救出⑤
「リーフッ、急いでッ」
「これがフルスピードだよっ」
空飛ぶ板がスピードを上げるが、距離がありすぎる。リーフは長く飛べるがスピードが出せない。サーシャはリーフよりかなり早くスピード出せるが、そうすると長く飛べない。
「あ、アーサーとサーシャが合流したよッ」
小さいけど、多分、あれかな? スコープのあるリーフには見えているようだ。
だが、他にも小さくうごめくものが馬車に向かって集まっている。
「リザードだッ」
「リーフッ、急いでッ」
「分かってるってッ」
少しずつ姿がはっきりしてきた。土の壁が盛り上がり、リザードの進行を防いでいる。アーサーの魔法だ。
リザードの数、多い。多すぎる。
土の壁を削りながら進むリザード達に、馬車の上に陣取ったサーシャが矢を放つ。
長い黒髪を翻して、ジェヤード様も剣をふるっている。リザードの首がスパスパ飛んでる。
「ルナっちッ」
「了解ッ」
私は仕込みの籠手に魔力を流す。左手でリーフに捕まり、右手は二代目を抜く。
【風魔法 身体強化 発動】
【火魔法 身体強化 発動】
【火魔法 武器強化 発動】
リーフがスピードを落とす。
タイミングを見計らい、私は飛び降りる。ジェヤード様の近くに着地、魔力を操り衝撃残刃を放つ。リザードが切り裂かれて行く。
「ルミナス嬢ッ」
「ご無事ですか?」
「なんとか」
奇妙な匂いを充満するなかで、私はジェヤード様と並んで剣を振るう。馬車の上には、サーシャが降りてリーフが代わりに矢を放つ。
近くの岩場から、リザードが出てくる。灰色がかったリザードの中に赤茶けたリザードが飛び出してくる。一匹ではない、何匹も何匹も出てくる。
「ジェヤード様、後ろにッ」
私は籠手からナリミヤ印のラウンドシールドを構える。
一斉に放たれる炎のブレスを、さすがナリミヤ印ラウンドシールドは守ってくれる。だけど、すごい熱量ッ。
リーフが悲鳴を上げて、馬車から転がり落ちる。
「リーフッ」
「だ、大丈夫だよッ」
ブレスが収まり、ジェヤード様が私の後ろから飛び出していく。滑らかな動きで、次々にリザードの首と跳ね、滑り込ませるように剣先を突き立てていく。素晴らしい動きだ。獣人特有に身体能力が高い戦い方だ。
負けてられない。
私は二代目を握りしめ、リザードを首を跳ねていく。
「ピイイィィィィッ」
ショウの鋭い声が響く。
視界の中で、空飛ぶ馬車を引いて低空飛行で爆走するショウの姿が入る。
ショウがスピードを落とすと、馭者台のマリ先輩がショウと馬車を繋ぐ装具を外す。途端に空に舞い上がるショウ。次々に不可視の刃を放つ。
馬車からフル装備の面々が飛び出してくる。
最後にノゾミが飛び出して、リツさんがアイテムボックスに馬車を入れる。
「アースランスッ」
「アースランスッ」
「サンダーランスッ」
アルフさん、マリ先輩、ローズさんの魔法がリザードを吹き飛ばす。
「マリちゃん、魔物寄せをまず浄化するわよッ」
「了解ッ」
リツさんがマリ先輩と匂いの原因に、浄化を開始する。
アルフさんとマルコフさんが、リザードを蹴散らして私達の元に。
「ルナッ、無事かッ」
「はいっ」
馬車を挟んで、向こう側にアーサー達が展開している。そちらにはマルコフさん達『ハーベの光』が向かっている。
浄化作業しているリツさんとマリ先輩にはローズさんとリーフが守る。
一気に戦力が増加して、リザード達の数は減ってきたが、リザード以外の魔物まで集まりだした。ウサギ系に、蛇系に、鼻息荒いゴブリンまで。
ウサギと蛇はきっとリツさんやマリ先輩が美味しくしてくれる。
すべて行きます、きりっ。
次々に二代目で切り裂いていく。
近くで初めてイスハーン殿下の実戦を見たが、盾で弾き、剣を叩きつける。動きに無駄はなく、前に出すぎることもなく、アルフさんとの位置を保ちながら展開している。
ショウは旋回しながら、不可視の刃を飛ばし、次々にリザードを真っ二つにしている。
アルフさんは魔法を駆使し、リザードや角ウサギ、蛇を後退させながら、十文字槍を振り回す。
途中からのそのそ、とトロールやギガンデスが来たが、アルフさんがアースランスで足止めし、私とジェヤード様が追撃していく。
私は二代目でトロールの首はざっくり斬り、ジェヤード様はギガンデスの目に、剣先を滑り込ませる。一撃だよ、ギガンデス、一撃。
ん?
あれ?
ジェヤード様の目、なんかおかしい。白く光っている。
あとで聞いてみよう。
私は鼻息荒いゴブリンを、切り裂いていった。
魔物寄せの浄化後、リツさん達も援護に回って、リザードやウサギや蛇を仕留めていく。
「ルナ、怪我は?」
「ありません、大丈夫です」
兜をしまったアルフさんが心配そうに聞いてくれる。嬉しい。
ジェヤード様はその場で座り込み、肩で息をしている。
「大丈夫ですか?」
リツさんが水を渡す。
「あ、ありがとうございます、はあ、情けない、久しぶりの実戦で。体力が、なくなってますね」
いや、十分すごいよ、ジェヤード様。
剣劇凄かったもん。
そこに馬車から、あのメイドさんが真っ青な顔で降りてくる。二十代後半の、緑かがった黒髪のきれいな人だ。
「ミア」
「ジェヤード様っ」
メイドさん、ミヤさんがジェヤード様に駆け寄る。
「怪我は?」
「ありません、ありません、私は大丈夫です」
ああ、ジェヤード様がミヤさんを見る目、アルフさんが私を優しく見守ってくれる目と一緒だ。
アーサーやマルコフさん達も無事だ。
「皆さん、本当に助けていただきありがとうございます」
ジェヤード様が立ち上がり、ミヤさんの手を取りながら頭を下げる。
「いいんですよ、さあ、偽装して急いで離れましょう」
リツさんの指示で慌ただしく動く。
まず、ジェヤード様やミアさんの服の一部を千切って、リザードの血で染めてそこらに放置。食べられた設定です。一部のウサギや蛇はいただきます。ジェヤード達の馬車を半壊して火をつける。最後に、ジェヤード様は自分の剣を鞘ごと、投げ捨てる。愛着のある剣だが、これが残っていたら、きっとジェヤード様は死んだと思われる。飾り付けの小さな石だけ取り外して、ジェヤード様は燃え上がる馬車近くに、剣を投げた。
「さあ、行きましょう」
リツさんがアイテムボックスから馬車を出す。ジェヤード様もメイドさんもびっくり。そうだよねえ。わかるよ。普通の許容量じゃないしねえ。当たり前になってるけど、これ、レアスキルなのよねえ。
ショウに馬具を繋ぎ、低空飛行で発進した。
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