決闘③
解毒
私は医務室に運ばれ、ウェルダン騎士団のヒーラーにより治療される。額のキズは綺麗さっぱり治る。お父様とお母様がほっとしてる。マリ先輩も合流。大丈夫なのに、ミドル・ヒールかけてくれた。やっぱりマリ先輩のヒールは暖かい。
「ルナちゃん、どう? 痛む?」
「大丈夫です、ありがとうございます」
リツさん達も合流し、心配してくれる。バーンもだ。
「やっぱり、連絡して、抹消してもらおうかしら?」
ぶつぶつ、かわいい顔で恐ろしいこと言うリツさん。
「ルナッ」
アルフさんが医務室に駆け込んで来る。
「キズはッ?」
私の顔を腫れ物のように触るアルフさん。
「大丈夫です、マリ先輩とウェルダンのヒーラーが治してくれたので」
「そうか」
肩をほっと落とすアルフさん。
「ルナ君、本当に大丈夫かい?」
「はい、マルコフさん。マルコフさん、今回はありがとうございます。サーシャありがとう。イスハーン殿下ありがとうございます。マリ先輩も」
「いいんだ。これくらいは、な」
「気にしなくても、俺は恩を返しただけだから」
「我が民の窮地を救うのは当然。気になされるな」
「いいのよ、ルナちゃん」
両親も改めてお礼を言ってる。
「でも、良かったね。これで晴れてアルフとルナちゃん結婚できるね」
バーンが我が事のように嬉しそうに言う。
「いや、地竜の彷徨が済むまではできん」
「そ、そうなの?」
そこにおばあ様がやって来た。
慌てて礼の姿勢を取る。
「ルミナス。どう?」
「なんの問題もありません」
「そう」
ふう、と息をつくおばあ様。
「アルフレッド様、イスハーン殿下、皆さん、この度の決闘このような事に本当に申し訳ございません」
おばあ様が謝罪の姿勢。
「ご婦人、頭を上げてください。我々は気にしておりません」
「そうです」
アルフさんとマルコフさんが慌てて答える。
「そうです、ルイース殿。我がマダルバカラの出場を許可していただいたのです。感謝しております」
きり、とイスハーン殿下。こうしていると、バーミリアン様によくにてる。
「あの」
サーシャがおずおず聞く。
「ずいぶん、向こうが騒がしいですが?」
そうなの? さすがの聴覚。
おばあ様が更にため息。
「ええ、ナービットの騎士の容態が悪くて。ずいぶん質の悪いドーピングだったみたい。一人亡くなったわ。この件に関しては皆様が気にする必要はございません。治療は私達、ウェルダンが行います」
私は眉を寄せる。
自分の代わりに『決闘』に出た騎士達に、なんてもんを飲ませているのよ。そして、ため息一つ。
「リツさん、マリ先輩、行ってください」
「「え?」」
おばあ様の容態が悪い、一人亡くなったわ、で動揺しているのに、気がつかないわけない。優しいリツさんとマリ先輩が、動けないのは、私やおばあ様、ウェルダンへの配慮なんだろう。
「さあ、行ってください。私は大丈夫ですから。よろしいですよねおばあ様。マリ先輩、マリーフレア様は高位の解毒魔法が使えます」
「貴女がそう言うなら。ご案内して」
後ろに控えていた中年のメイドにおばあ様が指示を出す。当然ローズさんとリーフが続く。因みにアーサーは奴隷なので、ここまで来れない。そのため、バラック、イレイサーとアーシャ、ミーシャ、ノゾミがここにはいない。
「イスハーン殿下、彼女達についてもらえんですか? 不埒な奴等が目をつけるやもしれませんから」
アルフさんが、王子様に指示。え、いいの?
