救出⑥
家
馬車に乗る際にジェヤード様の怪我発覚。足を噛まれていたようで、リツさんとマリ先輩が慌てて治療している。
妊婦に優しいエルフのリーフは、せっせとお世話に入ってる。
「ルミナス嬢、皆さん、本当にありがとうございます」
馬車の中で、ジェヤード様が、ミアさんと深く感謝してきた。
「あの、ジェヤード様」
私はとりあえず聞きたかった事を聞いてみる。
「これで、良かったのですよね?」
「はい、ルミナス嬢」
ジェヤード様が少し晴れやかな顔だ。
「元々、私はダイダン様の件が済んだら、家を除籍してミヤと一緒になる予定でした」
無理やり家の都合で、騎士を辞めさせられたから、条件を着けたそうだ。それが、家からの除籍、ミヤさんとの結婚だ。あのダイダンはその案には賛成していて、結婚式は呼んでくれ、式場を花で飾るからと言ってくれたそうだ。だが、あのキンキンキラキラのせいで人格がおかしくなってた。ダイダンは強くキンキンキラキラの影響下にいたようだ。
ジェヤード様の家は、子爵だと。
「私は、あの家が嫌いでした。古いだけの、忌まわしい慣習にしがみつき、それを誇りだと信じている、あの家が」
古い慣習。
バインヘルツの悪習だ。
爵位のある家は、次男はスペアとして生まれてすぐに片耳の一部カット。そして三男以降の男児は家督騒動の火種になると、生まれてすぐに始末される。女児は他家に嫁ぐために残されるが。
そう、忌まわしい悪習だ。
だから、ジェヤード様には、兄以外の男兄弟はいないって言ったのだ。
ただ、ずいぶん前から、改善しようという動きがあって、ほぼ、なくなっているはずなのに。隣国の私でも知ってるよ。今のバインヘルツの王家には何人も王子様いるのに。
「あの家は、伝統を守っていると、思い違いしています。それなのに、三男以降は生まれたらどうするか分かっているはずなのに、父はメイドに手を出しては、妊娠させていました」
それがどんな結末を辿ったか、ジェヤード様は語らないが、表情を見ただけで分かった。
「それが嫌でなりませんでした。だから、私は、ミアと生きて行ければ国を出るのはためらいはないのです。それに私はバインヘルツでは目立ちますから」
ジェヤード様は黒狼。狼系の獣人ではかなり数の少ない種族だそうだ。
狼系はほとんどはララのような茶髪で地狼が半数以上を占め。次に赤毛の赤狼、金髪の金狼、次に少ないのはサーシャ達三兄妹の銀狼、白髪の白狼。さらに少ないのがジェヤード様の黒狼だ。黒狼は本当に少なくて、数万人に一人もいない。バインヘルツの騎士団にジェヤード様以外もう一人しかいない。しかも、ジェヤード様は今時やらない、スペアとして片耳が欠けている。バインヘルツにいたら、一発でばれる。ちなみに猫系には、黒髪は珍しくない。
「では、ジェヤードさん、これからどうされます?」
リツさんが聞いている。
あら、この流れは?
