救出②
内容、不愉快かもしれません。ご注意を。
ライドエル 花の物語
自分に自信の持てない侯爵令嬢のビーナス・ナリキンヤの物語。
彼女はライドエル国立学園に入学後、さまざまな人たちの応援を受けて、美しい女性として成長する。元々女神の再来とも称えられた美貌を持つビーナスは、数多くが男性に求められ、なしくずし的に関係を持つ。中には独身者もいれば、婚約者もいれば、妻帯者もいる。だが、ひとたびビーナスが微笑みを浮かべると、自分の全てを差し出すて尽くすのだ。全てを差し出して、すっからかんになっても、彼らはビーナスをささえ続ける。そんな彼らの支えで傾きかけた侯爵家は立て直していく。18禁のマンガだ。
初めは自分がビーナスだと気づかないが、ある日、ふと自分があのビーナスだと気づいた。マンガの中の中のビーナスだ。元の自分は分からないが、妙な知識があった。高価だ、最新式だ、便利だと言われる魔道具も、なんの抵抗なく使えていたのはその知識があったからだった。
わざわざ、学園に入るまでうつむいていては損。ビーナスは己の美しさを確認し歓喜した。まず、回りを確認した。
母は弟を出産後死亡。どこかの有力金持ち伯爵の令嬢だったが、小うるさい女だった。とにかく細かい女で、カップを持つ動作でさえ口を出していた。父は平凡な顔の男だ。祖父はすでに死亡。そして祖母だ。この祖母が凄い人物で、先代国王の腹違いの妹姫。ナリキンヤ侯爵に降嫁したため、王位継承権を放棄したが、実に優秀。国王学園でも最高の成績を打ち立て、学生の身分で騎士位を得たのだ。長いライドエルの歴史史上、祖母しかなし得ていない偉業だ。まさにマンガの内容と一緒だ。
そうなれば、後は学園で自分の虜になる男達の確認だ。
自分はビーナスになったのだ、これを利用しないてはないし、いずれ自分のものだ。こちらから接触して手っ取り早く手に入れたい。ナリキンヤ侯爵の財政な芳しくなったからだ。クレイハートとの裁判で敗訴し、多額の賠償金を支払い底をつきかけていた。
まず、バインヘルツはさすがに隣国で、幼い自分が言い出したら怪しまれるために控えた。だが、他の主要な登場人物は存在した。ライドエル王子のルートビッヒ、宰相の次男ジェイムズ、罪人騎士ローグの甥、ロジャー。
だが、そこで誤差のようなものが発生していた。全員同学年の筈が、ジェイムズ以外は上級生。
まあ、それは仕方ないと、理解した。所詮マンガの設定だ。どうにでもなる。
次に確認したのは、自分の美貌がどれだけ通じるかだ。小手調べに、ナリキンヤ侯爵に出入りしていた商人達や家庭教師達だ。商人達はあっさり陥落し、高価な品々をタダで差出した。少し優雅に微笑むと、簡単に膝をついた。家庭教師は半数は落ちたが、半数は効かない。その効かない半数は女性家庭教師だ。きっと自分の美貌に、醜く嫉妬しているのだと解釈した。貢がせた品や、不動産でナリキンヤ侯爵の財政は回復。父はいい顔しないが、祖母は褒め称えた。
流石、我がウヌスの孫。これならば、どんな者でも欲しがるでしょう。あの鼻持ちならない、ライドエル王家でも。
そう、私は王妃になれるかも。そう思ったが、王妃になれば、学ばなくてはならない事が多く、自由がない。なら、狙うはジェイムズかロジャーだ。二人とも決まった婚約者はいない。なら、チャンスは学園でいくらでもある。
待ちに待った学園入学式、代表して挨拶をしたジェイムズを見て、直感した。
こいつ、だ。まさに自分の理想の男だ。
すぐに接触しようとしたが、邪魔ものがいた。
マリーフレア・クレイハート。
マンガの中にもいた、成金伯爵令嬢。ビーナスに嫌がらせをし、最後には犯罪紛いな事をしかけて、家族ともども処刑される悪役令嬢だ。マンガ中では、二段顎で、腫れぼったい目の不細工な令嬢だった。だが、まずまずの顔立ちのマリーフレアは、常にジェイムズを独占。地味な格好の令嬢に、何故かジェイムズはぞっこん。そして自分に嫌がらせ一つもせず、静かに過ごしていた。成績もトップクラス、優しい人柄で、評判は悪くない。おかしい、何かおかしい。そして常にマリーフレアを守り暴力だけが取り柄の取り巻きもいない。その取り巻きは途中で退場予定だった。領の橋が燃えて借金の肩に、武術大会で戦ったナービット伯爵子息が仕方なく引き取った。その子供、そのナービット伯爵子息と正妻との子供が、王座に着くための尖兵となる、とたった一行書かれていた。マリーフレアだって悪評のために孤立し、処刑台行きなのに、楽しそうに過ごしている。だが、向こうが来ないならこちらがいくだけだ。自分に心酔している取り巻きを使い嫌がらせをしていたが、ふいに、マリーフレアは学園から姿を消した。コラステッド病で、療養に入った。ただ、すでに学園卒業の単位があるために飛び級で卒業したと。