「む、そうだな。あの美しい方を不埒な奴等から守らねばっ」
だっ、と駆け出すイスハーン殿下。イキイキしてる。美しい方って、ローズさんだけ守るつもり、いや、そうじゃないよね。うん。
「さあ、ルミナス、屋敷に戻りなさい。私は向こうと少しお話ししますから、おほほ」
うわあ、恐ろしい笑顔のおばあ様。
「ルミナス、疲れたろう? さあ、一度帰ろう」
お父様が優しく声をかけてくれた。
そうだね、帰ろう。ドレス、ウエストがきついし。挫いた足はヒールでいいけど、靴、脱いで裸足でいいや。脱ぎ脱ぎ。
なんて思っていると、アルフさんが私を抱える。
「ぎゃぁっ」
「もうちょっとどうにかならんか、その悲鳴」
「あ、歩けますッ」
「裸足で帰ろうとしたろうが」
「まあ、ルミナスっ、はしたないわよっ」
お母様、め、してくる。
バーンがひゅーひゅー、言ってる。後でマルコフさんに確認して締めよう。
「ルミナスは私が抱えるっ」
「あ、お父様、腰をやりますよ。無理しないでください」
ぐわあ、となるお父様。
「あの、アルフさん、靴履くので下ろしてください」
「いいじゃないか?」
「私が困るんですっ」
恥ずかしいです。
アルフさんはちょっと困った顔で、下ろしてくれた。仕方ない靴を履く。
リツさんとマリ先輩達には、連絡してくれることになる。イスハーン殿下が一緒だから、大丈夫だろう。
アーサー達と合流しようと、医務室を出てすぐ。
「おい、隠れた方がいいッ」
サーシャが警告してきた。
さっと、私達の回りをウェルダンの女騎士達が囲む。
「いい加減になさいませっ、これ以上ナービットの名を落としてはなりませんッ」
ナービット伯爵子息が、色違いサーシャに押さえられている。
「うるさい放せっ。ルミナスッ、ルミナス・コードウェルッ、私と来いッ、私の子供を産めッ」
ぶん殴ってもいいかな?
私のスカートにジェシカがしがみつき、お父様とエリックが前に立とうとするが、アルフさんが立ちふさがり、ウェルダンの女騎士達が身構える。
ナービット伯爵子息は、何かにとりつかれたように、私の名前を呼ぶ。わあ、気持ち悪い。ただ、ジェシカまで怯えてる、よし、やはり、鉄拳制裁。
「ルナちゃん、下がってッ」
マルコフさんとバーンが、更に私達を後ろに下げる。
「いい加減になさいませッ。申し訳ございません、コードウェル様ッ」
色違いサーシャが叫ぶ。本当にそっくり。
「うるさいーッ」
ナービット伯爵子息が、何かを振る。
その動きを見て、私は咄嗟にジェシカの抱き締めて視界を覆う。
色違いサーシャの目が見開き、崩れ落ちる。左の腹から、真っ赤な血を流して。
「きゃぁぁぁ、ジェヤード様ッ」
近くにいた女性が悲鳴を上げる。
血のついたナイフを握ったナービット伯爵子息は、わなわな震えてる。
わなわな震えて、ジェシカを抱き締めている私と目が合う。
「うわぁぁぁぁぁぁぁぁッ」
ナイフを握って、こちらに突進してくるナービット伯爵子息。
立ちふさがる女騎士をアルフさんが、後ろに引き倒して前に出る。
バキンッ
「え…………」
根本からナイフが折れ、ナービット伯爵子息が唖然とする。確かにナイフの先は、アルフさんの腹に直撃した。アルフさんは防御もしなかった。
「そんななまくらで、儂の鎧にキズがつくとでも?」
アルフさんが見下したように言う。
「サーシャッ、バーンッ、応急措置しろッ」
「はいッ」
「了解ッ」
サーシャとバーンが色違いサーシャにヒールをかけて、アルフさんが抱えて再び医務室へ。
ナービット伯爵子息は、ウェルダンの女騎士によって拘束された。
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