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決闘⑦

私はイスハーン

「お止めいただけますか、ナリキンヤ侯爵令嬢。この場はウェルダンの春祭りの夜会ですのよ」

 おばあ様が、すっと出てくる。

 そう、これはウェルダンの夜会なのだ。がちの夜会ではなく、権利や地位を振りかざすのはマナー違反となってる。

 だが、わかっていないのかキンキンキラキラご令嬢は、おばあ様を鼻で嗤う。おい、社交界でおばあ様の影響力知らないのか?

「ふん、田舎の元辺境夫人が私に意見するなど、ずいぶんと礼儀知らずな。さすが、あの罪人の姉ね」

 よし、殴ろう。

 私が前に踏み込む前に、アルフさんが私の手を握り締める。お父様も私のドレスを、キンキンキラキラご令嬢から見えない位置で、そっと掴む。

 傍観していた貴族達が、眉を寄せて口元を隠す。

 おばあ様にあんな口を聞いたのだ。ルイース・ウェルダン。社交界の花、そして、ライドエル最強の辺境伯の妻にして、辺境伯が亡くなったあと、長男が後を継まで、その座を守り続けたのだ。そして、先代の王妃、凶行を行ったバーナード王子の正室と今でも懇意にしている。つまり、最高の地位を持つ方々と、接点を今でも持っている人なのだ。声を潜める貴族達は、キンキンキラキラご令嬢の非難が飛ぶ。

「確かにウェルダンは辺境。所でナリキンヤ侯爵令嬢、いついらしたのかしら?」

「今よ」

「そうですか」

 こいつ、主宰のおばあ様やエンリケ様夫妻にあいさつもしてないの? 普通まっすぐにあいさつしないとダメなんだぞ。順番待ちしてでも、まずごあいさつしないと、礼儀違反。

「ナリキンヤ侯爵令嬢、先ほども申しましたが、ここはウェルダンの夜会でございます」

 無用なトラブルを起こすな。

 暗にそう含ませて、おばあ様は笑みを浮かべる。

「私は王族に連なるナリキンヤ侯爵の娘。咎められる理由はないわ、下がりなさい」

 派手な扇でおばあ様を、しっしと払う。

 よし、殴ろう。

 アルフさんの手が優しく握り、お母様まで私の腕を掴んでくる。

「ふん、田舎者め、なんと礼儀知らずな。そこの、私の声に答えなかったこと、後悔するがいい。ふん、すぐに私に媚を売るでしょう」

 よし、殴ろうッ。

 私のスカートが引かれる。振り返るとミーシャがスカートを握ってる。その後ろでサーシャが、よせ、と口を動かしている。

「それは」

 私が殴らなくても、地を這うような声が響く。

「それは、アルフレッドに対する、脅迫ですかな?」

 黙って聞いていた、イスハーン殿下だ。

 す、と私達の前に立つ。ローズさん効果で、ぴ、としてます。こうしたら、格好いいですよ、イスハーン殿下。さすが、バーミリアン殿下のご子息、威風堂々としている。きっとローズさん効果。マリ先輩の肩越しに、ローズさんが心配そうに見てる。

「ふん、ドワーフ風情が。私に口を聞くとはけがらわしい」

 眉間にシワを寄せるキンキンキラキラご令嬢。いいのか、そんなこと言って、このイスハーン殿下のバックに誰が着いてると思っているんだ。

「お止めなさいナリキンヤ侯爵令嬢。イスハーン殿下、申し訳ございません」

 おばあ様があわててイスハーン殿下に謝罪。エンリケ様夫妻もだ。私達も膝を折る。

「いいえ、ウェルダンの方々。我々マダルバカラははあなた方に対して感謝をしております。『決闘』の出場を認めて頂いたのですから。だが、この令嬢の言葉は聞き捨てならん」

 ぎらり、イスハーン殿下の目が凄みを帯びる。

 睨まれてもないのに、貴族の何人かは視線を反らす。

「なんと嘆かわしい、ライドエルの貴族の威信はどこに行ったのか。このような者に膝を折るなど」

 キンキンキラキラご令嬢が派手な扇で口元を隠し、わざとらしく続ける。

「ふん、ドワーフが、お前達なぞ山に籠って、穴でも掘っておればよいのだ。このような場違いな場所に来るとは、なんと図々しく、礼儀知らずな一族め。さっさと山に帰るがいい」

 私は咄嗟に、アルフさんの手を握り返す。さりげなく、マルコフさんがアルフさんの後ろに。

「お黙りなさいナリキンヤ侯爵令嬢」

 おばあ様の鋭い声が響く。

「この王家に連なるナリキンヤ侯爵令嬢の私に指図するとはいい度胸ね、田舎の辺境伯が。いいえ、元でしたわね」

 このキンキンキラキラご令嬢、おばあ様にケンカ売ったよ。いいのか? おばあ様の影響力、しらないの? 現在の王家に繋がり、あのローグのお姉様なんだよ。ローグは地位はなくても実質ライドエル騎士で、最高峰の位置にいるのよ。

「ナリキンヤ侯爵令嬢。王家の名を落とし得るような発言は慎みなさい。貴女には王家に席はなく、その権利すらないのですよ。申し訳ございません、イスハーン殿下」

 詳しくは知らないけど、確かそうだったはず。大奥様、つまりバーナード王子の年下の叔母だった人は、ナリキンヤ侯爵に嫁ぐとき王位継承権を永久破棄したのだ。つまり、王家と決別している事になり、ナリキンヤの大奥様の血筋で、王位継承権を持つ事は出来ない。だったはず。自信ない。

「それは我がマダルバカルに対する、ライドエルのナリキンヤ侯爵の侮辱と取ろう」

 イスハーン殿下の凄みが増す。さすがに異常を感じたのか、キンキンキラキラご令嬢の顔色が少し悪くなる。

「私はイスハーン。マダルバカル第16代王サイールの子、バーミリアンが長男イスハーン。私が聞いた一言一句違わずに、我が祖父と父に伝えようぞ」

 一斉にざわつく夜会会場。

 キンキンキラキラご令嬢の顔色が一気に悪くなる。

 友好国の王子様に、失礼な発言連発したしね。おばあ様の「殿下」の言葉に気がつけば、こうならなかったはずなのに。

「ナリキンヤ侯爵のご令嬢は、ご気分が悪いようね。誰かお送りして」

 はい、追い出せって意味です。

 数人のウェイターが、キンキンキラキラご令嬢を囲んで夜会の会場の外に連れ出す。後は貴族達が勝手に噂を流してくれるだろう。ざまあみろ。よく、ジェイムス様は、あんなのと結婚するきになったなあ。マリ先輩の爪の垢を煎じて飲んだほうがいいんじゃない?

「そこの、クレイハートの取り巻きッ」

 なんて思っていたら、ウェイターの手を振り払いキンキンキラキラご令嬢が戻って来た。え、私の事よね? 取り巻きって、まあ、取り巻きに見えるんだよね。きっと。

「お前はダイダンの子供を産めばいいのだッ、この役立たずの貧乏人めがッ」

 ぶん殴っていいかな? おばあ様がなんとかしてくれそう。

「お前の男を私に差し出せッ」

「お断りします」

 こめかみに青筋立てながら私は答える。本当にぶん殴ってやるぞ。

「お引き取り願います」

 エンリケ様が静かにいい放つ。とうとう、出ていけだ。

 ウェイターがまさに引きずりだす。

「ならば、私と『決闘』しなさいッ」

「はあ?」

読んでいただきありがとうございます

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