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決闘⑧

命の恩人

 本当に何いってんのこのキンキンキラキラ。

「ここはウェルダンならば、それに従って私と『決闘』しなさいっ。その男を渡せッ」

 こちらが負ける前提かい。

 私は冷静を装いながら、腹の奥がグラグラとマグマのような怒りが沸き上がる。

「来年の春祭りの『決闘』ですか?」

 冷静に装ってみたが、私にも凄みが浮かんでいたのか、マリ先輩が口パクで「顔、顔」言ってる。

「ふん、馬鹿な女ね。流石貧しい家だけはあるは。来年まで待つわけないでしょう?」

「ならば、直ぐに、でしょうか?」

「当たり前でしょう。本当に頭の回りが悪いわね。暴力しか取り柄のない女の発想ね」

「それは我がクレイハートの恩がある、コードウェルに対する侮辱と取りましょう」

 黙ってギャラリーとなっていたクレイハート伯爵様が、静かに発言。

「お黙りなさい。伯爵ごときが私に意見をするでないッ」

 一斉に非難の視線が、キンキンキラキラご令嬢に突き刺さる。確かに侯爵が上位だけど、クレイハート伯爵様は、年長者なのだ、最低限の礼儀を払う必要はある。この人、どんな教育されたの?

「では、侯爵令嬢、明日『決闘』でございますか?」

 今からでも殴りあってもいいけど。負ける気ないけど。歯、全部へし折ってやるけど。

「ふん」

 キンキンキラキラご令嬢は、派手な扇で口元を隠す。

「本当に暴力しか頭にない女ね。一流は事に望むのに2週間、精神統一するのよ」

 あ、こいつ、素人だ。

 事が起こった時に、いつでも応じるのが騎士や冒険者なのだ。だから、それを前提に常に最高の状態を維持することが出来たら一人前。いざ、出撃するのに、2週間も準備かかるなんて、あり得ない。終わってるよ。それが分かっているのか何人もの貴族男性が眉を寄せている。

「そうですか。なら、まず、ウェルダン様にご許可を」

「ふん。私が言っているのよ。当然よね?」

 おばあ様とエンリケ様が私とお父様を見る。

「問題ございません」

「ルミナス」

「大丈夫です。お父様」

「儂の意思は?」

「私が負けるとでも?」

 アルフさんが少し呆れた顔。

 私、こいつをぶちのめしたい。マリ先輩のありもしない噂を流し、あの子息がおかしくなったのもあいつのせいだからね。それにアルフさんをまるでものみたいに扱った、自分のオモチャみたいに、子供見たいに駄々こねるように。それにおばあ様にも失礼な態度を取った。

 一発、ぶん殴る。

 アルフさんはため息。

「ルナに任せる」

「はい。おばあ様、エンリケ様、私は問題ございません」

 おばあ様はちょっと呆れた顔。

「では、2週間後の無の日。ウェルダンの『決闘』のルールに従ってもらいます。時間は正午。よろしいですか? 人数は?」

 タイマンでやれるよ。

「今回同様に5対5でやりましょう。構わなくて?」

「はい」

 ウェルダンの女騎士を借りよう。

「なら、私達クレイハートからぜひ誰かを出しましょう」

 成り行きを見守っていたマリ先輩が、す、と出る。

 うん、本日はかわいいではなく美しいマリ先輩。歩く姿まで美しい。そんなマリ先輩を一瞥するキンキンキラキラ。

「あら、誰かと思えば汚い皮膚病のマリーフレアではないの? よくもこのような夜会に顔が出せたものね。恥を知りなさい」

 本当にぶん殴ったらダメ?

 そっと拳を握ろうとしてやめた。

 多分、見間違いではない。あれ、ウェイターの格好してるけど、残念金髪美形だよ。ローズさんの後ろにさりげなく、なんで、いるのよ。いつも表情豊かなナリミヤ氏は、無表情でキンキンキラキラを見ている。何かしているのだろう。ここはおとなしくしておこう。

「クレイハート伯爵様は我々ウェルダンがご招待したのです。何かあるなら我々にお申し付けください」

 エンリケ様が静かに言う。

「ならば、直ぐにこの汚いコラスドッテ病の女を追い出しなさい。全く礼儀知らずな。コラスドッテ病の者は面に出ずに部屋に閉じ込めておくべきなのに、それを知らないのかしら?」