やっと、片付いた。
それでもジェイムズの心はこちらに振り向かない。マリーフレアに想いを寄せていたし、宰相であり、父親のクレイハートの財力を惜しんだのだ。
あれこれ、裏工作した。マリーフレアの悪評を流し、あちこちから貢がせ、やっとやっと婚約者に。
その間も様々な男を崩落した。ナービット伯爵子息には、小うるさい従者が帰国している間に接触。暴力だけが取り柄の取り巻きを手に入れるように吹き込んだ。だが、あの従者も気になる。小うるさいが顔立ちの整っていて、侍らせるにも見映えがいい。何より希少な黒狼だからだ。だが、この従者は一切誘いに乗らなかった。自分の魅力の分からないが特殊性癖なのだろう。だが、その取り巻きはマリーフレアと同時期に学園を中退していたのを知ったのは、ずいぶん後のだった。
王子に関しては、接触する前に飛び級で卒業されてしまった。そしてロジャーだ。罪人騎士ローグのせいで片身の狭い想いをしていると、マンガの設定だったが、はっきりと拒絶された。ロジャーはローグを尊敬していたし、何より叔父ではない、大叔父になるのだ。そんなことも知らないで、話しかけたのかと、軽蔑され、それっきりだ。
ジェイムズも婚約者になった自分には、決して心を開かない。
自分を婚約者にしたのは、お互いの母親が親友だったため。最後にビーナスの母親が、ジェイムズの母親に頼んでいたこと、マリーフレアが回復しない為、仕方なく自分を選んだと。
ビーナスの小うるさい母親は、淑女の鏡と歌われた令嬢だった。だから、娘であるビーナスにもそれを伝えているはずと思っていたと。
これは家同士の打算的な結婚だ、私の心はお前にはない。そう吐き捨てられて、ビーナスは激怒したが、婚約破棄すると癪だ。ならば一生付きまとってやる。
そんな中、ウィルダンの春祭りの招待状が父親に来た。出不精気味の父親に変わり、気晴らしに来てみたら、マリーフレアがいた。
なんて美しいのかしら。
マーガレット様によく似ていらっしゃる。
コラステッド病も完治されたそうだ。
まだ、婚約者、いらっしゃらないそうだ。
人々の噂が耳についた。腹のそこから苛立ちが沸き上がる。
イライラしながら、従者やメイドに当たり散らす。
そして、『決闘』が始まってあの途中退場予定の暴力取り巻きが景品だ。ずいぶん無理して準備したのだろう。崩落したはずのナービット伯爵子息が、要求したようで、相談に来たためナリキンヤ侯爵専属の薬剤師にドーピングを作らせて渡した。結果など、どうでもいい。ビーナスの中ではすでに終わったことだ。
背丈のあるハーフドワーフの鍛治師に求婚された、哀れな暴力取り巻き。いい様だ。平民に落ちて地面を這いずって生きろ。
マリーフレアがテイマーで戻って来たと聞いたときは笑ったが、グリフォンが出てきた時は、さすがに驚いた。だが、所詮魔物だ。汚らわしい魔物だと割りきる。
『決闘』を鼻で笑って見ていたが、執事が耳元で囁いた。
あの鍛治師、金になります。あの鎧はアダマンタイト、あれだけの物を扱えるのはそうはいない。あの鍛治師を引き入れることが出来れば、かなりの金蔓になる。
それを聞いて、結果を見て、すぐに退席。自分を最大限に美しく着飾り、『決闘』後の夜会に出席。
侯爵専属となれば、誇り高いことだ、それに私が微笑めば、男は膝をつく。あの鍛治師は見た目の悪くない、あの鎧を着せて侍らせれば、見映えがいい。それにナービット伯爵子息の従者そっくりの銀狼の青年も手に入れたい。あれだけ似ているのだ、きっと兄妹なのだろう。銀狼は年齢的に弟だ、弟が手に入れたら、兄の黒狼も芋づる式で手に入るはず。あの鍛治師には配下の爵位を持つ適当な女を宛がえばいい。あの暴力取り巻きよりはましだ、私がいえばあの取り巻きを捨てるだろう。ざまあみろ。貧乏のくせに、男達に『決闘』までさせておいて、平民を選んだバカな取り巻き。鍛治師にあっけなく捨てられるのがお似合いだ。所詮は、モブなんだから。
ビーナスは自信満々に夜会の会場に入った。
「で、あの騒動だよ」
と、ナリミヤ氏が、クラブサンドイッチを食べながら、纏めた情報を話してくれた。
私達は開いた口が塞がらなかった。
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