいちゃんドワーフダビデさんが、アルフさんを手放す分けない。しかも、鍛冶師ギルドからの人が来ないのはおかしい。怪しい。怪しすぎる。
「ええ、私もそう思いまして、お帰りいただきましたわ。しかも、『決闘』を向こうの不戦勝にしろと言って来まして」
「前歯、全部へし折ってやります」
向こうからぶっかけておいて。
「もちろん、お断りしましたわ」
ほほほ、とおばあ様。
ウェルダンの決闘は、国の無形文化財なのだ。開催の権限はウェルダン辺境伯が持っているが。ライドエルの学園の試合と一緒だ。それはウェルダンの誇りなのだ。それを夜会で、あんな風に吹っ掛けて来て、不戦勝にしろとか、あり得ない。
「向こうはどうやら傭兵を雇うようよ。ルミナス、抜かりないわね?」
「はい、おばあ様」
きりっ。
「ルナちゃん、付いてるわよ」
リツさんが口元を拭いてくれる。
「明後日、こちらが闘技場を使えるから、模擬試合をする手配をしています」
「はい、おばあ様」
相手はウェルダンの女騎士隊だ。
次の日、ゆっくり過ごす。
午前中は戦闘訓練し、午後からお母様とジェシカとのんびり過ごす。リツさんがミックスジュースを作ってくれた。いただきます、きりっ
「とっても美味しい、ジェシカ、姉様のとこに行く」
「こらジェシカ」
分かるよジェシカ。リツさんの作るご飯なんでも美味しいもん。
私のこれまでの話をしながら過ごす。お母様はひきつっていたけどね。ジェシカは楽しそうに聞いてくれた。
模擬試合の日。
不安の残る結果となった。
「メエメエ~」
ノゾミが可愛く鳴いて、女騎士は混乱している。
「これを攻撃できませんっ」
魔性の羊は変わらず魔性だ。
陥落した女騎士がノゾミを抱き締めて、怒られてる。
お姫様抱っこしてくれた騎士が怒ってる。
「ルミナス嬢とローズさんは問題はありません。リツさんとアーシャさんも問題はありません。問題は」
「メエメエ~」
ですよねえ。
もう一試合した。
「ノゾミ、頑張ってっ」
マリ先輩のエールが飛ぶ。
「メエメエ~」
とことこ走るノゾミ。とことこ、とことこ。
お花が飛ぶ。お花が飛ぶ。お花が飛ぶ。
アーサーがマリ先輩の横で頭抱えてる。
アルフさんとサーシャが遠目。リーフとミーシャ、応援に徹してる。イスハーン殿下とマルコフさん達は直視してない。ジェイドさんはウェルダンの屋敷に待機してる。
「ノゾミは戦力外で」
「はい、ルミナス様」
私とローズさんがこそこそ話す。
私が前線に立ち、ローズさんが後ろ。その後方でリツさん、アーシャ。最後尾がノゾミだ。私が全部蹴散らせばいいし。
「しかし、ルミナス嬢、お強いですね。本当にスカウトが出来ず残念です」
お姫様抱っこしてくれた女騎士がしみじみと言ってくれた。この人が女騎士の隊長さん。
「さすがフェガリ先輩のご息女ですね」
「私は、母に似たのでしょう」
お母様はウェルダンの騎士隊に所属していたが、色々あってルイースおばあ様の護衛する為に戦闘メイドに。そこをお父様が見初めたのだ。
隊長さんは、お母様が指導した最後の後輩。
私を見る目が、たまに懐かしさを含んでる。
「ジェシカはダメですよ」
先に釘を刺す。
ち、と舌打ちする女騎士。
ダメよ、ジェシカは戦闘には向きません。
「メエメエ~」
ノゾミが女騎士達に愛でられてる。
本当に大丈夫かなあ?
その後、アーサーが目の下に隈を作るまで悩んでた。
そんなこんなで数日経過。
前日に闘技場の控え室に入る。
「大丈夫かルナ」
「はい」
「ルミナス、本当に大丈夫なのよね?」
「はい、問題ございません」
心配そうなアルフさんやお母様に見送られて、ショウの牽く馬車で闘技場に。
闘技場に管理している職員さんが案内してくれる。
広目の部屋。奥に寝室とトイレ、シャワーブースあり。
「メエメエ~」
ノゾミは楽しそうに控え室を探検してる。
「ルナちゃん、大丈夫かしら?」
リツさんが心配そうだが、私が答える。アーシャも同じ顔。
「問題ありせんよ」
問題なのは。
「メエメエ~」
とっとこ、とっとこ、とっとこ。
「メエメエ~」
ん?
ノゾミの背中に蜘蛛がいる。
「あら、ナリミヤ先輩からのお手紙」
小さな蜘蛛が、リツさんにこれまた小さな手紙を渡す。脚を振って、窓から出ていく蜘蛛。
控え室のテーブルに手紙を広げるリツさん。
ローズさんがいつもと変わらずお茶を淹れてくれる。リツさんがクッキーを出してくれる。
いただきます、きりっ
「やっぱり、向こうは傭兵を雇って、ドーピングするみたいね。レベル的には皆ルナちゃんやローズさんより低いけど、気をつけてって」
やっぱり。
「ちなみにあの令嬢は、欠片も問題ないそうよ。レベル一桁だって」
うん、一般人だ。
あら、あの人、あのウヌスの孫だとか言ってたくせに。レベル一桁なの?
「ただね、ドーピングする事があるから。問題はそれね」
「全部、ひっくるめて薙ぎ倒します」
リツさんやアーシャの出る幕ないよ、ぱくぱく。
「まあ、ナリミヤ先輩が手を打ってくれるそうだけど」
ナリミヤ氏は先程戻って、蜘蛛を使って手紙を寄越したようだ。
まあ、ご協力頂けるならお任せしましょう。
きっと、あの屋敷での事をまだ責任感じているんだろう。もう、いいのに。
作戦は変わらない。
「とにかく、私が前に出ます」
「私がその後に続きます」
ローズさんが続く。
で、問題は。
「メエメエ~」
まあ、どうにかなるでしょう。
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