「おや。ずいぶん昔の話でございますね。コラスドッテ病は他の感染性疾患に比べたら罹患率が低い。予防すれば防げるものと、30年も前に立証されたのですよ。マリーフレア嬢は完治したので、この場にいらっしゃいます」

 エンリケ様が毒を飛ばす。私だって知ってますよ。コラスドッテ病は顔や手足に爛れが出来て痛みがある。ケースバイケースで、痛みは何年も続いたり、跡が残る可能性がある。

「私も近く、そのような醜い病にかかった者を近づけるなと言っているのですッ。とっとと、どこぞの部屋に一生閉じ込めよッ」

「それはあまりではありませんかッ」

 傍観していた男性貴族が叫ぶ。中年一歩手前の男性は、憎々しい目でキンキンキラキラを睨む。

「無礼者ッ、摘まみ出しなさいッ」

 さ、とおばあ様が男性貴族の前に立つ。

「ナリキンヤ侯爵令嬢、あなたの発言はコラスドッテ病に苦しむ人達に対しての非常な言葉ですよ。上に立つものならば、ご自覚なさい」

 おばあ様が鋭く言う。

「話を戻しましょう。マリーフレア様、クレイハートから誰か出場されますか?」

「はい、ルイース様」

 マリ先輩は美しいカーテシーをする。

「恩ある、ルミナス様の為に、是非ともお願いします」

「よろしいでしょう。誰を?」

「私のメイドローズを。ローズ」

「はい、お嬢様」

 後ろに控えていたローズさんが一歩前に出て、これまた美しいカーテシー。

「よろしいでしょう」

「ありがとうございます。クレイハートの使用人として、恥じない戦いをしてごらんにいれましょう」

「後は私の親友と、私のもう一体の従魔を」

 はい、予想つきます。

「では、最後の一人は」

「はいっ」

 元気に返事をしたのは、後ろにいたミーシャだ。一斉に視線が集まる。サーシャとアーシャが口を塞いでる。おばあ様はミーシャを見て優しく微笑む。

「あら? かわいい出場者ね。どうして出たいの?」

「はい」

 ミーシャが、サーシャとアーシャの手から逃れる。

「ルナ、ルミナスさんにはお世話になっています。なので、役に立ちたいです」

「そうなのね。でもね、未成年は出れないのよ。今回は諦めなさい」

「…………はい」

 しゅんとしているミーシャ。

「あの、なら、私が」

 おずおず手を上げたのは、アーシャだ。

「ルミナスさんは私達の命の恩人です。今こそご恩を返すとき」

 奴隷狩りの時か。まだ、そう思っていたのか。もう、忘れていいのに。

「よろしいでしょう。ルミナスの方は女性ばかりのチームね。ナリキンヤ侯爵令嬢はどうされます?」

「もちろん、選りすぐり者を選出します」

「貴方も出場ですのよ? ご理解頂けます? ナービット伯爵子息は肺を患っていたので出場を断念なさったのですから。ウェルダンの『決闘』は挑んだものは例外を除き出場。当然、お分かりいただいていますよね?」

 有無を言わせないおばあ様。

「出場しない場合は、貴方はどう揶揄されるか、ご覚悟ありますね?」

「ふん、当然出るわ。私はあの最年少で騎士位を取ったウヌスの孫なのよ。暴力だけが取り柄のないものと一緒にしないでくださる?」

 おばあ様のこめかみがピクピクしてる。

「ならば、前日の土の日の午前中には両者共にウェルダンの闘技場に入らしてください」

「ふん」

 キンキンキラキラご令嬢は、私達を鼻で笑い、返事もまともにしないで帰っていった。本当に失礼なやつだね。イスハーン殿下に謝罪もしなかったよ。

 それから夜会の会場は大騒ぎになったよ。

 そんな中、途中で声を上げた男性貴族がやって来た。

「コードウェル嬢、頑張ってください。あの令嬢の鼻をあかしてください。私は貴方を支援致します」

 なんでもこの男性貴族、一人娘がコラスドッテ病で苦しんでいると。なのであのキンキンキラキラご令嬢の言葉が、どうしても我慢出来ずに、発言したそうだ。

 後日クレイハート伯爵家が開発した、コラスドッテ病の軟膏を送ったそうだ。

 私達はおばあ様に言われて会場を後にした。一応私怪我人認定されてますからね。

 しかし、とんだ夜会になったなあ。

読んでいただきありがとうございます

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