「何とか働き口を探します。ミアと子供を養わなくてはなりませんし」
「そうですか。なら、地盤を整えるまで、クリスタムの我が家に来ません?」
やっぱりそうなりますか。
多分、感じていたのか、皆、ああ、やっぱりみたいな顔だ。
ジェヤード様とミアさんが顔を見合わせる。
「そこまでご厚意に甘えるわけには」
「でも、ライドエルなら見つかりますよ」
「それは、そうかもしれませんが」
「彼女、初産でしょう? うちには出産経験のあるメイドさんがいます。きっと力になってくれますよ」
ホリィさんね。
「出産して落ち着いてから、新居を探せばいいですよ、ね」
リツさんは押しの強い笑顔。
結局、トウラのリツ邸に来ることに。
それから、ある程度進んで、暗くなり、夜営のためにナリミヤ印の結界道具を広げる。
夕御飯を済ませた後に、ジェヤード様とサーシャが少し離れて話をしていた。何を話していたか、分からないけど、サーシャはすっきりした顔をしていた。
次の日。
ウェルダンの外壁付近にショウの馬車を止める。
「確か、この辺…………あ、あった」
私は大きな木のうろの中に隠された蓋を見つける。
これはウェルダンの屋敷に通じる秘密の通路だ。
おばあ様に、昔教えてもらっていた。なんで、私に教えていたかは、なんと私の貰い手が成人してもなければ、ロジャー様と結婚させようと思っていたそうだ。知らなかった。まあ、ほら、私にはさ、ほら、アルフさんがね、アルフさんがいるからね、は、は、恥ずかしい、嬉しい。
こん、こん、こん、と三回ノックする。
しばらくして、蓋が空く。
「お待ちしておりました」
顔を出したのは、ウェルダンの女騎士だ。私をお姫様だっこしてくれた人。
「ここは梯子になっております。足元におきをつけてください」
問題発生。
ショウが入らない。翼が引っ掛かるので、仕方なく暗くなってから、ショウだけ飛んでウェルダンの屋敷に戻ることに。
ちなみにアルフさんやマルコフさんが詰まらないか心配だった。
「ショウと残る」
「なりません。ショウなら少々の事なら対応できます。ショウも一人で飛ぶ方が身軽でいいはずです」
マリ先輩がショウと残って、一緒に帰ると訴えたが、ローズさんが説得している。しぶしぶ、マリ先輩は梯子に。
「ショウ、気を付けるのよ」
「ぴぃっ」
賢いなあ。ノゾミはアルフさんの肩、いや頭に乗って降りる。
「お、重い………」
「メエメエ~」
アルフさんの首、大丈夫かな? ノゾミはボンボンのついた尻尾振って怖がらない。
それから妊婦のミアさんをフォローしながら、降りて、地下道を進み、やっとウェルダンの屋敷に。
「ルミナス、皆さん、ご無事でなにより」
おばあ様やお父様が、待ってくれていた。
「ルミナス、大丈夫か? ジェヤード様、ご無事でなりよりです」
「コードウェル様、ありがとうございます」
緊張の連続だったろうミアさんを休ませる。ジェヤード様がミヤさんに付き添う。私達は客室用の居間に集合。
「さて、ジェヤードさん達はどうにかなったわね。後は『決闘』の為に訓練しないと」
リツさんがお悩みモード。
ローズさんとリーフがお茶を出してくれる。マリ先輩はパウンドケーキだ。プレーン、紅茶、マダル芋、コーヒー、チョコ、オレンジ、レモンだ。私はまず、チョコ味と。
「向こうはきっと何かしらしてくるわ」
「でしょうね、でも、問題ありません、蹴散らします」
心配するリツさんに、私は答える。
「しかし、もしあんなドーピングしてきたら、大変だぞ。一人で他を守りながらは」
マルコフさんがコーヒーを傾けながら言う。お皿にはレモンパウンドケーキ。
「私は戦えます」
ローズさんが、きり、と答えてる。確かにパーティーの中で、女子の戦闘力は私に継ぐ。下手な新人騎士では歯が立たないだろう。大事そうにローズさんのお茶を飲んでいた、イスハーン殿下が惚れ惚れと見ている。
「だがなあ、問題は」
アルフさんが、ちらり、と見る。
せっせとマダル芋のパウンドケーキを食べてるノゾミ。
「大丈夫ですよ、ノゾミだって、走れますし」
とっとこね。かわいいんだよ、これが。
「あ、そうだアーサー君、ノゾミに火魔法の身体強化教えてくれない?」
「え? ノゾミにですか?」
紅茶パウンドケーキを食べていたアーサーが、驚いた顔をする。
「ショウだって出来るし、きっとノゾミだって出来るわ」
そりゃショウはグリフォンですからね。取り分けショウは賢いし、グリフォン自身が魔法を操る種族だから、できるだけで、ノゾミはちょっと無理じゃない? ファイヤーボールを飛ばすくらいがやっとのはず。だけど、マリ先輩の期待に満ちた目で見られてアーサーは、えーっと、と考え込む。
「ねえ、アーサー君、どうにかならないかしら?」
「お任せください、リツ様」
リツさんの鶴の一声で、アーサーは即答する。
「アーサー君って、案外、単純、あいたたたっ」
バーンがポツリ。
多分隣のマルコフさんが、バーンの足をギリギリ踏んでる。
ノゾミのアーサーによる魔法指導が決まった。
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