救出①
作戦?
ドレスを脱いで、楽ないつもの格好になる。
両親に今後の話をするからと、あてがわれていた客室から、皆か集まる別の客用の居間で集合。
ローズさんとリーフがお茶を淹れてくれる。うん、安定の美味しさ。自然にイスハーン殿下もいます。
「大変な事になったね」
話を聞いてバーンが言う。
「負けるつもりありませんよ。ぶん殴ります」
歯、折ってやる。前歯、全部折ってやる。
アルフさんをもののようにあつかった事、マリ先輩やおばあ様、イスハーン殿下に失礼な態度だった事。そしてコラステッド病で苦しんでいる病達にたいしてのあの言葉。絶対に許せない。
でもその前に。
「あのローズさん、いいんですか?」
「構いません、私もあのご令嬢には思うところがございますから」
ローズさんにしたら、大事なマリ先輩をあんなに言われて、何よりあることないこと言いふらしていたから、許せないのだろう。
「アーシャも」
「はい、大丈夫です」
「リツさん」
「ふふふ、任せてルナちゃん」
後は、部屋の隅でクッションで丸くなってるノゾミ。
「あの、マリ先輩、本当に大丈夫ですか?」
「ふふふ、大丈夫よ」
まあ、私が向こうを全部ぶちのめせばいい。
とにかくあのキンキンキラキラを許せない。
「さて新たな『決闘』もそうだけど、あのジェヤードさん達の救出もしないと」
リツさんの言葉で思い出す。そうだサーシャそっくりジェヤード様。
「とにかくナリミヤ先輩の情報待ちね」
マルコフさん達は2週間後の『決闘』まで、付き合ってくれると。
で、イスハーン殿下は。
「この騒動が収まるのを見届けなくては、国には帰れん」
ですと。お国は大丈夫ですかね?
「父上からそう言われている」
そうですか。あら、アルフさんが頭抱えてる。
明日から私、リツさん、ローズさん、アーシャを主体とした戦闘訓練が行われることに。ノゾミは、まあ、どうにかしましょう。
それからお開きになった。リツさんの携帯電話に連絡があり、明日の朝までに情報を纏めるからと。
それぞれ部屋に引き上げていく時に、私はアルフさんを引き留めた。
「どうした?」
「あの、色々すみません。変な事になってしまって」
「なんだ、反省しとるのか?」
「そりゃそうですよ」
私をなんだと。アルフさんを『決闘』にかけてしまった。あの時頭に血が上っていたけど、アルフさんの了承はなかった。勝手に私が受けてしまったのだ。申し訳ない。
ふいに、アルフさんが私の顔を覗き込む。
「う」
綺麗なオッドアイに、私の間抜けな顔が映りこんでいる。
ちょいちょい、とアルフさんは自分の頬をつつく。う、意図はわかりましたけど。
私は回りに誰もいないのを確認して、背伸びして、アルフさんの頬にキス。そっと、抱き締めてくれる。あ、嬉しい。恥ずかしい。すごく安心する。
「あの、アルフさん」
「なんだ?」
「勝ってくれて、ありがとうございます」
ちゃんと言えてなかったから。
あの瞬間の沸き上がる嬉しさを思い出すと、胸が温かくなる。
「当たり前だろう」
アルフさんは息を吐き出すように言う。アルフさんの熱い息が首にかかる。ドキドキする。
「なあ、ルナ」
「はい」
「やっと、婚約だ」
「はい」
ここまでが長かった。
「早く」
抱き締めてくれる腕に力が入る。
「早く、お前と結婚したい」
意味は、分かる。分かるよ。いつかそうなるって、思っている。私はアルフさんの服を咄嗟に握り締める。
「地竜の咆哮が終わるまで、我慢する自信がないな」
耳元で言われて、私は全身の血が沸騰する。
「そ、そこは頑張ってください」
「はは、なら、今はこれで我慢するか」
そう言って、アルフさんがキスをしてくれた。いつもより、ちょっと長くて、深めに、優しく。
私は嬉しいのと、恥ずかしいのと、ごちゃごちゃで、パンク寸前で必死に意識を保った。
その日、私は夢を見た。
前世で私を育ててくたシスターが、ニコニコして立っていた。右手を繋いでいるのは、孤児の中でも体の弱かった子。その子も笑っていた。
あれ? 他の子は? 牧師様は?
足、動かない。
疑問が沸き起こる。そこに、私の横を背が高い女性が歩いていく。少し癖のある赤髪、高い背、ああ、あれ、私だ。
変だ、私はここにいるのに、歩いていく背中を見ている。
なんで?
シスターは近づいた前世の私に左手を伸ばす。
そして、三人は手を繋いだまま、私に背を向けた。
待って
声が出ない。
言いたいこと、たくさんあるのに、声が出ない。
三人は笑いながら歩いていく。
シスターが振り返る。
私の大好きな笑顔を浮かべて。
聞こえないけど、何か、言ってるけど、視界が歪んでよくわからない。
そして、前世の私も振り返り、何か言ってるけど、視界が歪んで、歪んでわからない。
だけど、すごく、優しくて、穏やかな顔で。
ルナちゃん
私を呼ぶ声。
振り返ると、リツさん、マリ先輩、ローズさん、アーサー、サーシャ、アーシャ、ミーシャ、リーフ、ショウ、ノゾミがいた。
お父様やお母様、エリック、ジェシカも、マルコフさん達やフレナさん達、いろんな人がいる。
ゴツゴツした手が、私の手を取る。
見上げると、肩にレリアとグレストをのせたアルフさんが、慈しむように私を見ている。
行くぞ。
そう聞こえて、私は自然とシスター達に背中を向けていた。
ジェシカが笑顔で、手を振る。
ああ、私は本当に、ここにいてもいいんだなと、溢れるような嬉しさが込み上げてきた。
ああ、私は本当に、もう、ルミナス・コードウェルなんだなあ。
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