決闘②
お姫様抱っこ
異様だと思ったのは、案外早かった。
相手の騎士達の動きは素晴らしい。だが、おかしい。
木製で付与も付いていない盾でのシールドバッシュとは言え、アルフさんのシールドバッシュは強烈だ。それを受けて、何度も吹き飛ばされても、ナービットの騎士は立ち上がる。マルコフさんやサーシャがどれだけ打ち返してもだ。アルフさん並みに強いイスハーン殿下も、シールドバッシュと剣で凪ぎ払っても、立ち上がる。ショウは攻撃には加わらず、旋回しながら様子を見ている。飛び上がった時の歓声は凄まじかった。
『素晴らしい根性ッ、何度も立ち上がるッ』
いや、おかしい、って。
アルフさんの模擬の槍が空気を切り裂いて、強かに打ちのめす。もちろん急所を外して。
おかしい、いくら身体能力が高くても、身体強化してても、許容以上のダメージのはずなのに。
サーシャが何かアルフさんにいってるけど、聞こえない。マルコフさんとイスハーン殿下に、何やら指示を出してる。
サーシャが後退し、魔法の準備。え、魔法?
ざわざわざわざわざわざわ。
「ショウ、拘束しろッ」
「ピィッ」
旋回していたショウにアルフさんが指示を飛ばす。一気に下降し、そのまま横回転。風圧でひっくり返る騎士に、ショウがどかりと乗りかかる。そのまま前肢で、両腕固定。サーシャが駆け寄る。
「キュアッ」
え、解毒魔法?
素早くショウが退く。
解毒魔法をかけられた騎士は、一瞬、目を見開く。そして、うめき声を上げて、のたうち回る。苦痛のうめき声。散々吹き飛ばされて、やっと痛みが出てきたの? あ、そうか、感じてなかったんだっ。
「ふざけんなっ、ドーピングだっ」
観客席から罵声が飛ぶ。
そうだ、ドーピングだ。一時的に身体能力をあげたり、魔力をあげたり。そしてそれはほとんどの場合、痛覚を鈍らせる。支援魔法は痛覚を鈍らせることはない。薬との大きな違いだ。
『決闘』が始まる前に、ドーピング薬飲んだんだろう。確かに『決闘』中に、ポーション系は飲んだらダメだけど。
「よくも誇り高いウェルダンの『決闘』を汚しやがってっ」
そう、これは『決闘』。戦場ならドーピングしようが御構い無しだが、これは違う。日頃の鍛練を披露し、技を競い、誇りをかける。
ウェルダン春祭り『決闘』。
ドーピングは暗黙の了解で、ご法度なのだ。
アルフさんが打ちすえ、マルコフさんが拘束、サーシャが解毒魔法。イスハーン殿下は呪文詠唱に入ったサーシャを守る。サーシャは戦闘スキルが高いが、具現系の魔法は得意ではない。種族性かもしれないが、ヒール一つにしても、呪文をきちんと詠唱しないと発動しない。私と一緒。アーサーはかなり詠唱をすっ飛ばして発動させるけどね。こればかりは個人差なんだろうけど。
ショウが時折急旋回して、援護する。
最後の一人を解毒して、ナービット伯爵家の騎士達は誰も立ち上がれない。
さ、と、ローグが手を上げる。
途端に静まり返る会場。
「勝者、鍛治師アルフレッドッ」
うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ
今までにない大歓声が包み込む。
ああ、良かった、やっぱり、アルフさんが勝ってくれた。私は止めていた息を吐き出す。小さいけど締め付けられた胸に、安堵と嬉しさが沸き上がる。
アルフさんが私を見上げる。綺麗なオッドアイで。
ああ、本当に良かった。
割れんばかりの拍手の中、いきなりアルフさんが模擬の槍を投擲の構え。
え?
「お前は私のものだッ」
いきなり腕を掴まれ、椅子から引きずり下ろされる。
履きなれない靴で、私のバランスを崩す。
がつん、と額を椅子のかどにぶつける。
いかん、油断していた。一発、ぶん殴っても、きっとおばあ様がなんとかしてくれるはず。
「ルミナスッ」
「ねえ様ッ」
お母様とジェシカが悲鳴を上げる。
「お止めくださいッ」
色違いサーシャが子息の腕を掴む。
歓声が悲鳴になる。だが、構うもんか。
【火魔法 身体強化 発動】
よし、一発。
拳を握り、子息に一発。
「ぎゃいんッ」
その前に、ウェルダンの女騎士が強烈なパンチが飛ぶ。え、壁まで吹き飛んだよ。
「ルミナス嬢ッ、申し訳ございませんッ、我々が、おりながらッ」
私は握った拳を引っ込める。
ざっ、と私を囲むウェルダンの女騎士達。やだ、カッコいい。
「ルミナスッ、ルミナスッ」
お父様が私に駆け寄って来る。立ち上がろうとするが、いかん、足挫いた。痛い。
「うえーん、ねえ様があっ」
泣くジェシカ。
「大丈夫よ、ジェシカ」
「何を言っているんだっ、すぐに医務室にっ」
お父様が悲鳴のような声を上げる。
足挫いたくらいなのに。
あ、顔、ぬる、っとする。あ、額から結構流血してる。さっきぶつけたからかな。
あ、せっかくのドレスがっ。
「ドレスが汚れるッ」
「そっちかいッ」
お父様が突っ込む。お母様がハンカチで、額を押さえてくれる。エリックは泣くジェシカを抱き締めているが、私を見て真っ青だ。
私はお父様に横抱き、じゃない、ウェルダンの女騎士にお姫様抱っこされて医務室に運ばれた。途中で、舞台でアルフさんの腕を掴んでいるローグが見えた。
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